モノを買う代わりに、定額で商品やサービスを利用するサブスクリプション型のサービスが広がっている。前刀禎明氏は「モノを持たなくても事足りる時代に、モノを持つこと、持たないことの意味を考えてみよう。そこから売るヒントも見えてくる」と言う。

「サブスクは頭を使う機会の喪失にもなりかねない」と前刀禎明氏
「サブスクは頭を使う機会の喪失にもなりかねない」と前刀禎明氏

 シェア型、サブスクリプション(サブスク)型のサービスの市場がずいぶん広がってきました。特にサブスク型は、ゲームや音楽、飲食など、対象分野を広げながら、サービスを増やしています。最近では、ネクタイや洋服、腕時計、バッグといったファッション分野まで隆盛のようです。月額料金を払ってハイブランドのネクタイや腕時計を借りたり、コーディネートサービス付きで洋服を上下セットで借りたりできます。

 モノを持たずに、こうしたサービスを利用することの価値は、なんといっても経済効率性でしょう。今の若者の一番の悩みはずばり「お金」だとも聞きます(カルチュア・コンビニエンス・クラブが2018年12月にインターネットで実施した「若者のライフスタイルに関するアンケート調査」による。調査対象は18~24歳の男女1502人)。

 自分のものにしなくても、使いたいときだけ使える、しかも利用料は定額で、購入するよりずっと安い。自分の収入ではなかなか手が出せない高級品でも背伸びして身に着けられれば、ちょっとした優越感を持てるという人はいるでしょう。また、サービス側で用意されている選択肢から選ぶので、自分であれこれ悩む必要がなくなるのが便利という側面もあるかもしれません。先に挙げたようにコーディネートも込みで洋服を貸してくれるサービスもありますから。

サブスクで価値観が変わる?

 サブスク型のサービスが普及してくると、今の価値観自体が変わってくる可能性もあります。腕時計やバッグなどの高級品をとっかえひっかえできるメリットは徐々に薄れてくるだろうと思います。いつでも誰でも世界的に有名なブランドの商品を身に着けられるようになったら、ブランドをまとう意味のうち、ステータスや優越感といった部分は損なわれていくからです。

 そうなると、クレジットカードと似たような道をたどるかもしれませんね。かつてゴールドカードを持つことがステータスだった時代がありましたが、多くの人が持つようになると、プラチナやブラックなど、さらにハイクラスのカードを各社が用意するようになりました。ブランド品のサブスクも、月額料金を上げて、さらに高価な品を貸し出すサービスへと発展していくことも考えられるでしょう。

持たないことは人を均質化する可能性がある

 いずれにしろ、サブスク型のサービスは今後も当分増えていくでしょう。モノを持たないことには、確かに一定のメリットがある。一方で、警戒すべきは、シェアやサブスクによってモノを選ぶときの“真剣さ”を失う可能性があることです。

 はやりものに誰もが飛びついたバブル期などとは違い、今は限られた予算の中で自分に必要なもの、似合うものを見極めて買う時代。買い物は自分を分析したりモノを見る目を養ったりする好機です。しかし、ここに借りる(所有しない)という選択肢が出てきたらどうなるか。

 例えば、洋服などの場合、利益率や回転率を考えれば、サービス事業者はそもそも人気の見込める商品を貸し出し用にストックするはずです。それらはある意味、誰もが選びやすい無難な商品。コーディネートサービスが付属していなくても、その中から商品を選ぶ限り、失敗は避けやすいでしょう。この商品はいいものなのか、ダサいのか、価格に釣り合っているのか……そういったことで悩む必要がないし、失敗して恥をかく心配もありません。その代わり、「どれを買うべきか」と頭を使う機会は一つ失われます。

何を持って何を持たないか、自覚的に選ぶ機会に

 僕はシェア型やサブスク型のサービスを否定するつもりはありません。合理的で便利だし、不用品を増やす心配もなくなります。ただ、「持たない」という選択肢ができたからこそ、自分にとって所有するもの、しないものの違いを考えてみるべきだと思うのです。

 例えば、僕が持たなくていいと考えるのは、自己表現と直接関係しないものや属人性が薄いもの。オフィス家具などはリースやサブスクで十分でしょう。同じ洋服でも、フォーマルなパーティー用の衣装なんかはレンタルでもかまわない。自分らしさを犠牲にしても場のありようを尊重するものですからね。だからといって、普段着るものまで人任せにしようとは思いません。自由に選べる服装は、僕自身を表現するものだからです。

 でも、これはあくまでも僕の場合。どこからどこまでを自分の持ち物とするか、借り物で賄うか、それぞれが一度考えてみるべきです。便利さというものは、人からものを考える機会を漫然と奪いかねません。

 逆に考えれば、モノを持たないという選択肢ができたことは、自身の価値観を見つめ直す機会が1つ増えたとも言えます。商品開発やマーケティングに関わる人なら、そこから自身が手掛けるサービスや商品の価値を見直してみるのもいいでしょう。持たずに済む時代に所有したいものとは何か、どんな意味があるのか。そこに現代のモノの価値が隠れているのです。

(構成/赤坂麻実)