消えた「Apple」文字ロゴにみるアップルの針路変更

 あるいは、単純にプロダクト名から「i」を除こうとしている側面もあるのではないかと思います。「i」はもともと、スティーブ(・ジョブズ元CEO)が「internet」「individual」「instruct」「inform」「inspire」といった意味を込め、1998年にパソコンの製品名に冠したのが始まり。これが「iMac」シリーズです。以降は音楽プレーヤーからスマートフォンまで、さまざまな製品に「i」がつくようになりました。

 しかし、2014年に発売されたスマートウォッチは「AppleWatch」であり「iWatch」ではなかった。インターネットに常時接続するデバイスが当たり前の時代、「i」は役割を終えたのでしょう。現在の主力商品である「iPhone」は今後、名称がどうなっていくのか、気になるところです。

 名称に関して興味深いことがもう1つ。アップルの公式サイトや製品パッケージなどにおいて「Apple」というブランド名のスペルアウト(アルファベットで略さず表記すること)が姿を消しつつあります。古くは「Apple Garamond」というフォントで記された「Apple」の文字がリンゴのマークと共にサイトやパッケージに使われていましたが、それがゴシック体に変わり、今は文字自体が省かれてリンゴのマーク1つで代替させるようになっています。

アップルストアの外壁にも「Apple」の文字はない(写真/Shutterstock.com)
アップルストアの外壁にも「Apple」の文字はない(写真/Shutterstock.com)

 リンゴのアップルマークが十分浸透したから、シンプルにマーク一つで表現するようになった。スターバックスのロゴから「STARBUCKS COFFEE」の文字がなくなったのと同様の流れではあります。しかし、アップルの場合には、もう1つ意味が隠されているような気もします。

GAFAの一角、アップルはどこへ行く?

 市場を席巻する巨大企業をまとめてGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などと呼びますが、4社のなかで、アップルは他の3社と少し性格が違います。他の3社のプロダクトが、圧倒的な便利さでユーザーの生活に浸透してきたのに対し、アップルの成功にはブランドやプロダクトに対するユーザーの思い入れが介在しています。

 それはスティーブがまさに目指したところでもありました。愛されて使われるプロダクト。ユーザーに所有する喜びを感じてもらうこと。万人に受け入れられるよりも誰かにとって特別な存在になることを、スティーブは目指していました。その頃のアップルには格調高いGaramond体の「Apple」がふさわしかったことでしょう。

 しかし、iPhoneというコンシューマー向け製品が大ヒットし、スマートフォンというITインフラを担うようになり、事業規模がこうも膨れ上がっては(2005年の売上高が139億ドル、2015年は2337億ドル)、その方針のままではいられない。グーグルやアマゾンのように、多くの人の生活にさりげなく溶け込む路線に舵(かじ)を切るのも1つの道です。アップル好きとしては寂しい気持ちもありますが、これが大きくなったアップルの宿命といえるかもしれません。消えた文字ロゴは、アップルの針路転換と無関係ではないように思えます。

 と、ここまで想像を広げるかどうかはともかく、「iTunesがなくなってしまう」とただ不安になるよりは、これを起点にアップルがどこへ向かおうとしているのか、考えてみるほうが面白いし有意義です。GAFAの動向に敏感な人は多いでしょうが、個々のニュースをバラバラの情報のまま受け取っていても身になりません。ニュースに接したら、各社の狙いや大きな流れを想像するクセをつけること。それが、戦略的な思考力や想像力の向上につながるのです。

(構成/赤坂麻実)