はやりのキーワードや一見分かりやすい言葉には、無意識のうちに決めつけや思い込み、本質を見失った思考停止が紛れ込むことがある。前刀氏が今回、例に挙げるのが「らしさ」。企業のブランディングや強みを語る上でもよく使われるこの言い回しは、使い方によって真逆の効果をもたらすという。

米アップルやディズニーなどの企業で、ブランドとしての「らしさ」を常に考えてきたという前刀禎明氏
米アップルやディズニーなどの企業で、ブランドとしての「らしさ」を常に考えてきたという前刀禎明氏

 先日、AI(人工知能)の関連製品を集めたという展示会に行きました。展示会のタイトルにも「AI」が入っていましたが、大量のデータを自動処理するツールや、印刷されたテキストをデジタルデータに変換するOCRのような製品も多く、やや期待外れでした。それらが悪いわけではありませんが、AIの名の下に陳列するには物足りない。米グーグルや米アマゾンが取り組んでいるAIと比べると、周回遅れの印象です。

 このとき、僕が思ったのは、同じ言葉を使っても、定義が人や企業によってさまざまだということ。それから、AIという流行の言葉に飛びつく企業が多いということです。

 AIは、未来っぽさや新しい生活・働き方などを想起させ、製品・サービスの進化をアピールしやすいキーワードになっているのでしょう。だから、AIと呼ぶには物足りないような製品にも名を冠して売り込んでいく。

 家電などでもありがちです。家電量販店の売り場で、意外な製品がAIをうたっているのを見つけ、説明を読んでみたところ、やっぱり「これが?」と首をひねってしまう。そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。企業を変えるのは消費者です。流行の言葉で目先を変えただけの製品にすぐ飛びつくような消費者がたくさんいる(と見ている)から、企業も小手先のやり方に走るのでしょう。

都合よく使われる「らしさ」という言葉

 これははやりのキーワードに飛びつく例ですが、言葉というのは、考えなしに使うと意味が大きく変わってしまうところがあるのです。昔から使われているもので僕が最近、気になっているのが「らしさ」。とあるメーカーで、若手社員のアイデアに対し、取締役が「わが社はそれ、得意じゃないんだよね」「それはちょっとウチらしくないかな」という言い方をして、却下してしまったそうです。これが考えうる最もあしき「らしさ」の使い方かもしれません。

 確かに、企業らしさをその企業の伝統と言い換えられる場面は多いと思います。ただ、伝統を守ることは、新しい考えや変化を拒むこととは違います。

 例えば、歴史ある飲食店や食品メーカーにとって、代表的な長寿商品は守るべき“伝統の味”でしょう。ただ、伝統の味をレシピと定義すると、時代によって移り変わる人々の味覚や嗜好に取り残されて客が離れてしまうことがあります。そもそも原材料の持つ味も時代によって変わる中、レシピ自体にこだわったところで、以前と同じ味にはならない場合がある。移ろいやすい表面的な部分に「らしさ」を求めるのは間違いなのです。

 では「らしさ」や伝統とは何か。それはもっと本質的な部分です。食品関係なら「食べた人が最高の笑顔になるお菓子」「いつの時代もみんなに喜ばれるソース」など、企業や商品の存在価値を言い表すものでなければいけません。長く続いた会社の経営者はよく「変わらないために変えてきた」と言います。「(会社の存在意義が)変わらないために(こだわるべきでない枝葉の部分は)変えてきた」という意味です。「当社らしさ」「ウチの伝統」を振りかざして変化を拒むのは、前例主義にとらわれた思考停止の言い訳でしかありません。

 実際に、さまざまな企業の話を聞いていると、会議をダメにするような「らしさ」の使われ方がかなり多いと感じます。「これはいいんじゃないですか、ウチらしくて」「そうですよね」というようなやりとりは実にありがち。「ウチらしさ」について、明確な定義も持ち合わせていなければ、話し合って共有したこともないのに、曖昧なままそんな言葉を発し合って、なんとなく物事が流れていく。

 以前、この連載でバズワードの落とし穴について取り上げました(関連記事「“バズワード”が飛び交う会社にイノベーションは生まれない」)。「らしさ」は新しい技術用語などではないのでつい見逃されがちですが、これも同様の言葉と言えるかもしれません。