アイデンティティーを示すのにロゴに頼りすぎるな

 メーカーとしての独自性やアイデンティティーを消せと言っているのではありません。自社やブランドのアイデンティティーを顕示するのは重要です。ただ、製品デザインそのもので名乗る(アイデンティティーを示す)ことができず、ロゴ頼みになってしまうことに不満を感じているのです。

 例えば、ポルシェの自動車やエルメスのバッグは、遠くから見ても一目でそれと分かります。大手ブランドのスニーカーも全般に、最近はロゴを入れずにマークのみにするデザインが増えた印象です。スターバックスコーヒーの店舗や看板デザインも、認知が進んだ分だけシンプルになり、また周囲の環境に柔軟に合わせて工夫するようになってきました。日本の企業でもマツダの自動車なんかは特徴が外観にも比較的表れているように思いますね。無印良品のさまざまな製品も、使う色などからブランドとしてのアイデンティティーを維持しています。

 ところがデジタル製品の分野では、こうしたデザインの進化例が少ない。他社製品と代わり映えのしないデザインをしておいて、最後にロゴを入れているだけのケースが多いのではないでしょうか。しかも、そのロゴも社内の内規で細かくサイズを決められており、デザインを壊してしまうことがあります。そろそろ思考停止はやめて、この製品に本当にこのロゴを入れるべきかどうか見直してもらいたいものです。

 ロゴを絶対に排除しろと言いたいのではないのです。デザインと一体化しているならいい。デザインやその使い勝手に引かれた人、どこの製品か知りたいと思った人が初めて気づく。逆に情報を求めていない人にうるさく主張しない――そんなロゴのあしらい方があるはずです。

奇抜なデザインに走るべからず

 ただし、ロゴに頼るなと言ったからといって、製品デザイン自体で奇をてらうのは、それはそれで考えものです。競合メーカーや競合製品との差異化のための差異化をしたデザインはすぐに見飽きてしまい、ブランドの代名詞といえるようなデザインにはなり得ません。

 芸術作品なら、訳もなく凹凸があってもいいし、意味不明なラインが入っていてもいい。しかし、工業製品はそういうわけにはいきません。ある程度、理に適ったデザイン、使いやすいデザインが求められます。米アップルの「iPhone」シリーズを例に取れば、「6s」のデザインは「6」に対して、“未来感”でいえば、あえて一歩後退しています。6のツルツル感から少し摩擦係数を上げたような素材を採用し、筐体の厚みもやや増して、ユーザーが手を滑らせて落下させてしまう確率を下げようとしたのだと思われます。

 コンセプトや訴求したい機能などに見合ったデザインにすることも大切です。最近販売が好調なシャープのスマートフォン「AQUOS R」「AQUOS R2」も一つの例と言えるかもしれません。親しみと先進性の両立を目指して「Warm&Technology」というコンセプトを掲げているそうですが、サムスン電子の「Galaxy S」シリーズやファーウェイの「Pシリーズ」などに比べると、デザイン面ではあまり先進的とは言えない。ただ、幅広いユーザーに使いやすいと感じてもらうために、あえてこういうデザインを採用するのなら、“ユーザーにとって価値あるデザイン”になり得ます。いつでもどこでも斬新なデザインが最良というわけではないんです。