過去2回のこの連載で、「日本の電子機器メーカーは海外企業の下請けになってしまうんじゃないか」という危機感を指摘し、日本メーカーがプラットフォームビジネスを生み出せずにいる理由や打開の道を考察した前刀禎明氏。今回は逆に、プラットフォームづくりで成功している企業はなぜそれが可能だったのか、米グーグルを例に解説する。

【過去2回の記事】
日本メーカーは下請けになるのか 足りぬ集団の創造性
日本メーカーの下請け化は“ものづくり神話”が原因

 グーグルが何の会社なのか、聞かれてすぐに答えられる人はいるでしょうか? ひと昔前なら“検索エンジンの会社”として認識されていたと思います。ですが、今は、スマートフォン向けにAndroid OSを提供し、GmailやGoogleフォトなどのクラウドサービス、Google Play Musicや傘下のYouTubeによるコンテンツ配信サービスもごく一般的になっています。最近ではAI(人工知能)やロボット関連の企業を次々に買収しているし、スマートスピーカー「Google Home」やWi-Fiルーター「Google Wifi」など、ハードウエアまで手がけ始めました。もはや誰も検索エンジンの会社だとは思っていないでしょう。

(画像提供:グーグル)
(画像提供:グーグル)

 グーグルが自社開発し、スマートフォンやスマートスピーカーで使用されている音声アシスタントは「Google Assistant」という名称ですが、これが同社の今のビジネスそのものを表している気がします。生活のすべてをグーグルがアシストする。グーグルの力で、生活をよりシンプルに、快適にする。グーグルの事業目的はそこにあるように見えます。だから、ハード、ソフト、通信インフラなどの区別なく、生活に近い部分から、どんどん手を付けていくわけです。

グーグルが発売したWi-Fiルーター「Google Wifi」
グーグルが発売したWi-Fiルーター「Google Wifi」

 なぜこんな話から入ったのか。さまざまな会社を見るときに、こうして定義し直すのは大切なことです。いつまでも数年前の感覚で捉えていたのでは、会社や産業の将来像を見誤ります。例えばメーカー、製造業という産業自体も捉え方を変えていくべきです。これは自社の強みを考えるときも同じ。「うちはメーカーだから、どうもサービスは苦手で……」と言っていられる時代は、もはや過去になりました。

グーグルはGoogle Homeでもうけるつもりがない

 生活に密着してあらゆるサービスを提供していこうというグーグルですが、同じ生活密着型でも米アマゾンと違って、モノを買ってもらってもうけようとはしていません。その分、どこで収益を上げているのかが一般には見えにくいですよね(親会社である米アルファベットの売り上げは8割以上が広告収入)。

 Google Homeが日本で発売されたのは2017年秋のことですが、スマートスピーカーとしては価格が抑え気味。大型量販店では値引きしているところもあります。これを「販売が想定数を下回って焦っているんじゃないか」とみるのは間違い。彼らはハードでもうけるつもりがないんです。ハードは安売りしてもいいから、まずユーザーをつかむ。ユーザーの情報をつかんで、うまい広告を打ってもうける。それがグーグルのビジネスモデルです。

 ハードだけでなく、その周辺のサービスやビジネスでもうけるという意味では、プリンターなどとも共通するビジネスモデルともいえるかもしれません。プリンター本体は最近では数千円で買えますが、実際にプリンターを使って印刷するにはインクを買わなければならない。プリンターは消耗品で利益を上げるビジネスになっています。

 取材現場で見かけるICレコーダーなどは、これと逆のビジネスです。消耗品がなく、ハード単体で成立している分、ハードをある程度高いまま売るしかなく、利幅は小さい。その中で利益や他製品との違いを出すため、差別化のための差別化に走ってしまうメーカーが多いのが実情です。

自己主張が強すぎない製品デザイン

 グーグルのハードウエア製品は、外観デザインも洗練されてきた印象があります。スマートスピーカー同士のデザインを比べるなら、私はアマゾンの「Amazon Echo」よりGoogle Homeのほうに軍配をあげます。

Google Home(左)とAmazon Echo(右)
Google Home(左)とAmazon Echo(右)

 Amazon Echoは筒形の筐体の前面に「amazon」とロゴが入っていますが、Google Homeは前面にロゴはなし。筐体背面には「G」と1文字入っているだけ。あとは音声認識の際に、天板に搭載したLEDランプが同社ロゴに使われている4色に点灯するぐらいで、社名やブランド名の主張は控えめです。それでもすでに「G」だけでグーグルと分かるブランディングが成立しつつあります。Gのマークはこの先、こうして使われることで、米アップルのリンゴマークのように認知度が高まっていくのでしょうね。

Google Homeは背面に「G」の1文字が入っているだけ
Google Homeは背面に「G」の1文字が入っているだけ
Amazon Echoには筐体の前面下部に「amazon」とロゴが入っている
Amazon Echoには筐体の前面下部に「amazon」とロゴが入っている

 両社のデザインには、その企業の姿勢が表れているように思います。アマゾンは日用品を含むあらゆる商品を取りそろえて日常に入り込むことで、「アマゾンがなくては生活できない」と感じさせてユーザーを囲い込む戦略を取っています。グーグルも日常に入り込んでいますが、ユーザーとの関わり方はもう少しライトです。「Google」というブランドを前面に押し出してくるのではなく、さりげなく浸透させていく。GoogleマップやGoogleフォトなど、グーグルのサービスだとあまり意識することなく利用している人は多いでしょう。もともとグーグルの本業だった検索にしても、スマートフォンに話しかけたり、スマホのホーム画面に常駐している検索窓に入力したりする使い方が増えて、ハードルが低くなっています。グーグル側から関連情報やレコメンドも提供されるので、意識的に検索する回数自体、減るのかもしれません。

グーグルに学ぶ「シンプル化」という考え方

 グーグルのサービスは、生活をシンプルにするアシストをするというコンセプトだから、個々のハードやサービスの機能は絞り込んでも使い方を分かりやすく、価格はリーズナブルに、デザインは主張しすぎず、生活空間になじみやすく作られているのだと思います。また、ハード単体で勝負していないことがハードの価格の抑制につながり、結果的にハード単体の売り上げにプラスに働くこともある。加えて、技術のオープン度が高いので、サードパーティー品もどんどん世に出る。ユーザーから見ると、一般的なメーカーの製品より無難で、“お得”に感じるでしょう。そうしてユーザー規模を拡大していき、グーグルのプラットフォームビジネスがますます成功するという循環になっているのです。

 機能・性能はある程度割り切り、部屋に置いて違和感のないデザインやリーズナブルな価格に重点を置いてハードを作るという意味では、スウェーデン・イケアも今後が気になる存在です。家具やインテリアが中心でしたが、最近はBluetooth接続のワイヤレススピーカーやAI対応のスマート照明などを発売しています。今後、独自のスマートスピーカーなどを売り出すことがあれば、デジタル製品の市場でもかなりの存在感を放つようになりそうです。

 こうして話をしてきたからといって、私は日本メーカーがグーグルっぽいものやイケアっぽいものを作ることを願っているわけではありません。グーグルやイケアから学べるのは、自らの事業を再定義すること、“シンプル化”することです。すでにある製品をベースに考えて機能などを無理やりそぎ落とすようなことではありませんよ。本当のシンプル化は、製品やビジネスの目的を究極的に明確にすること。そうすれば、やるべきことはおのずと定まって、あってもなくてもいいようなものがついてくる余地はそもそもなくなってくるはずなんです。日本のメーカーは、本当に価値あるものを生み出すために、いま何を目指すべきか、目標を再定義するべきですね。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年5月25日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています