常に“目的”をスタート地点にして考える

 今でも、ハードが価値を生むシーンはあります。例えば、昨今は高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えによる自動車事故が目立ちますが、これを構造的に防止するペダルを熊本の小さな町工場が発明して話題になりました 。こういうところは今後もチャレンジを続けてほしいものだと思います。問題は、ハードだけで解決できない課題に向かうときもハードのことしか考えられないこと、ハード偏重主義に陥るなかで何が価値を生んでいるのかを見落としてきたことです。

 ハードを作ること自体が目的化してしまい、そもそも自分たちが作るハードの究極的な価値がどこにあるのか、きちんと考えないままになってしまったのだと思います。そのせいで、新商品のウリが単なる性能アップだとか、省エネだとか、デザインが奇抜なだけだとか、いろいろとゆがみが出てきてしまったわけです。

 機器やデバイスが出そろい、機能や性能も充実した今は、ハード単体で新しい価値を提供しにくくなっています。だからこそ、目的から考えることが大切です。どんな価値を生み出したいのか、ハード、ソフト、サービスをどう組み合わせればそれを実現できるのか。そう考えていけば、コンセプトがブレることも、ハードの性能にばかり気を取られることもありません。デザインも実現したい機能に従う形で決まっていくはずです。

 飲食産業で「伝統の味」という言葉をよく聞きますが、レシピを過去いっさい変えていないところは、ほとんどが途中で閉店や倒産に追い込まれています。長く続いているところはみんな、少しずつ時代ごとの味覚や材料の変化に合わせて工夫をしている。なぜなら、最初に生まれたものを守ることが目的ではなく、自分たちが美味しいと思うもの、お客さんに美味しいと思ってもらえるものを変わらず提供し続けることが最重要だと考えているからです。

この際、コーポレートスローガンを使い倒せ

 最近、日本でも関心が高い「Amazon GO」なども企業としての目的とそのための製品やシステムを考えるうえで、好例だと思います。米アマゾンは2018年1月に米国にコンビニ風の小売店「Amazon GO」1号店をオープンしました。会計に時間を取られることなく、ただゲートを通過するとほぼ自動で決済できるのが特徴です。専用アプリをインストールしたスマートフォンを入店時にかざして認証すれば、Amazonアカウントに対して自動的に買い物金額が請求されるしくみです。

Amazon GOの店舗には、意外にもスタッフが多い(写真/山下泰仁)
Amazon GOの店舗には、意外にもスタッフが多い(写真/山下泰仁)

 買い物を把握するしくみの詳細は明らかになっていませんが、天井に数種類のカメラやセンサーを設置し、ユーザーが棚から取った商品を認識しているようです。日本のコンビニなどは、客が自分で商品に付いた二次元コードやICタグを読み取る“無人レジ”の導入を検討していますが、これとは角度の違うアプローチで、会計に関するスタッフの省力化を実現しています。

 ただ、実際に店舗を訪問した人の話では、スタッフが多いことに驚いたそうです。Amazon GOではスタッフが会計以外の業務に集中できる分、商品の補充や客への案内などに注力できるので、結果としてサービスの質が向上しているとのこと。そういうところに、人々の期待を超える体験価値が生まれるんですよね。無人レジの場合は、客にスタッフの仕事を肩代わりさせるぐらいで、そもそも人手不足の対策を目的としているので、客側に感動が生まれにくそうなのが残念です。

 こうして見ていくと、日本の企業は惜しいなとしみじみ思います。テレビCMなどを見れば、最後にその会社のコーポレートスローガンなどが表示されたりします。どれもシンプルで本質的で、いいメッセージです。ああやって「そもそもこの会社は人々に何を提供する会社なのか」ということを考えるのはとても重要なことなんです。

 ただ、もどかしいことに、スローガンと実際の製品・サービス開発が断絶してしまっている企業が多い。スローガンを単なる飾りにしておかないで、その思想をしっかりプロダクトに落とし込んでいってほしいですね。そうして目的志向で自分たちの事業を再定義できたら、日本企業が新しい価値を生んで、世界中の企業を自分たちのプラットフォームに呼び込める日も来るはずです。

(構成/赤坂麻実)

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(日経クロストレンド会員限定記事となります)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年5月1日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています