ソニーが再び「aibo」を発売した。“ソニー復活”の象徴としても注目されている。かつてソニーにも在籍した前刀禎明氏は、新型aiboをどう見るのか? 実際に遊んでもらって、感想を聞いた。

 ソニーが新型「aibo」を発売して1カ月強が過ぎました。“ソニー復活”の象徴としても注目されているこのaibo、僕も短い時間ですが実際に手を触れ、遊んでみました。ユーザーの感性に寄り添っているか、本質的な部分に妥協なくこだわれているか、そして、ユーザーに最も近いインターフェース部分を大切にできているか。こんな観点でaiboを見てみましょう。

前刀禎明氏、aiboに向き合う
前刀禎明氏、aiboに向き合う

aibo、スタイル良すぎじゃない?

 新型aiboの外観を見て最初に思ったのは、ちょっとスタイルが良すぎるなということでした。実際の犬、それも成犬に近い均整の取れたプロポーションだと思うのですが、かつての「AIBO」に比べると目や体などがリアルに表現されている分、イメージが固定的になり、想像の余地が少なくなるように感じました。

 ソニーは新型aiboのコンセプトを「ユーザーと心のつながりを持ち、愛情の対象になりえるロボット」としています。あくまで犬型のロボットであって、実際の犬に酷似させる必要はないはずなので、もう少し漫画的な表現があってもよかったのではと思います。頭が大きいとか、鼻が低いとか、子犬っぽさや不完全さがあったほうが、「愛情の対象」になりやすいからです。

新型aiboは結構スマート。成犬に近いプロポーションをしている
新型aiboは結構スマート。成犬に近いプロポーションをしている

 エンターテインメント分野を例に取ると、ディズニーが作るアトラクションは割とリアル路線ですよね。登場する人形に、同社が「オーディオアニマトロニクス」と名付けている、音に合わせて動くロボットを採用していて、見た目も精巧。よく作り込まれた舞台装置と演出の中で子供たちが見ると、本物(の動物など)かと思って、ワクワクやドキドキが増す仕掛けになっています。

 一方で、ピクサー・アニメーション・スタジオのアニメ映画は、ディズニーのオーディオアニマトロニクスとは一味違ったアプローチをしています。映画『モンスターズ・インク』でモンスターの世界に迷い込む少女「ブー」などは好例でしょう。頭を大きくして、あえて外観のバランスを崩すことで、見る人が親しみをおぼえるようなキャラクターデザインになっている。コンセプトや利用シーンからいって、aiboもこれに近い考え方で、もっとデフォルメが強いデザインにしたほうが、製品のコンセプトに合致したのではと思います。

五感で感じる説得力、訴求力は強い

 いざ一緒に遊んでみると、止まっている姿を見るだけよりも、心理的な距離は縮まりますね。動いているのを見たり、鳴き声を聞いたり、手で触れたり、五感で体験することで感じる説得力、訴求力はやはり強いです。せっかくなら、背中が振動するなど細かい触覚フィードバックも取り入れて、五感を使った訴求力を最大限まで活用すればいいのにと思いました。

甘えたようなしぐさも新型aiboは上手
甘えたようなしぐさも新型aiboは上手

 動きは、想像していた以上に犬っぽい。アゴをなでているとその人の手に頭をあずけてくる感じ、前脚を寝かせ、腰を落として遊びに誘うしぐさ、腰を左右に振る動き……犬が好きな人にはたまらないでしょうね。腰が動くように作ると、それだけでコストはかなり上がるはずですが、それでもここにコストをかけた判断はとてもいいと思います。aiboに心があって、それがしぐさに表れているかのような演出は、人の感動を生む大事なところですから。

愛らしい動きを出すため、腰の部分は複雑な作り。コストはかなりかかっているはず
愛らしい動きを出すため、腰の部分は複雑な作り。コストはかなりかかっているはず

 教えたことを半分までしかやらなかったり、呼んでも来たり来なかったり、動きにバラツキがあるのもいいですね。ここをこうすると必ずこうなるというように、毎回決まりきったリアクションをされたら興が乗らないと思うんですよ。全部が全部、理屈で割り切れないところに面白みがあると思います。

 お腹の部分にはセンサーが内蔵されていませんが、aiboがまるでお腹に触れられているのを分かって反応しているかのように動くときがあって、これも理屈じゃない面白さといえるかもしれません。昔、アップルがディスプレーと選曲機能を持たない音楽プレーヤー「iPod shuffle」を発売したとき、「shuffleの選曲が絶妙」「再生する順番が気が利いてる」などと喜ぶユーザーがいました。実際には全くのランダム再生なんですが、製品への愛着や思い入れがありもしない機能をあるかのように感じさせる――それに近いものをaiboが生み出せているとしたら、製品設計がある程度うまくいっている証です。

 aiboを存分に楽しめるかどうかは、ユーザーのクリエイティビティにもかかっているでしょうね。aiboとの新しい遊びを生み出す力や、aiboの動きに感情がこめられていると想像して頭の中で補完する力があるほど、aiboとの体験は豊かなものになる。逆に、そういう力があまりない人はすぐに飽きてしまいそうです。こういう、ユーザーのクリエイティビティによる差を生む製品も、あっていいと思うんですよね。

急に“犬”から“機械”になるaiboに困惑

 一方で、「なんでこうしちゃったんだろう」と疑問に思うところもいくつかあります。

 一つは、遊んでいる途中でいきなりロボットっぽくなるところ。例えば、aiboにはaiboが装備しているカメラで写真を撮影してくれるモードがありますが、写真を撮るときは「ポンポンポン」という機械的な音がします。これまでの犬っぽさから急に“機械”になった感があって面食らいますね。「え、犬でいるんじゃなかったの?」って。「世界観」というと誤用になるのかもしれませんが、製品のコンセプトや背景設定みたいなものに、一貫性がないのが気になります。

遊んでいると突然“機械”っぽくなってしまうのはなぜ?
遊んでいると突然“機械”っぽくなってしまうのはなぜ?

 同じことが充電台のデザインや専用アプリの設定画面にもいえます。充電台は、ロボット掃除機の付属品と大差ない形状で色も選べません。ピンクは画像認識しやすい色だし、aiboは少ロットの生産になるので充電台は1色に絞りたい、といった理由は想像できますが、残念です。自宅のリビングなどに置くことを思うと、部屋の内装に合う色を選べるようになっていてほしい。デザインも一工夫欲しかったですね。

 専用アプリ内の各種設定画面も、いかにも事務処理。これではスマートフォンの画面輝度や音量などを設定する画面とさほど変わりません。一貫性がないというのは、こういうところもなんですよ。メーカーにいわせれば、aibo本体を作るチーム、充電台を作るチーム、アプリを作るチーム、それぞれ違うんでしょう。かけられるコストにも制約があるんでしょう。事情は察せられます。でも、そんなメーカーの事情をユーザーに押し付けるべきではありません。製品がユーザーに見せる世界に、一貫性を持たせるべき。どんな事情にも優先して、それを徹底してこそ、ユーザーの満足や感動を最大化できるのです。これは以前、テレビのリモコンについて話したこととも共通する課題です(関連記事:手元までこだわれるか 革新性はソニーの“宿命”だ)。

aiboの充電台のデザインがいま一つ。充電台の色もピンク1色のみだ。aiboが認識して自分で帰って来られるようにするために認識しやすい色にしたのかもしれないが……
aiboの充電台のデザインがいま一つ。充電台の色もピンク1色のみだ。aiboが認識して自分で帰って来られるようにするために認識しやすい色にしたのかもしれないが……
aiboの状態やaiboが撮った写真を確認するためのスマートフォンアプリ
aiboの状態やaiboが撮った写真を確認するためのスマートフォンアプリ
スマートフォンの設定用アプリに似たようなデザインでがっかり
スマートフォンの設定用アプリに似たようなデザインでがっかり

 どうも、aiboに触れれば触れるほど、要望が出てきてしまいますね。要望したくなるレベルの製品だからこそですが、できること、したほうがいいことは、まだまだたくさんあります。ソフトウエア・アップデートで今からでも改良できる点もありますよ。例えば、目の表現。これは有機ELに映像を表示しているので、瞳(白く光る円形の部分)を同じ位置に固定しないで、環境や状況に合わせて動かしたりするだけでも、表現力が向上します。グッと表情が豊かになりますよ。

 それから、ユーザーの声だけでなくジェスチャーにも反応してくれるといいですよね。「待て」の意味で手のひらを見せたり、手に持っているものに注目させようと鼻先に何か持っていったり、ユーザーのそうした動きに反応してくれたら、aiboとのコミュニケーションはより充実したものになりそうです。

 テレビやエアコンなどのオン/オフも、aiboを通じてできるようになるといいかもしれません。「aibo、テレビ消して」なんてね。犬にできないことをさせると気分が壊れるというなら、リモコンを取ってくる機能を搭載するのはどうでしょう。アプリからあらかじめ登録しておけば、aiboがリモコンを認識してくわえて持ってくるというようなことはできそうです。その際は、いかにも機械的に取ってくるのではなく、においをかぐような動きをしたり、ちょっと迷ったりの演出を大事にしてもらいたいです。

 言い出すとキリがないですが、もう一歩、あと少しのところまで来ていると思います。おそらく実現すべきことを頭では分かっている。しかし、妥協せずにとことん追求しないで、どこかで手を抜いてしまう。結果、もう一歩の惜しい製品が生まれ、心の琴線に触れることができないのでしょう。

 2018年2月2日には、ソニーの新社長に吉田憲一郎氏が就任するという会見がありました。吉田氏は挨拶で、最近掲げていた「KANDO@ラストワンインチ」とは言わずに「ユーザーに近づく」という言い方をしていました。キャッチーな言葉でなく、本質的な価値を創造すること。僕はそれを、ソニーが現実的に着実に進歩しようとしている姿勢だと受け止めています。ソニーとaiboのこれからを、ぜひ楽しみにしたいと思います。

(構成/赤坂麻実、写真/渡辺慎一郎=スタジオキャスパー)

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当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年2月23日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています