明確にすべきは「ソニーらしさ」の正体

 もう一つ、吉田流で変えてほしいのは、言葉。社内外に発するメッセージに、分かりやすくて人の心に届きやすい言葉を選んでもらいたいと思っています。格調の高い言葉も目新しい言葉も必要ありません。

 手前みそになりますが、僕が「iPod mini」の一転集中突破でデジタルミュージック革命を起こそうとしていたころ、社内に向けて「“やっぱり・なるほど・ずっと”を作ろう」と呼びかけました。「音楽を楽しむならやっぱりiPod miniだよね」、使ってみて「なるほどiPod miniはいい」、そして「ずっとiPod miniを使い続けたい」――そんな気持ちになってもらえる製品を目指す。これは顧客資産を構成する要素、ブランド・エクイティ(ブランドとしての価値)、バリュー・エクイティ(客観的な価値認識から生まれる価値)、リテンション・エクイティ(顧客との関係を維持することから生まれる価値)の3つの価値を言い換えたものです。マーケティング用語を使わずに、誰にでも理解できる言葉を選んで、本質的な目標を伝えました。どの事業にも、どの製品にも同じことが言えるはずです。

 ソニーは他の日本メーカー同様、円安の追い風に乗って業績を回復したこともあって、最近は「復活」と表現されたりします。同時によく見かけるのが「ソニーらしさ」を取り戻すとか取り戻さないとかの議論です。しかし、人によって想起するものがまちまちで、ある人は「先進的なエレクトロニクス製品」のことだというし、ある人は「創業時代の古き良きムード」だという。それどころか、漠然としたイメージで使っていて、具体的に思い浮かべるものは特にないという人もいるでしょう。こんなにあいまいな言葉はありません。吉田さんはこの「ソニーらしさ」というものを、ここで一度、再定義しておくべきだと思います。

 僕に言わせれば、「ソニーらしさ」を追求するというのは、軸足をエレクトロニクス製品に置くことではないし、昔のソニーっぽい雰囲気を取り戻すことでもない。電機もネットもソフトもコンテンツも、垣根がほぼ取り払われた時代に、こだわるべきはそこではありません。事業領域は時代に合わせて変わって当然です。

 そんな表層的なことではなく、(ソニーの第5代社長の)大賀典雄さんが言ったように「心の琴線に触れるモノづくり」をすることがソニーという会社の根幹だったと思う。いまやモノに限る必要はないから、正確には「心の琴線に触れるモノ・コトづくり」ですね。そう定義したほうが、ずっと発展性があります。こうして僕が定義してみたように、吉田さんにも再定義してみてほしい。そして、それを平易な言葉で社内共有し、社外にも分かりやすく発信しながら、実現していってほしいのです。我々をもっとワクワクさせるソニーにしてくれることを期待しています。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年3月16日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています