ソニーやウォルト・ディズニーなど、先進的な製品やサービスを世に送り出す企業を渡り歩き、アップルでは米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント(副社長)を務めた前刀禎明氏。「UI(ユーザー・インターフェース)の革新こそが、これからのデジタル機器の進化の道」と指摘しますが、実情はまだ遠いようです。

 新年の恒例行事、IT・家電見本市の「CES(International Consumer Electronics Show)」が、今年もラスベガスで開催されました。今回は会場が停電に見舞われたニュースが最も話題になった印象で、各社の発表は“前年の続き”が中心だったように思います。そんななかでも、僕が注目していたのは、CESの華ともいうべき次世代テレビです。日本市場にもいずれ投入されるであろう製品を、ソニー、パナソニック、LGエレクトロニクスが発表しました(関連記事:薄型テレビのトレンドは「有機EL」「高画質回路」「AI」) 。

 CESで発表される次世代テレビに、僕が最も期待していたのは、UI(ユーザー・インターフェース)の革新でした。前回、今年の家電の注目ポイントとして「UI革命」を上げました(関連記事:2018年の家電 カギは「UI革命」と「アナログ感覚」)。音声入力やジェスチャー入力が一般化すれば、家電の操作方法はがらりと変わるはずです。

 特にテレビでは、有機ELパネルの製造元が限られていて、大型パネルはLGがシェアの大半を握っています。日本メーカーはLGから供給を受けている状況。テレビ本来の機能である映像出力の質に大きな差が生まれにくいので、使い勝手や便利な機能に注目が集まるのは当然の流れでしょう。

 しかし、CESで発表されたソニー、パナソニック、LGのテレビは、UIの革新という点ではまだまだ発展途上でした。ソニーとパナソニックはそもそも、UIを今後最も注力すべきポイントとは捉えていないのかもしれないとさえ感じました。

LGは独自AI入りテレビで一歩前へ

 3社のうち、現時点で先頭を歩いているのはLGでした。LGは2018年モデルのテレビすべてに独自AIを搭載する方針で、CESではAI技術を盛り込んだ有機ELテレビ「LG AI OLED TV ThinQ」を発表しました。グーグルの音声アシスタント技術「Googleアシスタント」に対応しただけでなく、独自AIの「LG ThinQ」を導入したことが特徴。「この俳優は誰?」と質問すれば顔写真と名前が画面に表示されたり、「この番組が終わったらテレビを消して」 という指示ができたりと、テレビ番組のメタデータと連動した機能も実現しているといいます。将来は、IoT対応の各種家電なども、テレビを通じて音声で操作できるようになります。

LGはAI技術を搭載した有機ELテレビの新ブランド「LG AI OLED TV ThinQ」を発表した
LGはAI技術を搭載した有機ELテレビの新ブランド「LG AI OLED TV ThinQ」を発表した
リモコンに話しかけると、「一番近くのスキー場を探して」といった情報を検索するほか、「この人は誰?」というような番組内容に即した質問に答えたりもしてくれる(画像はLGのイメージ映像から)
リモコンに話しかけると、「一番近くのスキー場を探して」といった情報を検索するほか、「この人は誰?」というような番組内容に即した質問に答えたりもしてくれる(画像はLGのイメージ映像から)

 これはとてもいいアイデアです。新しいライフスタイルにつながる“この次”を予感させてくれるところが素晴らしい。ただし、今回の製品はテレビ画面に向かって話しかけるのではなく、リモコンのマイク機能をオンにして、リモコンに向かって話しかける必要があるそうで、その点は残念です。わざわざリモコンを手に取るなら、もともと手に取れる位置にあることの多いスマートフォンにリモコン機能を実装するほうが早いんじゃないでしょうか。テレビを見ている姿勢のまま、リモコンを探すことなく、気軽に音声入力できてこそ、新しいUI、新しい価値だと思うので、今後、改良されていくことを望みます。

ソニーとパナソニックは後手に

 ソニーは、4K有機ELテレビの「A8F」シリーズ と8K世代の画像処理エンジン「X1 Ultimate」を発表しました。A8Fは昨年のCESで発表した「A1」シリーズと性能や機能は大きく変わらず、デザインが一番の変更点です。A1では、パネルを後ろへやや傾け、それを背面に設けたウーハー内蔵のパーツで支えていました。前からはスタンドが見えないデザインです。一方、A8Fは小型のスタンドでテレビを支え、ウーハーは背面に貼り付ける格好にしています。A1に比べて奥行きを浅くすることに成功しましたが、その分、スタンドが前にはみ出してしまいました。

ソニーが発表した4K有機ELテレビの「A8F」シリーズ(写真/山本敦)
ソニーが発表した4K有機ELテレビの「A8F」シリーズ(写真/山本敦)
「A8F」シリーズはスタンドのデザインを変更して奥行きを浅くした(写真/山本敦)
「A8F」シリーズはスタンドのデザインを変更して奥行きを浅くした(写真/山本敦)
前モデルの「A1」シリーズは背面にウーハー内蔵のパーツが付いていた。背面のデザインは洗練されていたが、奥行きがあった
前モデルの「A1」シリーズは背面にウーハー内蔵のパーツが付いていた。背面のデザインは洗練されていたが、奥行きがあった

 僕はA1の存在感のあるスタンドにも不満だったけれど、A8Fのデザインもいただけないなと思います。ソニーのテレビでこの手のスタンドを採用するのはどちらかといえば中低価格帯の機種です。せっかく有機ELテレビを買おうというときに、このデザインを選びたくなるものでしょうか。A1だと奥行きの問題で自宅に設置できないという層をカバーする狙いなのでしょうが、デザイン的にはA1のほうが洗練されていたという皮肉な結果になってしまいました。もう少し考えようがあったはずです。

「今さら画質で競争したって、感動は生まれないと思うんだけど……」と前刀氏
「今さら画質で競争したって、感動は生まれないと思うんだけど……」と前刀氏

 UIに関しては、Googleアシスタントに対応しており、リモコンの該当ボタンを押して「OK、グーグル」と発話すれば、音声入力ができます。公式動画では、男性がマイクのようにリモコンを持って、天気予報をテレビ画面に表示させたり、エアコンの温度設定を指示したりする様子が紹介されています。自宅でテレビ用リモコンを肌身離さず持ち歩いているかのような描写が、やはり不自然ですよね。LG同様、リモコンから発想を切り替えてほしいところです。

 パナソニックは、4K有機ELテレビ「FZ950/FZ800」を発表しました。画像処理技術や音響技術をウリにしていて、AIは導入せず。欧州で販売するUltra HD対応のBlu-ray Discプレーヤーは、Googleアシスタントとアマゾンの「Alexa」に対応させていますが、テレビには載せなかったのですね(関連記事:スマートスピーカーは序の口 AI時代の家電はどうなる?)。

技術ありきで考えず、感動ポイントを探せ

 LGも道半ばですが、ソニーやパナソニックの取り組みはさらに物足りないといわざるをえません。ちなみに、日本発売はないでしょうが、サムスン電子も独自AI「Bixby」を搭載した8K画質の量子ドット液晶テレビをCESで発表しています。ソニーとパナソニックは、CESのプレゼンテーションで両社とも、テレビに関しては独自の画像処理エンジンによる映像の良さを前面に押し出していました。ですが、DVDとBlu-ray Discほどの画質差があるならともかく、4Kや8Kのレベルまで来て今さら高画質競争をしたところで、果たしてそこに感動が生まれるでしょうか。

 この連載では何度もくり返していますが、高度な技術が必ずしも感動を生むとは限りません。逆に技術自慢に陥れば、感動からはほど遠い製品が出来上がることもあります。この製品の感動ポイントはどこか、新しい体験やライフスタイルを生み出す仕掛けはどこにあるか――。僕は製品を見るときにそれを第一に考えるし、日本のメーカーにもそうあってほしいと強く願っています。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年1月26日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています

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 ソニー、ディズニー、AOLなど、国内外の名だたる企業で経営の最前線に立ち、アップル米国本社副社長時代には「iPod mini」を大ヒットさせた前刀禎明氏。「日本企業は製品を売るのが下手」と言い切る前刀氏が、自らの経験と、そこから得たマーケティングの本質、アイデアの源、仕事との向き合い方を語り尽くしました。マーケティング担当者はもちろんのこと、もっと仕事を充実させたいと思っているすべてのビジネスパーソンにお読みいただきたい1冊です。
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