ソニーやウォルト・ディズニーなど、先進的な製品やサービスを世に送り出す企業を渡り歩き、アップルでは米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント(副社長)を務めた前刀禎明氏。2018年が始まるにあたり、期待も込めて、今年の家電やデジタル機器の進化を予想する。前刀氏が注目するのはユーザーインタフェースだ。

 新しい年が始まりました。2018年の初回は、家電やデジタル機器が、今年はどんな進化を迎えるのか、予想してみましょう。「予想」と言いながら、半分以上は「期待」かもしれません。今は、さまざまな製品の市場が飽和状態ですが、一方で次世代製品に適用できる技術が出そろったタイミング。だからこそ、こんな革新性のある製品が出てきてもいいはず――そんな期待を語りたいと思います。

時満ちてUI革命待ったなし

 まず、注目したいのが、ユーザーインタフェース(UI)の革新です。話題のスマートスピーカー群では音声入力が中心になっていますが、他の機器でも新しいUIが取り入れられていくはずです。例えばキッチン家電やテレビなど、何かと同時進行で使うタイプの機器が音声入力に対応すると、ぐっと便利になりそうです。

 身振り手振りで操作するジェスチャー入力の機器も、そろそろ一般化してもおかしくありません。ウインクでアプリが立ち上がるスマートフォンや手を振ると電源がオンになるテレビなど、技術的には今すぐにでも実現可能なはずです。スマートフォンやテレビなど、使用時の機器と人の物理的距離が近い製品ならば、ジェスチャー入力を採用しても誤認識や誤動作も少なく、快適に使えるだろうと思います。

 音声やジェスチャーによる操作が一般化すると、ボタンをぐっと減らしてシンプルなデザインにした機器が出てくるのではないでしょうか。例えば、皆さんのパソコンのデスクトップ画面やスマートフォンのホーム画面を思い出してください。アイコンがずらずら並んでいますね。そして、そのアイコンの一つひとつに文字でアプリや機能の名前が書いてあったりする。デザインにこだわりを持つアップルでさえ、iPhoneのホーム画面のごちゃついた感じはいまだ刷新できていません。

「iPhoneはそろそろインターフェースを根本的に見直すべき時期に来ている」と前刀氏
「iPhoneはそろそろインターフェースを根本的に見直すべき時期に来ている」と前刀氏

 そもそも、文字に代わって直感的に意味を伝えるためにあるはずのアイコンに、文字で説明をつけてしまうのはいかがなものでしょうか。メーカー側に「文字で書かないと何を表すのか分からない(人が多い)」という思い込みがある気がします。

 新しいUIに必要な技術はもうそろっています。センサーしかり、画像や音声を処理する半導体しかり。音声で話しかけたり、身振り手振りで合図したりといった操作方法が定着していけば、ボタンやアイコンのデザインも改良されていくでしょう。あとは作り手が一歩踏み出すだけです。

 昨年、永世七冠を達成した棋士の羽生善治さんが40代後半になった今の強みを聞かれて「無駄なことは考えずに、引き算で考えられる力」というようなことを言っていました。ものづくりも、引き算で考えたいところです。不要なものは除いたり、新しい技術に置き換えたりすることで、これまでと比べて少し性能がアップしたとかそんなレベルの変化ではない、圧倒的に使い心地のいい製品が生まれるはずです。

日本が誇る革新的な製品「ウォークマン」は、カセットレコーダーからスピーカーと録音機能をなくして開発されましたからね。そして時をへて、スティーブ・ジョブズが「21世紀のウォークマン」と例えた「iPod」が生まれました。

メーカーは経営も営業も意識を変えると道が開ける

 UIのシンプルさでいえば、イケアのユーザーマニュアルなどは参考になると思います。家具を組み立てる手順にしろ、注意点にしろ、全てイラストで表現して、テキストは思い切って排除。世界中どんな言語を使う人にも分かるようになっています。

 イケアは、未購入の製品(家具など)を自分の部屋に置いた様子を3D画像で確認できるAR(拡張現実感)カタログアプリを提供したり、スマート照明を各社のAI(人工知能)に対応させると発表したり、先進的な取り組みが目立ちます。店舗もまるでテーマパークのようで、商品の前に「体験を売る」つくりになっています。今後、IoT製品などの新しい市場で覇権を握るのは、電機メーカーではなく、イケアのようにユーザーと距離が近い小売の企業かもしれないと感じます。

イケアがスマートフォンやタブレット向けに配信している「IKEAカタログ」アプリでは、ARを使い、家具を自室に置いたときのイメージを疑似的に確認できる。画像では、背景は実際のオフィス、イスはARで合成したもの
イケアがスマートフォンやタブレット向けに配信している「IKEAカタログ」アプリでは、ARを使い、家具を自室に置いたときのイメージを疑似的に確認できる。画像では、背景は実際のオフィス、イスはARで合成したもの

 ここで一度語っておきたいのですが、家電は小売や営業のあり方も見直すべきときに来ていると思います。家電量販店では、所狭しと商品を並べて、「売れ筋ランキング1位」のような表示ばかりが強調された光景をよく目にします。「体験を売る」からは程遠い状況です。

 もっとも、これは買う側の未熟さが招いたことかもしれません。お客さんが誰も彼も「よく売れているのはどれですか」とたずねてくる状況では、店側もランキングを最初から掲示しておいたほうが手間がないと考えて当然です。買う側はランキングを見て右へならうのではなく、自分で考えてこれぞという製品を選べるように、売る側は創意工夫のある陳列ができるようになるといいですね。

 メーカーの営業部門も、考え方を変えることで成功に近づいていけると思います。例えば、製品が思うように売れないとき、売れ行きがよくないのを機能不足のせいにするのは問題です。「他社製品にはこの機能がついているのに、うちの製品にはついていないから売れないんだ」という理屈。こう言わざるをえない事情がいろいろあるのは察せられますが、この主張はあまり益がない。それよりもカスタマーエデュケーションに力を注ぐのが建設的な仕事だと思います。

 エデュケーションというと、上から目線な言い方に聞こえるかもしれませんが、要は新しい価値をユーザーにきちんと伝えてほしいのです。新しい製品が生まれたら、その良さをユーザーにわかってもらうのが営業の務め。製品部門に、機能をてんこ盛りにするようなフィードバックをするのは実りの多い仕事とは思えません。

 経営陣にも我慢が必要です。一般に、新しいものが浸透するにはそれなりの時間がかかります。発売当初の売れ行きが良くないとき、今は浸透していくプロセスだと信じられずに、「この事業・製品は失敗」「市場に受け入れられなかった」と早々に結論づけてしまうのは、自分たちに信念がない証拠です。

 自分たちが本当に良いと信じるもの、ユーザーにとってもきっと良いはずだと思えるものを作って売る。市場の理解がなかなか追いつかなくても、しばらくは我慢して売り続ける。機能も性能も横並びの製品が増えた今の時代、これができる会社がきっと勝ちます。そういう意味では、これからのメーカーは発想や技術だけでなく、企業姿勢も問われる時代になっていくのでしょうね。

アナログ感覚を見直すと面白い

 話が横道にそれましたが、2018年のデジタル製品の進化ポイントとしてもう一つ挙げたいキーワードが「アナログ感覚」です。

 例えば、iPhoneで写真を撮るとき、図らずも連写になって、自分でびっくりしている人をたまに見かけます。あれはiPhoneのカメラにはボタンを押した手ごたえがないからではないかと思います。デジタルカメラでは、シャッターボタンを「半押し」してピントを合わせたり、シャッターボタンを軽く押してスリープモードから復帰させたりと、人間の触覚を生かした操作法が取り入れられています。アイコンをタップしたりフリックしたりするのとは違う、アナログな方法です。

デジタルカメラでは「半押し」といったアナログ感覚の操作法が一般的(画像素材:Rina / PIXTA)
デジタルカメラでは「半押し」といったアナログ感覚の操作法が一般的(画像素材:Rina / PIXTA)

 こうした触覚を生かした操作法は、スマートフォンになってずいぶん減ったのですが、改めて見直すと面白いんじゃないでしょうか。人間の繊細な触覚をうまくUIに取り入れると、何段階ものメニュー選択で実現している操作を簡便にしたり、コツをつかんで機器を使いこなす満足感が得られたり、ユーザーエクスペリエンス(UX)が向上しそうです。iPhoneには「3D Touch」がありますが、タッチの差が細かすぎて、いま一つ使いにくいので、改善の余地があると思います。操作が複雑になってしまい、シンプルさを失っていますから。

 ここまで言うと、やや飛躍が過ぎるかもしれませんが、使うことで、その人の感覚がとぎすまされる、人間の性能を高めてくれる、そんな機器の登場も今後は期待したいところです。これまでは、便利な機器が開発されて、人間がすることが減る分、人間の性能は下がっていくという側面がありました。これからは、機器があることで、感性が磨かれ、人がより良くなる方向へ、大きく転換していけるといいですね。

 2018年、今年も新しいデジタル機器が多数登場することでしょう。僕が想像する以上の進化が起きることを願いつつ、今年もさまざまなデジタル製品やマーケティングに注目していきます。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年1月12日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています