ソニーやウォルト・ディズニーなど、先進的な製品やサービスを世に送り出す企業を渡り歩き、アップルではアップル米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント(副社長)を務めた前刀禎明氏。最近はチャレンジングで魅力的な製品も多いが、ヒット商品になるには、ある視点が足りないという。今年発売された商品で、前刀氏が「着眼点はいいのに惜しい!」という製品を3つピックアップ。ものづくりに必要な要素とは何かを語る。

 2017年もまもなく終わり。この1年を振り返る意味で、2017年に発売されたデジタル製品や家電のうち、「惜しかった」と僕が思う製品を3つ紹介します。「惜しかった」と感じるのは、その製品の魅力は発信できているからこそ、「この視点が欠けている」「ここがもう少しこうだったら」と要望したくなるからです。注目に値する製品を生んだメーカー各社に敬意を表しつつ、僕なりにどこが良いと思ったか、どこが足りないと感じたかを具体的に語ってみましょう。

ソニーの小型レコーダーには感動したが

 まずはソニーが発売した「新形状」をうたうICレコーダー「ICD-TX800」。ICレコーダーには珍しく、リモコンを採用し、本体を大幅に小さくした製品です。本体は従来機種の半分ほどの大きさになった感覚で、ちょっとした感動があります。会議や講演、取材の場では話者の近くに本体を置いておき、リモコンで操作できます。小さいので、さりげなく録音を始められて、話者に威圧感を与えないのがいいですね。

ソニーの「ICD-TX800」は、幅・高さともに約38mm、奥行き約13.7mm、重さ約22gという超ミニサイズ。正方形という形も新鮮だ。録音が始まると最上部の小さなランプが赤く点灯する
ソニーの「ICD-TX800」は、幅・高さともに約38mm、奥行き約13.7mm、重さ約22gという超ミニサイズ。正方形という形も新鮮だ。録音が始まると最上部の小さなランプが赤く点灯する
付属のリモコンで操作する。専用のスマートフォン用アプリでも操作できる
付属のリモコンで操作する。専用のスマートフォン用アプリでも操作できる

 本体内部の設計見直しなどで一回り小型化するといったレベルにとどまらず、新しい形状を採用して劇的な小型化を実現した点はとてもいい。しかしこの製品、まだ少し、詰めが甘いようにも感じるのです。

 例えば、ディスプレーが本体に付いていますが、これはどうでしょう。ICD-TX800の利用シーンを考えてみると、本体は必ずしもユーザーのすぐそばにはありません。会議ならテーブルの中央に置くかもしれないし、取材や講演なら話者のそばに置くでしょう。ディスプレーは、録音状態であることや、録音開始からの時間経過を表示するためのものです。そうした情報は手元のリモコンで見られるほうがいいんじゃないでしょうか。

 リモコンで録音開始/停止の操作をしたときも、ちゃんと録音が始まっていることを手元で確認できれば安心です。リモコン側にはそのような表示機能はなく、あくまでも本体のランプやディスプレーで確認するようになっているのですが、本体がユーザーのそばになければ、残念ながらよく見えません。

ICD-TX800には、本体とリモコンケースが収納できるケースもついている
ICD-TX800には、本体とリモコンケースが収納できるケースもついている
ICD-TX800のケースを手にする前刀禎明氏
ICD-TX800のケースを手にする前刀禎明氏

 せっかく本体とリモコンに分けた「新形状」を考案したのに、開発者にはどこかで「従来のICレコーダーを小型化したのがこの本体だ」という意識があったのだと思います。だから、本体にはディスプレーが必要だ、と思い込んでしまう。従来の製品の延長線上で設計を考えてしまったのではないでしょうか。

 本体やリモコンのボタンに「STOP」や「REC」など文字で説明が付いているのもデザインとしていまひとつ。赤い丸が録音ボタンで、白い四角が停止ボタンというのは、ICレコーダーだけでなく、音楽プレーヤーなどのオーディオ機器でもずいぶん前から一般的ですから、ほとんどの人には察しがつくはず。せっかくすっきりしたデザインになっているのですから、要らないものを思い切って排する判断をしてほしかったですね。

 もっと言えば、僕はこのケースが本体でもよかったと思います。実際のICD-TX800より大きくはなっても、インタビューの席に小さな四角い箱がポンと置いてあったら、何だろうと思うし、ICレコーダーとあまり意識しないんじゃないでしょうか。この中にリモコンを収納できるようにして、収納中はリモコンに充電できるバッテリーも内蔵するとかどうでしょう?

パナソニックの12万円の扇風機は中途半端

 2つめは、支柱部分にウォールナット材を用いたパナソニックの扇風機「RINTO(リント)」(型番:F-CWP3000)。オープン価格ですが、市場想定価格は12万円とか。これはまず、アナログ感やナチュラルっぽさを家電に取り入れる、質感にコストをかける志がいい。形状を工夫した7枚羽でなめらかな風を送るとのことで、扇風機の本来機能を追求しているのも正しい考え方だと思います。

パナソニックの支柱部分にウォールナット材を用いた扇風機「RINTO(リント)」
パナソニックの支柱部分にウォールナット材を用いた扇風機「RINTO(リント)」

 ただ、せっかくこだわったデザインがやや中途半端なようにも見えます。まず、こんなに扇風機らしい扇風機の形にする必要があったのかどうか。コンセプトに合わせて形状から見直したほうが、感動を生む製品になったと思います。ダイソンなどは、既存製品の流れを踏襲することなく、独自技術が生きる新しい形状を編み出していますよね。それに比べると、せっかく新しいコンセプトの製品を、他の製品とよく似た形状で送り出してしまうのはもったいないと感じました。

 それから、土台部分。黒ベースに白でマークを表したタッチボタンが並んでいて、個人的にはいかにも家電という印象を受けます。ボタンが付いた土台部分は操作するたびに見る個所なので、素材にはこだわるべきです。土台もウォールナットにすれば、見た目に品が良かったと思うし、手触りも格段に上がったのではないでしょうか。

 パナソニックは、京都の伝統工芸後継者によるクリエイティブユニット「GO ON」とのコラボプロジェクトも展開していて、そこでは妥協なくこだわり抜いた製品を作っています。茶筒形のスピーカー、IH対応の木製の燗徳利など、どれも非常に良い出来です。ただ、こちらは販売しないんですよね。

「GO ON」とのコラボプロジェクトは、茶筒型のスピーカーなどこだわり抜いた製品が並ぶ(画像は「GO ON × Panasonic Design」のウェブサイトから)
「GO ON」とのコラボプロジェクトは、茶筒型のスピーカーなどこだわり抜いた製品が並ぶ(画像は「GO ON × Panasonic Design」のウェブサイトから)

 RINTOのような量産品ではコストとこだわりのバランスを考える必要があり、販売予定のないコンセプトシリーズと同様にはいかないメーカーの事情は理解できます。ただ、GO ONなどでやればできることはわかっているので、余計にRINTOは中途半端に感じてしまう。こだわった製品を実際に販売しようとすると、「この価格では絶対売れない」と思うような高額になるんでしょうが、それでももう一つ勇気を出して壁を越えてほしかったですね。

バルミューダのレンジにギター音は必要か?

 最後は、機能を絞り込んだバルミューダのオーブンレンジ「BALMUDA The Range」。スチーム機能などを搭載せず、電子レンジ本来の機能であるマイクロウェーブ調理にフォーカスした製品で、デザインもシンプルです。バルミューダはこれまで、その製品の本来の目的である機能を追求するものづくりをしてきた印象があります。例えば、「最高の香りと食感を実現する」というトースター、「自然界の風を再現する」という扇風機がそうですよね。

バルミューダのレンジ「BALMUDA The Range」。操作音などに、プロミュージシャンに依頼して録音したギターやドラムの音を使っていることが話題になった
バルミューダのレンジ「BALMUDA The Range」。操作音などに、プロミュージシャンに依頼して録音したギターやドラムの音を使っていることが話題になった

 ところが、オーブンレンジでは、最も話題になったのが操作音でした。操作をしたり調理が完了したりしたときに、一般的な電子音ではなく、ギターやドラムの音が鳴って、それで「キッチンを楽しくする」といいます。ただ、僕からするとこれは余計な仕掛けのように思う。操作音を珍しいものにしたところですぐに慣れ、やがては飽きてしまうのではないでしょうか。

 製品の魅力を高めるのに必要なのは、「想像を喚起する」ことや「感動を持続させる」ことだと思います。そしてそれは、製品のうわべではなく、本質的な機能によって生み出されるものです。実際、バルミューダが先に出したトースターは「最高の香りや食感ってどんなものだろう、食べてみたい」とユーザーの想像をかきたてます。そして、毎日おいしいトーストが食べられるのは、まさに持続する感動でしょう。

バルミューダのトースター「BALMUDA The Toaster」は「最高の香りと触感を実現する」が売り
バルミューダのトースター「BALMUDA The Toaster」は「最高の香りと触感を実現する」が売り

前刀的ものづくりの三つの鉄則

 ものづくりには踏み外してはいけないポイントが3つあると思います。1つは、技術ありきで考えるのではなく、ユーザーの使い勝手や感性に寄り添うこと。2つ目は、工夫やこだわりが本質的であること。その製品が何をするためのものかを意識しながら作るべきです。3つ目は、インターフェースの質感や満足感にこだわること。ユーザーの一番そばにあって、頻繁に目にしたり手に触れたりする部分をおろそかにしてはいけません。

 こうして整理してみると、今回取り上げた3製品はこの3つのポイントのどこかに難があるように思います。3製品ともチャレンジングで、魅力を感じられる製品です。だからこそ「惜しい」と感じました。

 今後またすばらしい製品に出会えることを願い、今回は期待をこめて「惜しかった」と言いたい。来年もこの物差しを使って、さまざまな製品を見ていきたいと思います。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年12月22日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています