目に見えない価値、持続可能な感動を追え

 もう一つ、今、重要なのは目に見えない価値を生み出すことだと思います。例えば、アイロボットのロボット掃除機「ルンバ」は、所有しているだけで部屋が片付くなんていう話があります。ルンバは床にものがあると、うまく掃除ができません。中には、ルンバがペットのように思えてきて、物にぶつかったり、何かに絡まったりするとかわいそうだからと、部屋を片付けるようになったなんていう人もいます。掃除機を動作させるために部屋を片付ける、ペットのようにかわいがりたくなる、どちらもルンバ自体の機能とは違う価値です。

無線LAN対応のルンバは、アマゾンのスマートスピーカー「Amazon Echo」を使って命令もできるようになった。「アレクサ、ルンバを使って掃除して」と話しかけるとルンバが掃除してくれる。ますます愛着を持つ人が増えそうだ(写真はアイロボットジャパンのリリースから)
無線LAN対応のルンバは、アマゾンのスマートスピーカー「Amazon Echo」を使って命令もできるようになった。「アレクサ、ルンバを使って掃除して」と話しかけるとルンバが掃除してくれる。ますます愛着を持つ人が増えそうだ(写真はアイロボットジャパンのリリースから)

 製品が出す音なども、そういう価値を生むことがあります。かつて僕はドアホンの音やボタンの質感を変えてみたらと提案したことがあります。ドアホンはほとんどが「ピンポーン」というあの音だし、押した感触もいかにもプラスチックで代わり映えがしません。それがもし、素敵な音が鳴ったり、ボタンの押し心地が特別に良かったりしたらどうでしょう。押した人は、訪ねた建物自体に好印象を持つと思います。ドアホンは来客を最初に迎えるものですから、押したときの演出にこだわってもいいと思います。

 これらは、掃除機やイヤホンに機能を追加しているわけではありません。目に見えない価値で本来の機能や使い勝手をほんの少し上げるものです。

頭の中に座標を持て

 メーカーが製品を開発するとき、消費者にどんな価値をアピールするか、あるいは消費者が製品の購入を考えるとき、どんな価値に魅力を感じるのか。直交座標にマッピングしてみると、製品の価値に対する考えを整理しやすいと思います。横軸を「ロジカル」「エモーショナル」、縦軸を「ビジブル」「インビジブル」としましょう。

 横軸の「ロジカル」というのは、論理的に説明できる価値。機能や性能などはこの範囲に入ることが多いでしょう。逆に「エモーショナル」というのは、直感や感性に訴えかけるような価値です。デザインや音なども含まれるでしょうか。

 縦軸の「ビジブル」はその製品の目に見える価値。一方の「インビジブル」は目に見える情報というよりも、「ワクワクする」とか「便利に使えそう」など、消費者の共感や想像力を駆り立てるような価値です。さまざまな製品はこの組み合わせですが、なかでもエモーショナルで、かつインビジブルな価値も持っている製品は、消費者の心を強く動かし、想像力を駆り立てることができる――こういう価値を「イマジネーション・バリュー」と呼んだりします。

製品の価値を考えるには、2つの軸でマッピングしてみよう
製品の価値を考えるには、2つの軸でマッピングしてみよう

 それぞれの象限にどんな製品が当てはまるか、考えてみてください。左下はどうでしょう。論理的に説明できて、目に見える価値がある製品。いわゆる多機能製品の多くがここに当てはまりそうですね。人によっては4K有機ELテレビをマッピングするかもしれません。

 左上はどうですか。論理的に説明できる利点があり、かつ消費者にそれを使った生活を想像させるような製品。マッピングする人の感性や好みによりますが、ホームシアターやスマートスピーカーがここだという人もいます。

 右下には何が当てはまるでしょうか。目に見える価値があって、感性に訴える、そんな製品ですね。複雑になってきましたが、僕としては、ソニーモバイルコミュニケーションズの超短焦点小型プロジェクター「Xperia Tocuh」なんかはここに置けるのではと思います。

 最後に右上ですが、ここは消費者の感性に訴えかけ、かつ消費者の想像力も駆り立てるような製品。先に挙げたルンバには、部屋のゴミを集めるという機能があるわけですが、ルンバをかわいいと思い、ルンバが掃除しやすいように部屋を片付けてしまうなんていうのは、消費者が製品に感情移入し、想像力を働かせた結果に生まれた価値です。まさにイマジネーション・バリューです。このように人が製品に感情移入するようになったのは、初代「iMac」あたりからだと思います。

最近話題の製品を試しにマッピングしてみた。ただ、各製品をどこにマッピングするかは、その人の感性や好みによって異なる場合もある
最近話題の製品を試しにマッピングしてみた。ただ、各製品をどこにマッピングするかは、その人の感性や好みによって異なる場合もある

 僕が言いたいのは、今の時代はこの座標でいう右上、イマジネーション・バリューが大切ということです。かつて、家電の技術が右肩上がりに発展し、新しい機能を次々と生み出していたころには左下の要素だけで製品は売れていました。ですが、技術が頭打ちになって製品が飽和している今は、頭で理解できて目に見える価値だけでは、人の心は動かせない。製品の性能や機能を理解した上で、共感や想像が重なって、初めて欲求(=この製品が欲しい)につながるんです。そこを突き詰めて考える必要があります。左下の製品も、右上の要素を備えることはできます。

 イマジネーション・バリューの重要性は、これからさらに高まるでしょう。このマッピングは、買う人がその製品が自分にとって魅力的な製品なのかを整理するのにも有効なはずです。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年12月1日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています