「今の世の中の閉塞感は、みんなが『こうでなきゃいけない』という価値観にしばられて、多様性を失っているから。自分で考えて選べる人になろう」という前刀禎明氏。ただ、どうすればそんな人になれるのかはなかなか分からない。「創造的知性が大事と言いっぱなしで、方法を伝えないのはダメだよね(笑)」ということで、自分でアプリを開発したのだという。

 前回、自分で考えて選択する力を身に付けようという話をしました。これは、言い換えれば、論理的な思考(Logical Thinking)や創造的な思考(Creative Thinking)を超えた創造的知性(Creative Intelligence)を身に付けようということです。スティーブ・ジョブズはこの能力がとても高い人間でした。

創造的知性は5つの要素でできている

 では、創造的知性というのは何なのか。創造的知性は、5つの要素で構成されています。観察力、質問力、実験力、相談力、そして関連づける力の5つ。もう少しかみくだいて言えば、まず、物事を先入観や思い込みから自由になってよく観る。それから、もしこうだったらどうなるんだろう、などと自問自答する。さらに仮説を立てて、それが正しいかどうか試してみる。自分で一通りやったら今度は人に相談する。そして、これまでのプロセスで得られた知見を関連づけて考える。この5つのプロセスで培われるのが創造的知性です。

創造的知性の要素となる5つの力を身に付ける方法はないか、と考えて、アプリにたどり着いた
創造的知性の要素となる5つの力を身に付ける方法はないか、と考えて、アプリにたどり着いた

 創造的知性については、僕に限らず、いろんな人がビジネス系の講演などで話をしていると思います。でも、どうやって身に付けたらいいのか、その方法はあまり語られていません。方法論も提示せず、ただ「身に付けろ」というのも乱暴なので(笑)、僕は創造的知性を磨く手助けになるようなアプリを開発しました。

 アプリの名前は「DEARWONDER」。パズル・ゲームに近い遊びなんですが、「ゲーム」という言葉で固定観念を植え付けてしまいたくないので、あえてそうは呼ばないことにします。仮に「ひらめき創造アプリ」とでも呼んでおきましょうか。僕は「自己啓発」というものに、どうもうさん臭いなという印象を持っているので、その臭いがしないことを願いつつ(笑)。

 このアプリでは、「グラウンド」(床)のボールを転がして、ゴールへ到達させて遊びます。ゴールまでに障害となる「オブジェクト」がいろいろと置いてあるのですが、ボールやオブジェクトは上からしか見られません。オブジェクトに当たる光の角度や影から、その形状を立体的に想像し、避けたり乗り越えたりくぐったりしてゴールにたどり着きます。

画面上にあるボールを画面下にある丸いゴールまで転がす。中央に障害物(オブジェクト)が並んでいる。画面は一番シンプルな問題
画面上にあるボールを画面下にある丸いゴールまで転がす。中央に障害物(オブジェクト)が並んでいる。画面は一番シンプルな問題

 DEARWONDERをプレーする中で、前述した5つの要素が求められる仕組みになっています。例えば、オブジェクトは真上から見ると、円柱も円錐も円に見えたりします。でも、影の形をよく「観察」すれば、立体の本当の形状は推し測れますよね。

 普段の生活でも、思い込みを捨て、物事をいろいろな角度から観察したり想像したりすることは大切です。「このプロジェクトの課題はなんだろう」「解決策はこれだけか」「別の見方もあるんじゃないか」。そういった体験をアプリの中に置き換えたのがDEARWONDERなのです。

クリアすると、自分が通った軌跡を確認できる
クリアすると、自分が通った軌跡を確認できる
画面の角度を変えて、問題の全体を見ることもできる。真上から見ていると分かりにくいオブジェクトの形も横から見てみると一目瞭然。どこを通れるのか簡単に分かる
画面の角度を変えて、問題の全体を見ることもできる。真上から見ていると分かりにくいオブジェクトの形も横から見てみると一目瞭然。どこを通れるのか簡単に分かる

 「平らに見えていたけど実はここが坂になっているんじゃないか」とか「画面の下から上へボールを進ませることばかり考えていたけど、こっちから回り込めそうだ」とか、画面から情報を見てとって、ボールを動かしてみる。これは先入観を捨て、仮説検証したり実験したりするプロセスです。ビジネスのアイデアを生み出すのに「仮説検証が大事」とはよく聞くけど、実際にはその機会になかなか恵まれない人が多いと思います。アプリで日常的に実践しておけば、いざというときに機会を逃さないし、機会自体も増やせるんじゃないでしょうか。

自分で作ることで相手の考えを想像する訓練になる

 DEARWONDERでは、自分で問題を作って、ほかのユーザーに公開(シェア)することもできます。これも創造的知性の発達につながると思います。プレーヤーはこの問題をどう捉え、どんな考えに至ってボールを動かすだろうかと、相手の思考を想像しながら作っていくことになりますから。

 問題を作るときは「シャーベット」「ポップ」「アースカラー」など、トーンを統一した数種類の「パレット」から色を選べるようになっています。グラウンドや配置するオブジェクトそれぞれのカラーリングにも個性が出るんですよね。日本以外へも配信していくので、国民性や思考パターンの違いも出てくるはずですし、その違いを楽しんでもらえたらいいなと思います。

自分で問題を作るときはオブジェクトの形を選んで設置していくだけ。自由度が高い分、悩むかもしれない
自分で問題を作るときはオブジェクトの形を選んで設置していくだけ。自由度が高い分、悩むかもしれない
オブジェクトやグラウンドの色なども好きに設定できる
オブジェクトやグラウンドの色なども好きに設定できる

 正式リリース前にワークショップをいくつか開いてきましたが、解き方にプレーヤーの性格が出るのが面白いです。画面をじっと見て頭の中で解法を探る人もいるし、とにかくボールを動かしてゴールにたどり着く人もいます。子どもにやってもらうと、集中力が高いことにびっくりしますね。解いたときにいい笑顔を見せてくれるのがうれしいです。

 親子向けワークショップに参加した保護者の方々からは「夢中でカタチにしている姿がキラキラしていた」「意欲的に楽しく取り組んでいた」などの感想とともに「ぜひ継続させたい」との意向を示していただきました。

正式リリース前に子供を対象としたワークショップを開いた。子供でもすぐに使えた
正式リリース前に子供を対象としたワークショップを開いた。子供でもすぐに使えた

 実はアプリの企画は2015年から練ってきました。子どもでもサクサク使えるように、いろんなものをそぎ落として、今の形になりました。プログラミングを担当した技術者からは「説明文を載せないと、遊び方が分からないんじゃないか」とも言われたけど、説明書の類ってどうせ読まないでしょう。分かりづらいから説明するんじゃなくて、説明なしでも直感的に理解できるように作るほうが大事ですよね。「説明書がないと使い方がわからない」なんて言っているのは、頭が固い大人だけです(笑)。

 説明文はないし、ユーザー・インターフェースは英語だけど、誰でもすぐ使えるものができたと自負しています。子どもでも、大人が一度やってみせれば、戸惑いなく遊びますよ。子供の場合は、英単語じゃなく、どの位置にどういう機能を持ったボタンが出てくるのかを覚えるみたいです。効果音に「ぽちゃっ」とか「ぶにゅっ」みたいな少し汚い感じの音も用意したんですけど、これも子どもにウケてます(笑)。

DEARWONDERのコンセプトムービー
動画は前刀氏が自分で1コマずつ図形を書いて作った力作だそうだ
動画は前刀氏が自分で1コマずつ図形を書いて作った力作だそうだ

 DEARWONDERのキャッチフレーズは「Create Yourself」です。自分を解放し、子どもになって、自分を創る力を磨いてください。毎朝のほんのひとときでもアプリに触れて、思い込みから自由になることから始めてもらえたらと思います。

関連リンク
DEAR WONDER

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年6月9日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています