かつてアップル米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント(副社長)兼 日本法人代表取締役を務めた前刀禎明氏は、「iPhone X」をどう評価するのか。前刀氏が感じる新iPhoneの“寂しさ”とは?

前刀禎明氏。手には現在愛用中のiPhone 7
前刀禎明氏。手には現在愛用中のiPhone 7

 アップルが現地時間2017年9月12日、スマートフォン「iPhone」シリーズの最新機種「iPhone X」を発表しました。アップルが大好きな僕にとって待ちに待った発表でしたが、満足のいく点もあれば物足りない点もありました。

 発表を見て、僕がまず思ったことは「モノとしてとても良さそうだ」ということです。筐体表面の質感など、仕上げの品質は満足できそうに見えます。アップルもiPhoneのフラグシップ機ということで、ハードウエアとして品質の上では申し分ないものを作ってきたでしょうし、個人的な好みも含めて、この手に持ちたい製品になっています。先に個人的な結論を言うと、僕はこの製品を買うでしょう(笑)。

 初代iPhoneやiPhone 4Sは、持ったときに感触から伝わってくる質感の良さや、しっくりくる感じが素晴らしかった。その満足感があったから、使っているうちにどんどん愛着が増していきました。iPhone Xを手にした時にも、そんな感動があるとうれしいですね。

作り手の自己満足が先に立ってない?

 ただ、不満も多々あります。全面ディスプレーをうたうわりに、上部にはカメラやセンサーを収めた部分の切り欠きがあります。これがデザインとして良くない。画面の表示が、そこだけ凹んだように欠けるのも嫌ですね。

 また、切り欠きの右隣に並ぶ電池残量などのステータスアイコンも、配置が不格好。カメラを設置するために仕方がないのでしょうが、これなら全面ディスプレーにこだわらず、上部だけ細いフチを作ってもよかったし、切り欠きの左右だけ、ステータス表示部として常に決まった背景色を表示するような制御でもよかったのではないでしょうか。

「iPhone X」は画面上部が欠けるのが不満。アイコンの配置もバランスが悪く感じる
「iPhone X」は画面上部が欠けるのが不満。アイコンの配置もバランスが悪く感じる

 それから、背面のカメラ。厚さ7.7mmの筐体にカメラが収まらないので、カメラ部だけ突出しています。背面がフラットじゃないのが、なんとも気持ち悪いんですよね。これとディスプレーの切り欠きは同じ問題に起因していると思います。「ベゼルレス(フチなし)」「フルスクリーン」と言いたいがため、「(筐体が)薄い」と言いたいがための不自然で気持ちよくないデザイン。要は、作り手の自己満足が先に立って、ユーザーの感動に向けた設計になっていないのだと思います。

iPhone Xでもカメラは出っ張っている
iPhone Xでもカメラは出っ張っている

 本人認証機能を指紋認証(Touch ID)から顔認証(Face ID)へ切り替えましたが、これも今ひとつ。これによって誤認証の可能性が「5万回に1回」から「100万回に1回」に減らせるといいますが、これもスペックにとらわれた話のように思います。一般的なユーザーの感覚では5万回に1回レベルで十分。新機能ではあるけど、ユーザーにとって新しい価値を生んだとは思えないのです。

 顔認証機能を搭載するなら、例えば、アプリの起動などにも使えるようにしてほしかった。ユーザーがモーションをいくつか登録しておいて、右目でウィンクしたらメーラーが立ち上がるとか。視線追跡機能を搭載できれば、なおいいですよ。視線の動かし方で各種操作ができるようになれば便利だし、手動や音声での入力が難しいような障害を持つ人にも、使いやすくなるはずです。社会に新しい価値を提供できるでしょう。次期iPadには、ぜひ搭載してほしい機能ですね。

こうならよかった、新型iPhone

 僕ならどうしたいか。まずアイコンがずらずら並ぶ画面の見た目やユーザーインタフェースに手をつけます。例えば、今回搭載した人工知能(AI)を使って、そのユーザーがその時間帯によく使うアプリのアイコンだけを画面上に並べるようにしたら、見た目もすっきりするし、使いやすいと思いませんか。ほかのアプリを使いたいときは特定のアイコンを押せばアプリ一覧を表示して選べるような形にすればいい。

前刀氏の私物である、初代iPhone(奥)とiPhone 4s(手前)。前刀氏は「iPhone 4sは筐体、デザインとも黄金比。僕は一番気に入っている」という
前刀氏の私物である、初代iPhone(奥)とiPhone 4s(手前)。前刀氏は「iPhone 4sは筐体、デザインとも黄金比。僕は一番気に入っている」という

 今年12月に米国などで発売予定のAI搭載スピーカー「HomePod」との連携も考えられます。iPhone XからHomePodを遠隔操作できるとか、iPhone Xに電話がかかってきたら、音楽再生中のHomePodが自動で音量を下げるとか、ユーザーが「便利だな」「気が利いているな」と思うような連携機能があるとよかったと思います。

 僕がここに挙げたような機能は、現時点では、技術的に困難または不可能なことかもしれません。でも、アップルには、今ある技術の延長線上で単にスペックを上げた製品を作るのではなく、これまでにない素敵なことが出来る新しい製品として、iPhoneの新たなフラグシップ機を開発してもらいたかった。iPhone Xは確かに上質の製品ではあるけれど、ユーザーの予想や期待を超えて感動を呼ぶ製品にはならなかった。そのことが僕は残念です。

Apple Watchは従来機種と別次元へ

 一方、iPhone Xと同時発表したスマートウォッチの「Apple Watch Series 3」は、従来機種の改良にはとどまらない製品になりました。LTE通信機能を備えたことで、単体で通話ができるようになっています。アプリが豊富なiOSのスマートウォッチで、単体での通話機能を搭載したら、飛躍的に便利になりますよね。これなら、Apple Watchだけ腕に巻いて出かけてみたいと思うし、そうなると利用シーンがまず変わって、ひいてはライフスタイルにも変化が起きそうです。

「Apple Watch Series 3」は「新しい価値を提供する製品」(前刀氏)
「Apple Watch Series 3」は「新しい価値を提供する製品」(前刀氏)

 細かいことを言えば、Cellularモデルはサイドの「デジタルクラウン」がなぜか赤かったり、バンドのデザインも冴えないものが多かったり、気になる部分はあります。今回、エルメスなどとのコラボモデルも発表していますが、ハイブランドのデザインを取り入れたいなら、AppleWatchとして売らなくてもいいようにも思います。バンドとバンドに合わせたデザインの文字盤(のダウンロードキー)をセットにして別売すればいいののではないでしょうか。

 それでも、iPhoneの周辺機器ではなくなったApple Watchは実に魅力的。これまでの自社製品や競合他社製品と一線を画す、新しい価値をユーザーに提供する製品です。僕はいつでもそれを求めたい。特にアップルには、そんな製品を作る企業であり続けてほしいのです。僕は文句を言いながらもiPhone XとApple Watch Series 3を両方買うことになりそうですが(笑)、この2つの製品が持つ意義は、上述の通り、実はかなり違っています。かえすがえすも、それが少し寂しいですね。

(構成/赤坂麻実)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年9月22日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています