「最高の製品」の晴れ舞台はもっとエモーショナルに

 WWDC全体を通じて気になったのは、重役が入れ替わり立ち代わり何人も登壇するスタイルです。今回に限らず、近年はずっとその傾向ですが、果たしてそれでいいのか。誰が話しているのかは大切な要素ですからね。ティム(CEOのティム・クック氏)が自分の個性を生かしたやり方で、製品を次々に発表していくスタイルのほうが共感を呼びやすいんじゃないかという気がします。

 確かに、その製品の開発やマーケティングを担当している人がそれぞれ発表するのも、チームワークの見せ方の一つではあります。しかし、スティーブ(創業者のスティーブ・ジョブズ氏)がしたように、「これを開発したのはこのすばらしいチームだ!」と担当者の起立を促して、そのチームが観客の喝采を浴びられるように演出したっていいでしょう。

 僕が米アップルに入社した頃、「MacWorld(2009年まで開催されていたアップルの講演・製品展示イベント。現在はWWDCに集約)の2カ月前からはスティーブに難しい相談をするな」と言われていました。それぐらい、スティーブはプレゼンに懸けていた。あそこまでの徹底ぶりは彼だからこそですが、自分たちが最高の製品だと思って作り上げたものなら、それをデビューさせる舞台に熱心になるのは当然のことだと僕は思います

 製品発表の際に技術の説明から入ることも、発表会に多数の講演者が登壇することも、非常に多くの会社で一般的に行われていることです。そこにはそれ相応の合理的な理由もあります。ですが、アップルまで、その定型にとらわれてしまったか、と思うと寂しい。前回、ソニーはみんなに期待される宿命を負っているんだと書きましたが、アップルもそれは同じ。型にはまらず“遊び”の感じられる製品、サービス、マーケティングを僕はアップルに期待しているし、同じ思いの人は少なくないはずです。

 さて、今年はなんといってもiPhone誕生10周年です。WWDC 2017は僕にとって大満足とは言えない内容でしたが、今後発表されるはずのiPhone新モデルは大いに楽しみにしています。単なる10周年の記念モデルなんかではなく、「This is the best.」「これがiPhoneだ」という製品を求めたくなりますね。これまでの延長線上にある製品を「iPhone 8」として投入するのではなく、これぞ決定版という意味でナンバリングをはずして「iPhone」として発売してもらいたい。史上最高の新しいiPhoneに出会える日を心待ちにしています。

(構成/赤坂麻実)

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アップルのWWDC基調講演の映像

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年7月21日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています