そろそろ新卒採用が活発化する時期。企業関係者はもちろん、ワークショップなどで学生と話す機会が多い前刀禎明氏は、学生の就職活動、企業の採用活動に思うところがあるという。それは学生だけでなく社会人にも共通する「自分で考えること」の重要性だ。

学生相手の甘い言葉があふれている

 前回、企業内のコミュニケーションにおいて、バズワードを多用するのは危険という話をしました。新卒採用に関しても、はやりの言い回しはあるようです。それは、「企業はあなたが選ぶ時代」「働き方だって今は選べる」といった学生たちに聞こえのいい言葉です。

 学生や若い既卒組で、勤め先を本当の意味で選べる人なんて、ごく一握りです。多くの人は、何十もの企業にエントリーシートを提出し、面接や入社試験を受けて、やっと内定が出た企業に就職します。書類を出す企業は学生が自分で選ぶにしても、いわゆる「本命」企業はそのなかの1社か2社であり、その企業に受かるかどうかが問題と考えれば、「学生が企業を選ぶ時代」とは、言い難いものがあります。

 しかも、こうした甘言を吐く人たちは、「今が売り手市場だから」「学生には自分で企業を選んでほしいから」といった意図を持っているわけではありません。どこからか聞こえてきた感じのいい言葉を、たいした考えもなく発している。しいていえば“新しいことに理解のある大人”を演じたくて言っているんです。学生にはくれぐれも用心してほしいと思います。学生を真剣にだまそうと仕掛けてきた“わな”にやられるならまだしも、たいした意図もなく、雑に発せられた言葉を真に受けて惑わされるのは、あまりに残念ですから。

「働き方改革」で大人もイメージに流されがち

 昨今、政府の音頭で「働き方改革」が進められていますが、この言葉もゆがんで捉えられがちだと感じます。働き方改革の文脈にまぎれこんで「リモートワークで通勤地獄を抜け出したい」とか「ほどほどに働いてプライベートを充実させたい」とか「食べていくためにするライスワークとライフワークは別に考える」とか、かなり極端なイメージも目にします。

 当たり前ですが、リモートワークはそれを利用したほうが効率の上がる人、家庭での役割などとの両立に必要な人が利用すればいい。誰彼かまわず勧めるようなものではありません。オフィスは働く場所として整備されているので、仕事がしやすい環境には違いない。通勤で多少体力が削られても、出社したほうが仕事がはかどる人も多々いるはずです。

 「ほどほどに働く」というのも、文字通り実践すれば報酬まで“ほどほど”になるはず。充実したプライベートタイムを過ごせるのは、十分なお金があってこそ。若いうちに一生懸命働いて自分のポジションを築き上げた人が、年齢を重ねてから言うようなことです。若いうちから「仕事はそこそこにするつもり」は、まず成立しないのではないでしょうか。

 たまに「ライスワーク」「ライフワーク」といった言葉も聞きますが、これも罪つくりです。目の前にある仕事を「ライスワーク」と呼ぶことで、「これは俺の本領じゃない」と、精神的に逃げを打つ人もいると思います。今ある仕事に真摯に向き合えない人が、「ライフワーク」で活躍できるのか、僕には疑問です。

言葉に流されず、自分で考えてみる

 先日、ある学生に「自分の短所は何ですか」と聞いてみました。その学生は「新しいことに取りかかるとき、最初の飲み込みが周りより遅い。後で挽回できるが、最初の段階では後れを取りがち」と答えました。そこで僕は「今度はその短所を長所として言い換えてみて」とリクエストしました。学生は少し考えてから「与えられた情報や条件をうのみにせず、一度自分で整理や分解してみる。その分、時間はかかるが、きちんと理解できる」と答えました。

 この答えはとても良かったと思います。与えられた質問や課題に対し、決まり切った言い回しや聞いて気持ちのいい誰かの言葉に流されるのではなく、自分の頭で考えてみてほしい。課題が提示されたら、すぐに答えを出すのではなく、なぜこの課題が今ここにあるのか、他に見方はないのかを考える。短所を長所に言い換えたように、物事を多角的に見てみると、本質が見えてきて、課題をただクリアするよりも大きな成果が得られます。

 就職活動についていえば、学生たちが考えるべきは、自分のことです。面接で想定される質問への回答案なんかは後回しでいい。まずは自分自身のことを考えてみましょう。よく「就職活動には自己分析が大切」と言われますが、重要なのは単に過去の経験を振り返ったり書き出したりすることではありません。様々な事象や課題について、自分の言葉で語れるようになることです。

 これは就職活動に限ったことではありません。既に働いている大人たち、さらには企業自体にとっても、「自分のことを考えてみる」ことは大切です。例えば、自分の強みと弱みを理解すると、周りに流されて考えなしに何かを決めることが減って、あらゆることを自覚的に行えるようになります。やや誇張を自覚して言いますが、人生の濃度が変わってきます。

 ただ、自分のことは認識しづらいもの。はたから見るとすごいことでも、自分にとっては当たり前だったりします。「お前ってこうだよな」「あなたってこういうところがあるね」など、周りの評を普段からちょっと注意して聞いておくといいでしょう。企業に置き換えると、消費者の声に耳を傾けることの重要性は、こういうところにあるのです。

今は画一化しやすい時代

 今は情報があふれている時代です。例えば、事件や事故、誰かの言動など、ある出来事に触れて、何かを思ったとします。そんなとき、なんの気なしにスマートフォンに触れると、SNSなどを通じて友人やフォロー中のユーザーの反応が自分の中になだれこんでくる。思っただけで、まだ形にはなっていなかった自分の思いや考えが“みんな”の反応に押し流されてしまうことがよくあると思います。

 ましてや今は、新聞や雑誌などパッケージ化された情報を読むよりも、インターネットで自分の好きな情報にだけアクセスする人が多いですよね。SNSのタイムラインには、自分がフォローしているアカウントの投稿が並ぶでしょうし、表示される広告もパーソナライズされています。これは便利で快適ですが、入ってくる情報が最初から偏りがち。どうしても、認識の幅が小さくなりやすい傾向にあります。

 現代は個性の時代、多様化の時代といわれますが、実は画一的になりやすい世の中です。時には自分のことを考えてみる時間が必要です。特にSNSを見て「みんなこう言っているし、こちらが正しそうだ」と“多数決”を取るような癖がついている人、意見の蓋然性を「いいね!」の数などで測ってしまいがちな人は、こうした情報に触れる前に、まずは自分で考えをまとめてみることをお薦めします。自分の変化や成長を自覚するために、定期的な「自己分析」が大切なのは、学生だけではないのです。

(構成/赤坂麻実)