言葉に流されず、自分で考えてみる

 先日、ある学生に「自分の短所は何ですか」と聞いてみました。その学生は「新しいことに取りかかるとき、最初の飲み込みが周りより遅い。後で挽回できるが、最初の段階では後れを取りがち」と答えました。そこで僕は「今度はその短所を長所として言い換えてみて」とリクエストしました。学生は少し考えてから「与えられた情報や条件をうのみにせず、一度自分で整理や分解してみる。その分、時間はかかるが、きちんと理解できる」と答えました。

 この答えはとても良かったと思います。与えられた質問や課題に対し、決まり切った言い回しや聞いて気持ちのいい誰かの言葉に流されるのではなく、自分の頭で考えてみてほしい。課題が提示されたら、すぐに答えを出すのではなく、なぜこの課題が今ここにあるのか、他に見方はないのかを考える。短所を長所に言い換えたように、物事を多角的に見てみると、本質が見えてきて、課題をただクリアするよりも大きな成果が得られます。

 就職活動についていえば、学生たちが考えるべきは、自分のことです。面接で想定される質問への回答案なんかは後回しでいい。まずは自分自身のことを考えてみましょう。よく「就職活動には自己分析が大切」と言われますが、重要なのは単に過去の経験を振り返ったり書き出したりすることではありません。様々な事象や課題について、自分の言葉で語れるようになることです。

 これは就職活動に限ったことではありません。既に働いている大人たち、さらには企業自体にとっても、「自分のことを考えてみる」ことは大切です。例えば、自分の強みと弱みを理解すると、周りに流されて考えなしに何かを決めることが減って、あらゆることを自覚的に行えるようになります。やや誇張を自覚して言いますが、人生の濃度が変わってきます。

 ただ、自分のことは認識しづらいもの。はたから見るとすごいことでも、自分にとっては当たり前だったりします。「お前ってこうだよな」「あなたってこういうところがあるね」など、周りの評を普段からちょっと注意して聞いておくといいでしょう。企業に置き換えると、消費者の声に耳を傾けることの重要性は、こういうところにあるのです。

今は画一化しやすい時代

 今は情報があふれている時代です。例えば、事件や事故、誰かの言動など、ある出来事に触れて、何かを思ったとします。そんなとき、なんの気なしにスマートフォンに触れると、SNSなどを通じて友人やフォロー中のユーザーの反応が自分の中になだれこんでくる。思っただけで、まだ形にはなっていなかった自分の思いや考えが“みんな”の反応に押し流されてしまうことがよくあると思います。

 ましてや今は、新聞や雑誌などパッケージ化された情報を読むよりも、インターネットで自分の好きな情報にだけアクセスする人が多いですよね。SNSのタイムラインには、自分がフォローしているアカウントの投稿が並ぶでしょうし、表示される広告もパーソナライズされています。これは便利で快適ですが、入ってくる情報が最初から偏りがち。どうしても、認識の幅が小さくなりやすい傾向にあります。

 現代は個性の時代、多様化の時代といわれますが、実は画一的になりやすい世の中です。時には自分のことを考えてみる時間が必要です。特にSNSを見て「みんなこう言っているし、こちらが正しそうだ」と“多数決”を取るような癖がついている人、意見の蓋然性を「いいね!」の数などで測ってしまいがちな人は、こうした情報に触れる前に、まずは自分で考えをまとめてみることをお薦めします。自分の変化や成長を自覚するために、定期的な「自己分析」が大切なのは、学生だけではないのです。

(構成/赤坂麻実)