技術などのトレンドを語るとき、頻繁に話題に上るのが様々な専門用語。ビジネスをする上で理解しておくことは大事だが、ともすると“バズワード先行”になっているように感じると前刀禎明氏は警告する。その問題点とは?

 「ダイナミックプライシング」「サブスクリプション」「AI」……企業の企画会議やプレゼンテーションに参加すると、ここ数年で急に聞く機会が増えた用語が資料の中にあふれかえっていることがよくあります。これらを見ると、製品やサービスの企画・開発が“バズワード(特定の業界で使われる定義が曖昧な専門用語)先行”で進んでいるように感じて、とても心配しています。

言葉の意味を本当に分かっているのか

 これの何がまずいのかというと、意味の理解度や解釈が人によってまちまちであることです。古くからあって世の中に定着している言葉と違って、新しい用語はそれが持つ辞書的な意味さえ知らない人が一定数います。また、辞書的な意味は把握していても、それが自分たちのビジネスにおいて具体的に何を意味するのか、どんな影響を持ち得るのか、という深いところまでは理解していない人がいます。

 さらに、その人なりに理解を深めていたとしても、会議に出席する他の人たちとかみ合わないということもあります。つまり、あらゆる段階で、理解度の不一致や解釈の不一致が起こりやすい。こうして単なるバズワードになっていく。新語である限り、これは避けられないことなのです。

 例えば、会議で参加者に「IoTって何のこと?」と尋ねたとして、全員から同じ答えが返ってくることはないはずです。ある人は「モノのインターネット」という辞書的な言い回しを使うでしょうし、別の人は「あらゆるものがインターネットにつながる世界」ともう少しかみ砕いたイメージを答えるかもしれない。また別の人は「センサーでいろんなものから情報を取ってクラウドにデータを集めて……」と具体的なシステムを想起するかもしれません。

 目に見える技術トレンドと共に浸透してきた用語でさえこうです。これがより抽象的なコンセプトを表すものになってくると、理解の食い違いはますます大きくなります。食い違いというより、真の意味で理解している人がそもそも少ないのかもしれません。「デザイン思考」って何をどうすることなのか。「ブロックチェーン」と聞いて仮想通貨以外にイメージできるものはあるか。「アンバサダーマーケティング」と「インフルエンサーマーケティング」はどう違うのか。「サブスクリプション」と「定額制」は?

 価値観や情報を共有すべき場で、意味がよく分からない言葉を使うべきでないのは、本来当然のことです。しかも、これらの用語には、質問を封じる力があることに注意が必要です。受け取り手を「今更聞けない」という心境にさせるので、意味が分からない人がいても置き去りで話が進んでいきます。発言する側も質問されないことは織り込み済みですから、自分自身も理解しきれていなくても「適当にちりばめておけば格好がつく」という感覚になりがち。結果、言うほうも聞くほうもあやふやな理解のまま、なんとなく会議や企画が進行していくのです。コンセプトがボケたまま出来上がるビジネスに、明るい未来があろうはずもないですよね。

「遅れまい」と思った会社はもう遅れている

 そもそも、これらの用語の多くは、昔からある概念とほぼ同じものを、時代に合わせて言い換えただけのものだったりします。そうした用語を企画に取り込んだところで、言葉として新しいだけで、新しいビジネスは生まれません。たとえ、新しいコンセプトを表す“真に”新しい用語であったとしても、どこかで目にしたものを「これをキーワードにしよう!」と思って取り入れた時点で、その会社はフォロワーにしかなり得ない。イノベーターにはなれないのです。

 はやりのキーワードを企画書に並べたがる企業は「(時流などに)遅れまい」と思っているのでしょうが、その時点でもう遅れています。そうした会社では、経営幹部が「うちもフィンテックで何かやらないと」などと言ってしまう。本来はその「何か」が最初にあり、それを実現するためのフィンテックなのに……思考停止の極みです。

 理想は、自分たちが世の中に提供したい価値を追求し、ユニークなサービスや製品を生み出したことで、そのサービスや製品に絡んだ語句が注目されることですよね。期せずしてはやりのキーワードを生む、もしくは知らず知らずのうちに先取りしているという状態です。

 日本企業でいえば、通信販売大手のジャパネットたかたが好例でしょう。創業者の高田明氏が特徴的な高い声と方言交じりの熱っぽい口調で商品を宣伝したことが、売り上げ増加や会社の知名度向上につながりました。高田氏は販売側でありながら、最近の言葉でいうアンバサダーマーケティングに近い効果を発揮していたと思います。そんな言葉がなかった時代に始めて、成功しています。

今はやっているものの先を見る

 もっとも、だれもが高田さんになれるわけではありませんし、はやりのキーワードを無視してかかればいいというものでもありません。

 ではどうすればいいか。アニメーションスタジオの米ピクサー・アニメーション・スタジオのやり方が参考になると思います。ピクサーには「Collective Creativity(集団の創造性)」を高めるための3つのルールがあります。1つ目は、だれもがだれとでも自由にコミュニケーションできること。2つ目はだれでも気兼ねなくアイデアや意見が言えること。そして3つ目が、イノベーションの最新情報を常に把握することです。

ピクサーには重視する3つのルールがある
ピクサーには重視する3つのルールがある

 イノベーションの最新情報を把握するのは、技術トレンドを注視して、その先を見るためです。現在のトレンドがこの先、世の中に何をもたらしそうか、自分たちのビジネスにどう生かすと新しい価値を提供できるのかを想像する。ピクサーはそれを徹底して現在の成功を収めています。はやりのキーワードを企画書に詰め込んだだけで先進的な気分になってはいけない。何がはやっているかを知ることは、創造を始めるほんの入り口でしかないのです。

 また、トレンドを取り入れるときは、自分たちが提供したい価値がまず先にあることが大前提。そして、世間ではやっている用語をそのまま用いるのではなく、一度自分の言葉に置き換えてみてください。小学生や中学生に伝えるつもりでシンプルな言葉に置き換えてみる。それができれば、自分も理解を深めることができるし、仕事仲間とも考えを共有しやすいはずです。

 僕が米アップルで携帯音楽プレーヤー「iPod mini」のマーケティングに携わったときは、まさにこれをやりました。カスタマーエクイティを構成する3つの要素――ブランドエクイティ、バリューエクイティ、リテンションエクイティ――を「やっぱり・なるほど・ずっと」と置き換えて社員に伝えたのです。みんなで考えを共有し、行動を起こすのに役立ったと思っています。言葉は咀嚼(そしゃく)し、自分のものにして使うことが大切なのです。はやりのキーワードを唱えているだけでは何も変わりませんよ。

(構成/赤坂麻実)