作るべきは「AI家電」や「IoT家電」ではない

 LGの巻き取り型テレビは、アイデア自体がすごく斬新だとは思いませんが、こうだったらうれしいなと誰もが夢想するようなことを技術の力でどこより早く実現したところに意味があります。画面を3分の1ほど出して文字情報などを表示する「Line View」機能も気が利いていますよね。LGは曲がるディスプレーという技術を、製品として企画・構築し、ユーザーに新しいスタイルを提案したと言えます。こうしたビジネス構築力が、単なるハードウエアのメーカーで終わるのか、新たなプラットフォーマーになり得るのかを分けるところだと思います。

画面の3分の1だけを出して、時計や天気予報、写真などを表示する「Line View」(画像出典/LGエレクトロニクス)
画面の3分の1だけを出して、時計や天気予報、写真などを表示する「Line View」(画像出典/LGエレクトロニクス)

 その意味では、ソニーがCES 2019に出展した音響技術「360 Reality Audio」は面白いなと感じました。最大24個の音源を持った立体的な音場を仮想的に生み出す技術です。ソニーは対応スピーカーを販売すると共に、この技術をオープンソースにする考えだとか。アプリ側にこの技術が組み込まれると、ユーザーの使うハードウエアにかかわらず、3D音響を体験できます。米グーグルのスマートフォン「Pixel 3」が、カメラの体験価値をソフトウエアで飛躍的に高めているのと方向性は似ています。ソニーもAV業界でかつてはプラットフォーマーでした。オープンソースにするところに、目先の収益よりも市場でのプレゼンスを拡大したい思いが表れていますね。

 他方、悪い意味でこのごろ気になっているのが「AI家電」や「IoT家電」と銘打った製品です。そうしたバズワードを並べることから企画を始めたのではないかと疑いたくなる製品をよく見かけます。「AI○○」と言いながら、その実、ディープラーニングのデータが貧弱で、実現できる機能があまり魅力的ではない製品が少なくありません。AIというからには、高度で気の利いた機能をいろいろと実現してくれるのだろうと期待するユーザーの気持ちを裏切っています。技術はあっても考え方がマズいとこうなってしまうのです。

 “もう一歩先”がない言葉をよく聞くようになったことも憂えるべき状況だなと思います。経営者が口にするスローガンやキャッチフレーズもそうです。例えば「我々は単なるサービスではなく、お客様に文化と時間を提供していく」というのはありがちな言葉。確かに響きはいいものの、具体的に何をどうするのか、イメージできる人がいるでしょうか。ただ言葉足らずなだけで、社内ではイメージがしっかり共有できているならまだしも、社員も理解できていなかったり、果ては言った当人にさえ具体的な構想がなかったりします。まずAIやIoTありきで製品を企画していくのと同じで、聞こえのよさに溺れて本質を見失っているのです。

 企画やマーケティングと呼ばれる仕事の本質は、「もしもこんなことができたら便利じゃない?」と誰もがうれしくなるような価値を思い描くことにあります。技術的に可能か、採算が合うか、上司にOKをもらえそうか、今バズっているキーワードをどう絡めようか、ペルソナをどんな設定にしようか、そういうことを優先的に考えていくとビジネスは迷走します。当たり前のことですが、シンプルに世の中へ提供したい価値を突きつめることが、人を魅了する商品を生み出す唯一の方法で間違いありません。

(構成/赤坂麻実)