大手IT企業の参入が相次ぐQRコード決済サービスの覇権争いの行方を探る特集の第4回は、2018年4月に参入を表明したヤフーの戦略をひも解く。PCインターネットの世界の王者ヤフーも、決済サービス「Yahoo!ウォレット」が利用できるリアルな小売店は、4月の参入表明時点では1店舗もなし。最後発からのスタートとなった。LINE、楽天などとの競争をいかに勝ち抜く腹積もりなのか──。

Yahoo! JAPANアプリを使ったQRコード決済のイメージ  (C)アフロ
Yahoo! JAPANアプリを使ったQRコード決済のイメージ (C)アフロ

 「2018年は3つのNo.1を目指す。その1つが、『モバイルペイメント取扱高No.1』だ」──。18年4月27日に開催されたヤフーの決算発表会で、川邊健太郎社長は高らかにこう宣言した。

 この目標実現のために、ヤフーは導入コストが安価で中小・零細の小売店でも導入しやすいQRコード決済サービスの普及に力を入れる。18年4月には、Yahoo! JAPANアプリ上にあるYahoo!ウォレットで、QRコードとバーコードを表示し、小売店側がそれを端末などで読み取る方式で税金・公共料金の決済を開始。6月には、同方式で小売店での買い物の決済ができるようになり、秋には、小売店側が表示するQRコードをYahoo! JAPANアプリで読み取って決済する方式にも対応する。

4000万人のYahoo!ウォレット利用者が強み

 Yahoo!ウォレットは、あらかじめ登録したクレジットカードや銀行口座で、「Yahoo!ショッピング」や「ヤフオク!」などで簡単に決済できるサービスだ。ヤフー執行役員の谷田智昭コマースカンパニー決済金融統括本部長は「Yahoo!ショッピングやヤフオク!の決済にYahoo!ウォレットを活用しているユーザーは約4000万人いる。このユーザーに、同じ感覚でリアル店の決済でも使ってもらうことを目指す」と語る。EC、オークション利用者を多く抱えることがヤフーの強みだ。

 もっとも、Yahoo!ウォレットを利用できる小売店はゼロから開拓しなければならない。谷田氏は「ECに出店しているリアル小売店にまず声をかけ、合わせて地域ごとに、代理店なども使いながら地道に営業していくことで、利用できる小売店をとにかく増やしていく」と語る。まず、福岡市の小売店開拓に力を注ぐという。福岡ソフトバンクホークスの本拠地「ヤフオクドーム」もあり、「ヤフーグループとして地の利がある」(谷田氏)。

 では、ヤフーが小売店をゼロから開拓するための武器はいったい何か──。1つ目の矢は、小売店が負担する決済手数料などを3年間、事実上ゼロに抑えることだ。小売店側が表示するQRコードを消費者がアプリで読み取る方式を始める18年秋から、決済手数料0円、導入手数料0円、入金手数料0円にして、3年間継続する予定。しかし、LINE Payも当初3年間は決済手数料0円に踏み切っており、これだけでは優位に立てない。

ショッピング取扱高は前年比31%増の急成長

 そこで後発のヤフーが、先行するLINEや楽天などと伍して競争するためのもう1つの武器があるという。2本目の矢が、「Yahoo!ウォレットのQRコード決済サービスを導入してもらえれば、単なる決済ソリューションや集客ソリューションにとどまらず、データを収集・分析するマーケティングソリューションとしても機能する」(谷田氏)という、うたい文句である。

 例えば、Yahoo! JAPANアプリやYahoo!地図アプリを利用中の人が、ヤフーのQRコード決済サービス導入店の近くを通ったら、当該小売店でQRコード決済に限り使える割引クーポンがプッシュ通知で表示される。また、小売店がQRコード決済を導入した際に、そのエリア内でYahoo!ショッピングやヤフオク!をよく利用する人に、好みに合わせた情報を配信して来店を促す。こういった、いわゆるレコメンドサービスの展開を考えているのだ。

 ちなみにヤフーの研究機関であるYahoo! JAPAN研究所では、機械学習に代表されるAI(人工知能)の活用で、スマートフォンのプッシュ通知の開封率を上げる実験を約68万人のユーザーを対象に実施し、開封までの時間が平均49.7%短縮され、開封数が最大約5.5%上がる成果を得ている。その論文は著名なカンファレンスでトップ3に入り、世界的に評価されている(関連記事「ヤフーが連携戦略で研究論文数を倍増、他の企業との共同研究も検討」)。こうしたビッグデータとAI技術を生かしたレコメンドが小売店開拓のカギを握る。

ヤフーはユーザーの購買データなどを使ってリアル店でもレコメンドサービスを展開する考え
ヤフーはユーザーの購買データなどを使ってリアル店でもレコメンドサービスを展開する考え

 「ヤフーはもともと、ネット広告をコンテンツと考え、このコンテンツを適切なタイミングと適切な手法でネット上のユーザーに届けることで成長してきた。これは広義のレコメンドサービスと言ってよい。今回のYahoo!ウォレットを使ったモバイルペイメントサービスは、決済だけにとどまらず、この延長線上にも位置付けられる。リアルな小売店を利用するユーザーにも同様にレコメンドサービスを展開していきたい。約4000万人のユーザーは既にいる。このユーザーに情報を伝える手段もある。後は、何をどう伝えるかを今設計しているところだ」と谷田氏は語る。

 17年度のヤフーのショッピング事業の取扱高は6276億円、前年同期比31%増の伸びを見せている。こうしたレコメンドサービスなどの積極的展開が貢献しているという。

 さらにヤフーは、その先も見据えている。小売店が得る「Yahoo!ウォレットを使ってユーザーが何を買ったかというデータ」と、ヤフーが得る「Yahoo!ウォレットを使って誰がどこで買ったかというデータ」をDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)に収容し、突き合わせれば、Yahoo!ウォレットのユーザーに対して、さらに精緻なマーケティングを展開できる可能性が高まる。谷田氏は、「Yahoo!ウォレットでも使っているYahoo! JAPAN IDを軸にして、ユーザーのデータをまとめるDMPサービスも考えていきたい」と展望を話す。

将来のTポイントとのデータ連携も視野に

 もう1つ、Yahoo!ウォレットを使ったQRコード決済サービスの普及を考えるうえで外せない要素がある。ヤフーが提携するTポイントの存在だ。これが3本目の矢として期待できる。先行するLINEも楽天も、ポイント還元率を高めることで、ユーザーがQRコード決済を利用するよう仕向けている。ヤフーの場合も、Tポイントをどのように活用するかが普及のカギを握りそうだ。

 また、レコメンドサービスを展開するうえでも、Tポイントと連携できれば、ヤフーがグループとして把握しきれないユーザーの行動履歴を、Tポイントの利用履歴から分析できる。「現在はデータの収集・分析という面でTポイントとYahoo! JAPAN IDをひも付けてはいない。まずはユーザーの許諾を取る必要があるが、将来はデータの収集・分析の面でも連携できる可能性はある」と谷田氏は言う。

 もっとも、マーケティングツールとしてのYahoo!ウォレットが機能し、レコメンドサービスを展開できるようになるのは、「どんなに早くても今秋から」(谷田氏)の見込み。現状では、「リアルな小売店から得られるデータの量が乏しい」(同氏)からだ。サービスを導入する小売店を今秋までに急増させることが第一歩となる。

 「LINEが掲げる目標ぐらいは、リアルな小売店を開拓していきたい」(谷田氏)。つまり、Yahoo!ウォレットを使ったQRコード決済サービスを、年内には100万カ所程度で利用できるようにしたいというのがヤフーのもくろみと言える。「手数料0円」や「マーケティングツールとしての活用」に加えて、どんな手立てを繰り出してくるか。グループの総力の結集が求められるだろう。

(編集部注)本記事掲載の4日後、ヤフーはソフトバンクとともに本事業を進めることになった。詳細は「QRコード決済サービスにソフトバンク全面参入、ヤフーと連携」の記事で。