LINEが、キャッシュレスの送金・決済サービス「LINE Pay」を使ったQRコード決済の普及に一段と力を入れ始めた。小売店の導入コストを引き下げ、手数料を0%にするだけでなく、決済した来店者にクーポンなどを提供して再来店を促せる機能も開発中。ユーザーに対しても、LINEポイントの還元率を高めて利用を促す。乱立するQRコード決済サービスの中で、LINEは国内7500万人のユーザー数を最大の強みにしてシェア拡大にまい進する。

 金融サービスの充実を目指すLINE。子会社のLINE Pay(東京・新宿)を通じてLINE Payを提供する。QRコード決済サービスはその一機能という位置付けだ。

 LINE Payを普及させるにはリアルな小売店での支払いに使ってもらうことが不可欠。そのため、小売店側の負担が少ないQRコード決済サービスを使い、LINE Pay対応の店舗を拡大しようというのだ。

 そのため、小売店側の負担を減らす大胆な策に打って出た。2018年6月28日にLINEが千葉県浦安市で開催した戦略発表会の席で、LINE Payが新たに提供する「QRコード決済を導入できる企業向けアプリ」を使ったQRコード決済に限り、導入した小売店が支払うべき決済手数料を18年8月1日から3年間にわたって0円にすると発表したのだ。

LINE Payが提供するQRコード決済サービスのイメージ(赤い吹き出しは想定される収益源)
LINE Payが提供するQRコード決済サービスのイメージ(赤い吹き出しは想定される収益源)

 従来、クレジットカードや非接触式電子マネーといったキャッシュレス決済サービスを導入するには、これらを読み込む端末を小売店がコストを負担して用意する必要があった。しかし、LINE Payが提供するQRコード決済サービスなら、スマホ1台用意すればよい。店舗向けQRコード決済用アプリなら決済手数料も0%なので、小売店側が負担するコストは劇的に減り、導入へのハードルは限りなく低くなる。

 さらにLINEは、LINE PayでQRコード決済サービスを利用するユーザー側にも、大きなメリットを与えて普及を後押しする。

 LINE PayでQRコード決済を利用した場合に限り、通常よりも3ポイント高く「LINEポイント」を還元する施策を8月から始める。LINE Payは利用額に応じてランクが上がり、還元率が高まる「マイカラー」プログラム制度を取り入れている。最高ランクの「グリーン」カラーであれば、利用金額の2%に3ポイント上乗せした5%が還元される。このポイントはLINE Payでの支払いに使えるため、さらにQRコード決済の利用を促すことにつながる。こちらは18年8月1日から1年間の実施となる。

QUICPayとの提携で72万カ所で利用可に

 利用店舗の拡大へはJCBと手を組んだ。JCBが実質的に運営する非接触式電子マネー「QUICPay」と連携し、大規模小売店などを中心とする国内約72万カ所のQUICPay加盟店で、LINE Payでの支払いを可能にした。Android対応スマホの利用者は、小売店に設置されたQUICPay対応読み取り端末にスマホをかざせば、LINE Payのアカウントにチャージ済みの残高から自動的に支払われる仕組みだ。

 QRコードではなくQUICPayを利用した決済であっても、LINE Payを使う機会が増えれば、ユーザーにとってLINE Payの利用が習慣となる。QRコード決済サービスだけが用意されている小売店でも自然にLINE Payを使うようになると見込む。

 LINEは、小売店に対しては導入コストや決済手数料を低減し、ユーザーに対しては高還元率のサービスやLINE Payの利用機会を提供することで、QRコード決済の本格普及に挑む。その目的達成に向けて18年度は、AI(人工知能)とLINE PayなどのFinTech事業に合わせて300億円を投じるというから、その本気度が伝わってくる。

個人間送金を利用の呼び水に

 もっとも、QRコード決済サービスに注力する競合他社も、LINE同様、決済手数料の引き下げやポイント付与といった施策を展開してくる可能性はある。その場合、LINE Payの強みはどこにあるのか──。LINE Payの長福久弘取締役COO(最高執行責任者)は、「日本で最大のコミュニケーションツールであるLINEの上で展開されるサービスというのが最大の強み」と話す。

 実際、LINE Payは、競合他社と比べると、個人間送金サービスをかなり重視する。他社の多くのサービスがクレジットカードとひも付けて決済する仕組みになっているのに対し、LINE Payが原則クレジットカードではなく、登録済みの銀行口座経由や現金によるチャージで決済する仕組みを取る。これは個人間送金を簡単にできるようにするためだ。個人間送金の応用として、飲み会などの会計を割り勘する際も、全員がLINE Payを使っていれば簡単にできる。

 「飲み会の席でLINE Payを使っていないユーザーが1人だけいたような場合、『早く使えよ』と自然に加入が促進される。これはLINE Payならではのマーケティングになる。それに、個人間送金を当たり前に使うユーザーは、LINE Payの中に一定の残高をチャージするようになる。この残高をリアルの小売店で利用してもらえれば、LINE Payによる決済の頻度も増やせる。ユーザーに常に利用してもらえる可能性が最も高いのがLINE Payだ」と長福氏は強調する。

 18年6~7月にかけては、LINE Payを使って友だちに10円を送るだけで、ローソンやマクドナルドの商品がもらえるキャンペーンを実施し、LINE Payの個人間送金のお試し利用を促進した。

決済利用者へクーポンの配信を可能に

 小売店側にとっても、LINE Payを導入するメリットは大きい。LINE Payは現在、LINE Payで決済した来店者をリスト化して来店頻度などに応じてクーポンを配信し、再来店を促せる機能を開発中だ。一部の小売店で実験している。「年内には正式なサービスとして提供したい」(長福氏)と言う。

 実現すれば、小売店はLINE Payで決済した客に対し、1週間後、あるいは1カ月後などにLINE上でメッセージを送り、再来店を促すといった販促策が可能になる。「小売店にとって導入がコストでしかなかったキャッシュレス決済サービスが、“資産”に変わる」(長福氏)というわけだ。競合他社がこのマーケティングサービスを提供するには、メールアドレスの登録などLINE Payに比べて一手間余計にかかる可能性が高い。QRコード決済サービスの導入先に迷う小売店にとって、このマーケティングサービスはLINE Payをかなり優位に立たせそうだ。

 もっとも、順風満帆に見えるLINE PayのQRコード決済サービスだが、キャッシュレス社会到来への切り札となり得るかというと、課題がないわけではない。QUICPayとの提携でLINE Payを利用できる小売店の数は見かけ上増えるが、そこから先、中小・零細の小売店にQRコード決済サービスを普及させる営業力があるかどうか。LINE公式アカウントと統合した「LINE@」を利用していた店舗を軸に、まずはどこまでのスピードで普及させられるかが問われる。

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