※日経エンタテインメント! 2019年2月号の記事を再構成

2000年代半ばから、配給だけでなく邦画やアニメの自社製作に注力してきたワーナー ブラザース ジャパン。日本を世界のコンテンツセンターにするために始めた新しいプログラムの詳細を、同社でローカルプロダクションを統括する池田宏之氏が語る。

池田宏之(いけだ・ひろゆき) IVSテレビ制作、総合ビジョンを経て2003年ワーナーエンターテイメントジャパン(現ワーナー ブラザース ジャパン)入社。07年角川映画入社。実写映像推進局長として「ルパン三世」など多くの映画を製作。17年7月1日付けで現職(ワーナー ブラザース ジャパン合同会社 バイスプレジデント 上席執行役員 ローカルプロダクション統括)
池田宏之(いけだ・ひろゆき) IVSテレビ制作、総合ビジョンを経て2003年ワーナーエンターテイメントジャパン(現ワーナー ブラザース ジャパン)入社。07年角川映画入社。実写映像推進局長として「ルパン三世」など多くの映画を製作。17年7月1日付けで現職(ワーナー ブラザース ジャパン合同会社 バイスプレジデント 上席執行役員 ローカルプロダクション統括)

 日本の映画人の多くが抱く夢の1つが、世界市場への進出だ。それもアートフィルムではなく、商業的成功が見込める米ハリウッドメジャー製作のスタジオ作品として、世界に打って出たいと考える人は少なくない。これまで俳優では、渡辺謙、真田広之、加瀬亮などが、スタジオ作品へ出演し、実績を積んできた。直近では小栗旬のハリウッド版新作ゴジラ映画への挑戦が話題になった。しかし、監督やプロデューサーでスタジオ作品に関わり、成功を収めた人間はほとんどいない。スタジオ作品で活躍するクリエーターに影響を与えた多くの監督はいるものの、世界市場で商業的成功を得たとは言い難いのが現実だ。

 この状況を打開するべく、15年近く自社製作に注力してきたワーナー ブラザース ジャパン(WBJ)が、新たなプログラムを始動させた。日本の若手監督とWBJのプロデューサーを米国本社に送り、企画をプレゼンさせ、スタジオ作品として製作して、世界市場へ進出をもくろむというプログラムだ。WBJでローカルプロダクション(自社製作)を統括し、今回のプログラムを仕掛けた池田宏之氏に、その狙いや背景、今後の展開などを聞いた。

Point1
邦画大作で成功した次の段階 日本発の企画を米国で映画化へ

「るろうに剣心」シリーズや「銀魂」シリーズなど、邦画大作の製作・配給で成功を収めたWBJは、次の段階として、日本の若手監督の企画をハリウッドで映画化し、世界市場へ進出することをもくろむ。企画については、広く募集する形ではなく、実績を踏まえて若手監督を指名し、了承を得た上で企画を考えてもらう形を考えているという。

『るろうに剣心』(左) 『銀魂2 掟は破るためにこそある』(右)
『るろうに剣心』(左) 『銀魂2 掟は破るためにこそある』(右)
©和月伸宏/集英社 © 2012 『るろうに剣心』製作委員会(左) ©空知英秋/集英社 © 2018 映画『銀魂2』製作委員会(右)

 日本の映画界では、実写の分野でもアニメの分野でも、優れた才能を持つ多くのクリエーターが活躍しています。しかし、これらの才能が海外でも積極的に活躍しているかという、そうとは言えません。同じアジアの中国や韓国のクリエーターと比べても、後れを取っていると言ってよいのが現実でしょう。

 そこで2017年7月に私がWBJに復帰し、ローカルプロダクション統括の上席執行役員に就いてから、日本の若手監督をWBJのプロデューサーとセットにして米国のワーナー ブラザース本社に送り込み、劇場用映画の企画をプレゼンさせる機会を作ることを考えてきました。

 その企画を米国の本社が取り上げ、ブラッシュアップしたうえで実際に製作にゴーサインを出すことになれば、日本発の企画が、日本の映画監督の手で、世界市場を見据えたスタジオ作品として実現することになります。監督を任された作品が、製作費数百億円という超大作になる可能性だって、あるのです。

 今回実現したプログラムで、そうした考えがようやく形になりました。名付けて「WB'S Young Artists and Creators' Incubation Program(WB YACIP)」です。

 うまくいけば、WBJとしてその才能に期待する日本の若手監督を定期的に選び、WBJのプロデューサーとコンビを組ませて企画を考えてもらい、米国本社に送り込んでプレゼンしてもらうという、恒常的なプログラムに育てていきたいと考えています。

第1号は小泉徳宏監督

 実は既に第1回のプログラムの企画プレゼンは終わっています。WBJとして今回選んだ若手監督は、映画『ちはやふる』全3作を撮り、現在、38歳になる小泉徳宏氏です。18年10月27日から11月2日まで、WBJのプロデューサー、関口大輔氏とともに渡米してもらい、ワーナー ブラザースの本社で、担当役員と5人のプロデューサーに向かって企画をプレゼンしてもらいました。もちろん英語で、です。

 本社からはかなり良い手応えが返ってきました。どのような形に落ち着くかはまだ分かりませんが、小泉氏がプレゼンした企画を軸にして、スタジオ作品として製作する方向で話が進んでいくことになりそうです。

 このプログラムのもう1つのポイントは、ワーナー ブラザースの本社が、かなり本気だということです。映画「GODZILLA ゴジラ」を製作したレジェンダリー・ピクチャーズのような、ハリウッドメジャーと契約を交わして実際にスタジオ作品を作る制作会社と、映画の製作や出演について話をしたという日本の映画人は、これまでにも少なからずいると思います。

 しかし、今回のプログラムには、ワーナー ブラザース本社の映画部門が直接コミットする。ここが大きく違います。

 現在、本社映画部門の製作をつかさどるトップは、ワーナー ブラザース映画チェアマンのトビー・エメリッヒ氏と米ニュー・ライン・シネマ社長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)のリチャード・ブレナー氏の2人。今回はブレナー氏が全面的に関与し、彼自身が小泉氏の撮った作品を見たり、企画の概要を読んだりして、小泉氏の企画に興味を示すであろうと考えた5人のプロデューサーを指名し、自らも同席して小泉氏のプレゼンを受けました。手応えが良いと言えるのは、ブレナー氏の反応が大変良いものだったからです。

Point2
ワーナーの本気度高し 製作トップが直接コミット

ワーナー ブラザース米国本社の映画部門で製作をつかさどるのは、ワーナーブラザース映画と傘下に収めたニュー・ライン・シネマのそれぞれのトップ2人。ハリウッドメジャースタジオの製作責任者と直接会えるというだけでも、今回のプログラムは日本の若手監督やプロデューサーにとって、貴重な経験になりそうだ。

ワーナー ブラザースのサイトに示された組織図と主要役員一覧。リチャード・ブレナー(Richard Brener)氏の名前はかなり上位にある
ワーナー ブラザースのサイトに示された組織図と主要役員一覧。リチャード・ブレナー(Richard Brener)氏の名前はかなり上位にある

 実はワーナー ブラザース本社にとっても、このプログラムは魅力があります。今、ハリウッドメジャーが心の底から欲しがっているのは、新しい企画です。似たような映画、似たようなテレビシリーズがあふれる中、これまでにない斬新な企画を打ち出せなければ、ハリウッドメジャーといえども、やがて観客から飽きられることになる。

 そのため、本社は既に、南米や他のアジア地域などで現地の才能と新しい企画を発掘し、スタジオ作品として製作するプログラムを動かし始めました。日本でも新しい才能と企画を発見し、それを世界市場で勝負できる作品に発展させられれば、本社にとってもメリットは大きいわけです。

 今後はこのプログラムを活用し、定期的に日本の若手映画監督を、米国本社に紹介していく腹づもりです。ただし、才能があれば誰でもいいというわけではありません。いくつかの条件があります。

 まず米国本社の役員やプロデューサーに見せられる作品を撮っていること。つまり日本である程度の実績があることです。ただ米国では、日本でどんなに実績があっても新人監督扱いになります。このため、既に日本映画界で大きな実績を残されたアーティストやプロデューサーの方々ではプライドをいたく傷つけられる可能性が高い。なので、実績ある若手、30代くらいの映画監督を抜擢したいと考えています。それと、英語でコミュニケーションを取れる能力ですね。企画のプレゼンはもちろん、製作にゴーサインが出れば、撮影現場を英語で仕切ることになりますから、英語の能力は必須になります。

 WBJのローカルプロダクションは、これまで2つのステップを踏んできたと言ってよい。第1期は池田氏自身が邦画・アジア映画制作部長として指揮を執った03年から07年まで。香港の映画プロデューサー、ビル・コン氏と組んで、『HERO』『LOVERS』『僕の彼女を紹介します』の3本の映画を配給して計100億円弱の興行収入を稼いだり、クリント・イーストウッドの企画からスタートした『硫黄島からの手紙』で興収約51億円を稼いだりした。日本の外から持ち込まれた企画を、日本法人が配給し、国内のプロデューサーから持ち込まれたアニメ『ブレイブ ストーリー』や映画『デスノート』に製作参加や配給をする時期と位置づけられる。

『硫黄島からの手紙』
『硫黄島からの手紙』
クリント・イーストウッドの企画を基に、当時のワーナー ブラザース日本法人が参加し、世界中でヒットした映画。2006年公開の日本では興収約51億円を達成した。ワーナー ブラザース日本法人のローカルプロダクション(自社製作部門)はこの他にも、「るろうに剣心」シリーズなど多くのヒット作を製作してきた ©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks LLC. All rights reserved

 次いで第2期は17年までの約10年。「るろうに剣心」シリーズ3作、「銀魂」シリーズ2作など、外資系にもかかわらずWBJが製作委員会の幹事となって、日本で邦画大作を製作し、成功できるようになった時期と位置づけられる。

アニメは「日本発世界へ」を実現

 私が復帰してからの時期を、自分の中ではWBJのローカルプロダクションの第3期と位置づけています。目標は日本を世界のコンテンツセンターにすること。具体的には、ローカルプロダクションが手掛ける映画、テレビシリーズ、アニメという3つの領域で、日本のクリエーターが企画から関わった作品を、世界市場にも流通させていくことです。今回始めたプログラムも、その目標を達成するための一環です。

 実は既に軌道に乗り始めた領域もあります。アニメがそれです。DCコミックス刊行の『バットマン』のキャラクターを原作とする『ニンジャバットマン』というアニメ作品は、監督も脚本も作画もすべて日本のクリエーターでWBJが製作した作品です。日本では18年に劇場公開して、思ったほどの興行成績を残せませんでしたが、ネット配信やブルーレイ/DVDで発売した欧米などでは大受けで、収入の9割以上を海外で稼ぎました。

 今後はアニメはもちろん、映画やテレビシリーズも、WBJで継続的に製作し、世界市場で勝負していきたいと考えています。

Point3
アニメの自社製作にも力 既に世界市場進出を実現

WBJでは今後、映画、テレビシリーズ、アニメを3つの柱に、ローカルプロダクションを進めていく予定。アニメの領域では既に、Netflixなどネット配信のプラットフォームを活用して、日本発コンテンツの世界市場への進出という実績を上げ始めている。

『ニンジャバットマン』(英語タイトル:BATMAN NINJA)
『ニンジャバットマン』(英語タイトル:BATMAN NINJA)
DCコミックスの人気キャラクター、バットマンを起用し、劇団☆新感線の座付き作家、中島かずきが脚本を担当するなど、ほぼ全員を日本のスタッフで製作したオリジナルアニメ作品。バットマンのキャラクターが定着している欧米では大受けした Batman and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.©Warner Bros. Japan LLC

(写真/室川イサオ)