日本の映画界では、実写の分野でもアニメの分野でも、優れた才能を持つ多くのクリエーターが活躍しています。しかし、これらの才能が海外でも積極的に活躍しているかという、そうとは言えません。同じアジアの中国や韓国のクリエーターと比べても、後れを取っていると言ってよいのが現実でしょう。

 そこで2017年7月に私がWBJに復帰し、ローカルプロダクション統括の上席執行役員に就いてから、日本の若手監督をWBJのプロデューサーとセットにして米国のワーナー ブラザース本社に送り込み、劇場用映画の企画をプレゼンさせる機会を作ることを考えてきました。

 その企画を米国の本社が取り上げ、ブラッシュアップしたうえで実際に製作にゴーサインを出すことになれば、日本発の企画が、日本の映画監督の手で、世界市場を見据えたスタジオ作品として実現することになります。監督を任された作品が、製作費数百億円という超大作になる可能性だって、あるのです。

 今回実現したプログラムで、そうした考えがようやく形になりました。名付けて「WB'S Young Artists and Creators' Incubation Program(WB YACIP)」です。

 うまくいけば、WBJとしてその才能に期待する日本の若手監督を定期的に選び、WBJのプロデューサーとコンビを組ませて企画を考えてもらい、米国本社に送り込んでプレゼンしてもらうという、恒常的なプログラムに育てていきたいと考えています。

第1号は小泉徳宏監督

 実は既に第1回のプログラムの企画プレゼンは終わっています。WBJとして今回選んだ若手監督は、映画『ちはやふる』全3作を撮り、現在、38歳になる小泉徳宏氏です。18年10月27日から11月2日まで、WBJのプロデューサー、関口大輔氏とともに渡米してもらい、ワーナー ブラザースの本社で、担当役員と5人のプロデューサーに向かって企画をプレゼンしてもらいました。もちろん英語で、です。

 本社からはかなり良い手応えが返ってきました。どのような形に落ち着くかはまだ分かりませんが、小泉氏がプレゼンした企画を軸にして、スタジオ作品として製作する方向で話が進んでいくことになりそうです。

 このプログラムのもう1つのポイントは、ワーナー ブラザースの本社が、かなり本気だということです。映画「GODZILLA ゴジラ」を製作したレジェンダリー・ピクチャーズのような、ハリウッドメジャーと契約を交わして実際にスタジオ作品を作る制作会社と、映画の製作や出演について話をしたという日本の映画人は、これまでにも少なからずいると思います。

 しかし、今回のプログラムには、ワーナー ブラザース本社の映画部門が直接コミットする。ここが大きく違います。

 現在、本社映画部門の製作をつかさどるトップは、ワーナー ブラザース映画チェアマンのトビー・エメリッヒ氏と米ニュー・ライン・シネマ社長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)のリチャード・ブレナー氏の2人。今回はブレナー氏が全面的に関与し、彼自身が小泉氏の撮った作品を見たり、企画の概要を読んだりして、小泉氏の企画に興味を示すであろうと考えた5人のプロデューサーを指名し、自らも同席して小泉氏のプレゼンを受けました。手応えが良いと言えるのは、ブレナー氏の反応が大変良いものだったからです。

Point2
ワーナーの本気度高し 製作トップが直接コミット

ワーナー ブラザース米国本社の映画部門で製作をつかさどるのは、ワーナーブラザース映画と傘下に収めたニュー・ライン・シネマのそれぞれのトップ2人。ハリウッドメジャースタジオの製作責任者と直接会えるというだけでも、今回のプログラムは日本の若手監督やプロデューサーにとって、貴重な経験になりそうだ。

ワーナー ブラザースのサイトに示された組織図と主要役員一覧。リチャード・ブレナー(Richard Brener)氏の名前はかなり上位にある
ワーナー ブラザースのサイトに示された組織図と主要役員一覧。リチャード・ブレナー(Richard Brener)氏の名前はかなり上位にある

 実はワーナー ブラザース本社にとっても、このプログラムは魅力があります。今、ハリウッドメジャーが心の底から欲しがっているのは、新しい企画です。似たような映画、似たようなテレビシリーズがあふれる中、これまでにない斬新な企画を打ち出せなければ、ハリウッドメジャーといえども、やがて観客から飽きられることになる。

 そのため、本社は既に、南米や他のアジア地域などで現地の才能と新しい企画を発掘し、スタジオ作品として製作するプログラムを動かし始めました。日本でも新しい才能と企画を発見し、それを世界市場で勝負できる作品に発展させられれば、本社にとってもメリットは大きいわけです。

 今後はこのプログラムを活用し、定期的に日本の若手映画監督を、米国本社に紹介していく腹づもりです。ただし、才能があれば誰でもいいというわけではありません。いくつかの条件があります。

 まず米国本社の役員やプロデューサーに見せられる作品を撮っていること。つまり日本である程度の実績があることです。ただ米国では、日本でどんなに実績があっても新人監督扱いになります。このため、既に日本映画界で大きな実績を残されたアーティストやプロデューサーの方々ではプライドをいたく傷つけられる可能性が高い。なので、実績ある若手、30代くらいの映画監督を抜擢したいと考えています。それと、英語でコミュニケーションを取れる能力ですね。企画のプレゼンはもちろん、製作にゴーサインが出れば、撮影現場を英語で仕切ることになりますから、英語の能力は必須になります。