MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、新機軸の音声サービスに迫ります。
音声市場が盛り上がりを見せるなかで、各界の第一線で活躍する人たちの音声によるメッセージが月額980円で聴き放題となるサービスが、2021年にスタートした「NowVoice」(ナウボイス)です。本田圭佑、ダルビッシュ有、杉山愛といった多彩なアスリートをはじめ、古舘伊知郎、亀山敬司(DMM会長)など約160名が参加。またこのサービスは、本田圭佑がCEOを務めるNow Doと、インターネットスポーツメディア「SPORTS BULL」などを運営する運動通信社による共同事業となっています。サービスの統括を務める、運動通信社の今泉佑規氏に話を伺いました。
――サービスを始めた経緯は?
今泉佑規氏(以下、今泉) うちの代表の黒飛(功二朗)が本田さんともともと関係がある中で、本田さんから出た「メディアのペイン」という言葉をきっかけにNowVoiceを着想しました。というのも本田さんの実体験として、試合後のインタビューでしゃべったことの一部が切り取られ、恣意的に話をねじ曲げられた記事が出回ることに疑問を感じていたみたいなんです。
きっとそういう人たちは多いのではないかということで、アスリートを筆頭に、各界をリードする人たちが編集なしで直接メッセージを発信できる場を作ろうと、黒飛のほうから提案しました。
各種SNSでも同じように発信することはできますが、誰でもアクセス可能な場にはどうしても“荒らし”が存在する。そこで、有料サービスというクローズドな空間にすることで、安心して発信できるようにしています。
ユーザーの方たちにも好評で、「その道を極める人たちの言葉や考え方などを編集なしで聞けるのは、とても刺激になる」などといった声をいただいています。
――音声投稿に加えて、ライブ配信機能もあるんですね。
今泉 音声投稿が1番ベーシックな使い方で、我々が「トップランナー」と呼んでいる配信者の方たちが録音した音声を最大1時間まで投稿できます。ライブ配信は、その言葉通り生配信できる機能のこと。コラボ配信やチップといった機能も完備しています。コラボ配信に関しては、他のトップランナーに加えて、ユーザーを招くことも可能。投げ銭は、売上の8割をトップランナー側の取り分にするという高水準に設定しています。
アスリートの実況解説も
今泉 また、ライブ配信機能の活用法として、ユーザーから人気なのが実況解説ですね。昨年のサッカーW杯で本田さんのABEMAでの解説が大きな話題となりましたが、本田さんは以前からNowVoiceでスペインリーグのバルセロナVSレアル・マドリードといった注目カードの実況解説を行っていました。他にも、卓球の水谷隼選手なども、卓球の試合の実況解説で使って下さっています。
――人気のトップランナーでは、他にどんな方がいますか?
今泉 例えば、フィギュアの宇野昌磨さん。出場した大会を振り返る内容の音声投稿をはじめ、宇野さんはゲームが好きなので、ゲームYouTuberを招いてのコラボ配信も行っており、等身大の彼を知れると人気です。他にも、脳科学者の茂木健一郎さんは、毎日のように投稿されていて、話のネタや質問をユーザーから募集する「投稿リクエスト」機能で集めたものに積極的に回答しています。
――有料の「スーパーリクエスト」という機能も面白いですね。
今泉 これも本田さんの発案になります。ユーザーが好きなトップランナーに、自分だけに特別なメッセージを音声もしくは動画で送ってもらえる機能です。使われ方としては、モチベーションを上げるための応援メッセージや、誕生日や結婚のお祝いの言葉などが多いですが、「次の試合の見どころを教えて下さい」といったものもあったりします。
金額設定は5000円~16万円の間でユーザーが自由に決められるようになっており、リクエストに応えるかどうかはトップランナー次第。「徐々に値段を上げていって、ついに受けてもらえた!」みたいな声もありますね。
今後のプランとしては、音声にこだわることなく映像を含めて様々なコンテンツを提供していければなと。あとは、NFTなどWeb3展開も考えています。
(構成/中桐基善)