※日経エンタテインメント! 2023年2月号の記事を再構成

MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、次世代のタレント広告サービスに迫ります。

 近年、広告の分野においても、新たなビジネスモデルが生まれてきています。そんななかで、契約したタレントの写真素材が月額制で使い放題になるサブスク的な仕組みや、一元管理できるプラットフォームといった技術を導入しているのが「ビジネスブースト」。このサービスに登録しているタレントは、小泉今日子、内藤剛志、的場浩司など、18名以上の知名度の高い名前が並びます。運営を行う、ブーストマーケティングの代表取締役社長、稲葉雄一氏に話を聞きました。

ビジネスブースト
サブスク型を導入することで、これまでは高い契約金が必要だったタレント起用の価値と効果を、ベンチャーをはじめとした多くの企業に実感してもらえるサービス。タレントごとに用意された、様々なポーズ、スーツ姿、ナチュラルウエア、着物、業界特化型衣装といった写真素材を、月額30万円から利用することが可能。企業がセレクトした写真は、HP、バナー広告、パンフレット、カタログ、店頭POPなどで独占利用できる。また、タレントの写真は年1回以上、利用企業のニーズに沿って新しい素材が追加される。
ビジネスブースト/登録しているタレントは、小泉今日子をはじめ、秋吉久美子、磯山さやか、大桃美代子、コロッケ、杉本彩、辰巳琢郎、中村雅俊、RIKACOなど幅広い
ビジネスブースト
登録しているタレントは、小泉今日子をはじめ、秋吉久美子、磯山さやか、大桃美代子、コロッケ、杉本彩、辰巳琢郎、中村雅俊、RIKACOなど幅広い
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――サービスを始めた経緯は?

稲葉雄一氏(以下、稲葉) 2021年頃から、広告でのタレント起用の廉価版のようなサービスが出始めてきました。私たちはそれらを「レンタルフォトサービス」と呼んでいるのですが、芸能人と契約し、彼らの写真を使って中小企業などの広告モデルになってもらうというものです。

 しかし、これらサービスの多くが、クライアントの選定基準が甘く、出会い系サービスであったり、法や倫理に抵触しかねない企業での使用が多く見受けられます。また、デザイン面に関しても、写真に「 (C) 」のクレジットが入るなど、完成度という点でやや見劣りしてしまっているのが現状です。それでは最終的に、タレントにとってマイナスになりかねないと考えておりました。

 それらの課題を解決するサービスとして「ビジネスブースト」を22年10月にローンチしました。私自身がもともと電通テック出身で、タレントを活用したプロモーション事業を多く担当していたこと、芸能人とのつながりもあったことから、当時のノウハウや人脈を生かしたサービス設計にすることで、既に多くの企業から受注をいただいています。企業選定に関してはこちらで精査し、使用写真はタレントや事務所側の許諾を取った上で進める形を採用。クレジット表記なしで写真を利用できるため、デザインに影響することなく、自社使用感がしっかりと出せるようになっています。

――サービス内容を見ると、サブスクリプションのようなモデルの採用や、プラットフォーム上で完結できる仕組みも興味深いです。

稲葉 一般的に、タレントを使った広告は年間契約で、トップクラスになると契約金だけで年間数千万円が必要になります。しかし、「ビジネスブースト」の場合は月額単位で、1タレントあたり30万円~という価格で利用を開始できます。しかも写真は、各タレント平均3000枚という膨大な数の中から選ぶことができ、契約したタレントの写真であれば何枚でも使い放題です。そのため、価格面や自由度の高さから、まだタレントを広告に起用したことのない、ベンチャー系の企業などでも導入しやすくなっています。

稲葉雄一(いなば・ゆういち)氏 電通テックを経て、2006年にBtoB向けクラウドサービスを展開するナレッジスイートを設立。22年にブーストマーケティングを起業
稲葉雄一(いなば・ゆういち)氏 電通テックを経て、2006年にBtoB向けクラウドサービスを展開するナレッジスイートを設立。22年にブーストマーケティングを起業
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プラットフォームで一元管理

稲葉 プラットフォームでは、広告業務における申請から承認までの全てを電子化。提供写真の確認や利用申請に加え、デザインチェックなども一元管理することが可能です。他にも、素材ポーズや衣装のランキングなども見ることができます。

――タレントの方々も、撮影などで積極的に協力してくれているそうですね。

稲葉 そうですね。タレントさんにとっても、新たなクライアントとの出会いの場になっていることが大きいと思います。写真撮影の際は、タレントさんの意見やアドバイスも反映しながら進めています。先日、的場浩司さんの撮影では、スーツ姿に加えて、本人からの提案もあってガテン系のような衣装でも撮りました。建設系やリフォーム会社をクライアントに想定したとのことです。原田龍二さんのときも、昨今のサウナブームを意識して、上半身裸で首からタオルをかけたカットも撮影しました。

 またこの仕組みでは、広告契約が発生するたびに本人稼働が発生するわけではないので、撮影の効率化や省力化にもつながります。多くの企業で利用が想定されるカットやポーズを一気に撮りだめておき、衣装の色などに関してはテクノロジーでバリエーションを出せるようにもなっています。

 今後は、タレントやクライアントの数を増やしていくことももちろんですが、「ビジネスブースト」を通して、タレント利用の価値を再認識してもらうことで、広告市場をさらに盛り上げていければと考えています。

【スズキの視点】タレントにとって新たなプラットフォーム
このサービスや周辺領域には、タレント、テレビ業界の枠組みの大きな変化がよく現れていると思います。タレントとマネジャーが、直接様々な企業、パートナーと出会う場としてのプラットフォーム化と言えます。そのなかでも稲葉氏は業界経験も豊富で、プラットフォームが陥りがちな過剰な吸引力よりも、タレントのキャリアを見据えた動きをしていると感じました。ビジネスを依頼するハードルを下げ、タレント側の意思とクライアントのマッチングを促進する。これには両者の歩み寄りやリテラシーの進化も必要になってくると思います。

(構成/中桐基善)