※日経エンタテインメント! 2022年10月号の記事を再構成

MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は海外発のシミュレーションゲームに迫ります。海外で人気を集め、日本でもにわかに注目されているのが「ファンタジースポーツ」。実際に行われるスポーツの試合を対象に、自分の好きな選手を集めて架空のオリジナルチームを作って友人たちと競い合う、シミュレーションゲームです。今年4月から国内で本格展開を始め、スポーツだけでなく、映画、音楽といったエンタメも対象に展開しているのが「なんでもドラフト」(以下、なんドラ)。同社の代表取締役の森井啓允氏に話を聞きました。

ファンタジースポーツ
好きな選手を選んで仮想チームを編成し、彼らの実際の試合のプレーに応じた通算ポイントで勝敗が決まる、リアルにバーチャルを連動させたシミュレーションゲーム。発祥の地アメリカでは、ドラフトキングスとファンデュエルの2社が業界を引っ張る。国内ではマイネットが、NPB公認の「プロ野球#LIVE2022」と、Bリーグ公認の「B.LEAGUE#LIVE2021」といったサービスをリリース。なんでもドラフトは、ハンドボールのジークスター東京、サッカーの北海道コンサドーレ札幌などとも提携してサービスを展開中。
「なんでもドラフト」スポーツからエンタメまで、毎日、様々な企画を実施中。公式アンバサダーには、元大リーガーの上原浩治氏を迎えている
「なんでもドラフト」スポーツからエンタメまで、毎日、様々な企画を実施中。公式アンバサダーには、元大リーガーの上原浩治氏を迎えている

――「ファンタジースポーツ」はアメリカ発祥なんですよね?

森井啓允氏(以下、森井) 約50年以上前にアメリカで誕生したと言われています。野球、アメフト、バスケといったプロスポーツチームのGMに自分がなったつもりで、実在する好きな選手を集めて架空のチームを編成。例えば野球なら、ヒットを打てば5点、ホームランは30点など、実際の選手の成績をポイント化して、シーズンを通した総合点を友人や参加者たちと競い合うんです。2010年以降、テクノロジーの進化によってデータのリアルタイム更新が可能となり、1日単位で予想して中継を見ながら楽しむ「デイリーファンタジースポーツ」が登場。それを中心に、アメリカの市場は12兆円にまで達しています。

 アメリカでは、参加費を払って賞金が出るという仕組みが一般的です。しかし、「なんドラ」ではいわゆる「賭け」がなしでも、スポーツやエンタメがもっと盛り上がる可能性があると感じ、日本で合法的なモデルの確立と普及に取り組んでいます。

 現状は、スポーツチームや企業からの利用料によってビジネスモデルが成り立っており、プロ野球、Jリーグ(J1)、Bリーグ(B1)、NBAなどでは全ての試合を対象に毎日、架空のチームを編成して競えるようにしています。また、大谷翔平選手が二刀流で出場する試合の成績(ヒット・ホームラン・盗塁・奪三振)を予想するというコンテンツも、分かりやすいこともあって人気です。他にも、Jリーグの北海道コンサドーレ札幌、ハンドボールのジークスター東京、卓球の琉球アスティーダといった幅広い競技やチームと提携をしています。

森井啓允(もりい・ひろみつ)氏 TBSテレビ、ソフトバンク、オープンハウスを経て、2019年になんでもドラフトを創業。アメリカに留学しMBAを取得した経験も持つ
森井啓允(もりい・ひろみつ)氏 TBSテレビ、ソフトバンク、オープンハウスを経て、2019年になんでもドラフトを創業。アメリカに留学しMBAを取得した経験も持つ

『M-1』や『バチェラー』も

――「なんドラ」はスポーツ以外のコンテンツも提供しているんですよね?

森井 事前に予想することで、興味や熱狂が高まるのはスポーツに限らず、ほとんどのイベントやコンテンツに当てはまるので、映画の興行収入、CDのセールスの週間トップ5の予想などを行っています。過去には、『M-1グランプリ』、『PRODUCE 101 JAPAN』、『バチェラー・ジャパン』などの展開予想を実施して評判が良かったですね。その他、全国の高校別『大学進学実績』の予想も実施するなど、1年間にすると、約2000本のファンタジースポーツの企画を行っています。

――今後、合法ギャンブルとしてファンタジースポーツが解禁されても、あえて「なんドラは」そこに参入する予定はないそうですね。

森井 イギリスでは、ブックメーカーと呼ばれる賭けの運営会社が、あらゆるスポーツやコンテンツにオッズを付け、ギャンブルが文化となっていますが、現在の日本では違法行為となります。もし、日本でも合法的に賞金を出せるようになれば、大きな熱狂や市場を生み出すことになると思いますが、私たちはギャンブルとは違う方法で、より多くの人たちに日常的にスポーツやエンタメを楽しんでもらいたいと思っています。

 未来のスポーツやエンタメを担う18歳以下の子どもたちにも「なんドラ」を楽しんでもらいたいので、非賭博のモデルを継続していくつもりです。世代や興味の領域を問わず、日常を楽しくするための「見どころ」を提供するサービスとして広めていきたいです。

 今後のプランとしては、提携スポーツチームと組んで、新たなスポンサーを獲得していったり、コミュニケーション要素とゲーム課金を組み合わせたソーシャルゲーム的なビジネスモデルへと進化させていきます。そして、多くの人に楽しんでいただきながら、提携先への送客や収益分配もできるようなエコシステムを築き上げていきたいと考えています。

【スズキの視点】新たな音楽ランキングにも期待
“ファンタジースポーツ”について、改めて今回のインタビューを通して明確に理解することができました。「なんでもドラフト」が日本の消費者のインサイトを参考にサービスの幅を広げていったことで、様々なパートナーを巻き込めたことは新規事業の作り方としてとても正しいと感じました。また現在、音楽のランキングは“推し活”の後押しもあり、毎週のランキングを音楽業界人のみならずファンも気にする存在になっています。なんドラには、利用者のニーズを汲み取った新たな音楽ランキングの楽しみ方も創出してほしいです。

(構成/中桐基善)

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