※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成
MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、エンタメの「サブスクサービス」に迫ります。様々なサブスクリプションサービスが広がるなか、新たなタイプのサービスとして注目されているのが2021年4月にスタートした「recri(レクリ)」。ユーザーの価値観や好みをデータ分析した上で、本人が興味を持ちそうな映画、舞台、音楽、アートなどのチケットが毎月届くというサービスです。同社で代表取締役を務める栗林嶺氏に話を聞きました。
――「recri」を立ち上げたきっかけは?
栗林嶺氏(以下、栗林) もともとは新卒で電通に入り、主に映像などのクリエーティブを担当していました。また、学生時代からダンスをやっていて、イベントなども開催していたので芝居や音楽をやっている友人も多かったんです。私を含めて、みんなに共通していた悩みが「お客さんの集め方」でした。どんな興行でも売り切るのは本当に大変なんです。このエンタテインメント界の課題をどうにか解決できないか、という思いから立ち上げたのがrecriです。
栗林 一方、消費者からすると、舞台やアートはハードルが高く、自分で選ぶのは難しい。その結果、規模の大小に関係なく、面白い作品や公演なのに知られていないことが多々あります。そこでrecriは、ユーザーのコンシェルジュのような立ち位置で新たなエンタテインメント体験を提供しながら、新規のお客さんを呼び込む存在になることを目標にしています。
サービスを開始して約1年ですが、ユーザー数は右肩上がりで現在3桁台です。メーン層は20代~30代の学習意欲が高いカルチャー系の若者たちで、まだ知らないエンタメに出合いたいという思いで登録してくれています。また、40代~50代ぐらいの時間に余裕のある教養層の方たちも登録者は多いです。
興行主は、大手興行主から劇団まで、約30社にまで増えており、都内の主要な映画、演劇、音楽、アートなどのチケットは揃うようになっています。
ソムリエが定性分析も
――ユーザーの好みに関しては、どのように吸い上げて、分析しているのでしょうか?
栗林 まずは登録時に、ユーザーの趣味趣向が分かるようなアンケートに答えてもらいます。それを元に、定量と定性の2つの方法で分析していきます。定量分析としては、我々の作ったシステムにユーザーのデータを読み込ませ、「ドキドキ系の作品が好き」「恋愛系の作品が好き」「意識高め」「癒やし系」など、膨大な数のタグをユーザーに付けていきます。
さらに定性分析として、エンタメソムリエと呼んでいる、弊社が抱える演出家、脚本家、アーティストたちに、ユーザーのデータをひもといてもらいます。例えば、「SF系の作品が好きと言っているけど、実はどんでん返しを求めているんじゃないか」といった具合に。ユーザーの心の琴線みたいなところまで探れるようにしています。
これと同じようなことをチケット側の興行でも行い、お互いをすり合わせることでマッチング度が高いものを割り出し、上位の公演のチケットを送付しています。
また、ユーザーから毎月フィードバックをもらっているのもポイントです。実際に公演を見た感想などから、タグの重み付けを変えることで、そのときのユーザーの気分や状態に合った公演をセレクトできるようにしています。
ありがたいことにユーザーからは好意的な意見がたくさん届いていて、「新しい扉が開いた」というようなことをよく言っていただきますね。例えば、クラシックのチケットを送った20代の方からは、「あれからハマってしまい、クラシックのコンサートに通うようになりました」とのコメントがありました。recriのコンセプトが実現していっているなと手応えを感じています。
――今後はどのような目標やプランがあるのでしょうか?
栗林 まずはユーザー数をもっと増やしていきたいと考えています。目標は10万人。スケールアップする過程で、現在ソムリエが行っている定性分析も、いずれはAIが行うことを想定しています。
また、エンタメ界がもっと盛り上がってほしいという思いも強いです。将来的には、recriユーザーのための公演を開催してもらったり、recriの劇場を持つみたいなことも実現できたら面白いかなと思います。
(構成/中桐基善)