※日経エンタテインメント! 2022年7月号の記事を再構成
MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、「動画発注サービス」に迫ります。
コロナ禍において盛り上がりを見せるソーシャルギフト市場のなかで、有名人からのサプライズ動画メッセージを依頼できるサービスとして話題なのが「VOM(ヴォム)」です。昨年7月にローンチされ、お笑い芸人、アスリート、YouTuberなど約200名が登録。彼らに約1分のオリジナル動画を作成してもらうことができます。運営を行う、Wunderbar代表取締役の長尾慶人氏に話を伺いました。
――「VOM」というサービスを立ち上げたきっかけは何だったんですか?
長尾慶人氏(以下、長尾) もともと僕自身、10代の頃にサンミュージックという事務所でタレント活動をしていた時代があったんです。その後、会社を立ち上げ、建設や人材といった全くエンタテインメントに関係ない事業を行っていました。ただ、そんななかでコロナ禍となり、知り合いだった芸能人の方々の仕事に影響が出始めたと聞いたんです。モノマネ芸人の長州小力さんと仲が良かったんですけど、彼も営業の仕事が一気になくなり厳しい状況に陥ってしまっていると。そこで彼らが生業としている、人を喜ばす仕事をデジタルに置き換えることはできないかと考えたんです。
そんなときに海外の動画発注サービスなどを参考にして、立ち上げたのがVOMです。普通に考えると、ファンの人たちが自分のために動画を発注するケースのほうが多いと思われがちですが、約8割の人が、誰かのプレゼント用として使ってくださっています。
――VOMで動画を発注する際の流れについて教えてください。
長尾 VOMのサイトにタレントが一覧で載っているので、そのなかから動画を依頼したい人を選択してもらいます。次に、送る相手が自分、家族、友達なのか、動画の内容は誕生日、記念日、応援なのかなどを選んでいただく形です。さらに要望がある場合は、文章でリクエストできるようにもなっています。価格は1件あたり5000円~1万円程度。内容によっては受けられない場合もありますが、これまでに数百件のビデオメッセージを作ってきました。
動画のポイントとして、タレントの方に発注する際に、「編集しないでください」と伝えています。何をしゃべるかを考えている間みたいものも動画に入れてほしいんです。近年、YouTubeを筆頭に作り込まれた動画があふれ返っているので、逆に作り込まれていない動画のほうがリアルだし、受け取った人も新鮮に感じて喜んでもらえると思うんですよね。
オリジナルソングの制作も
――ジャンルでいうと、やはり芸人さんが人気なんでしょうか?
長尾 そうですね。芸人さんへの発注は多く、結婚式のお祝いコメント動画のお願いが目立ちます。あと、アスリートの方たちも人気です。例えば、体操をやられているお子さんをお持ちの親御さんが、体操選手からアドバイスを投げ掛けてもらう動画を発注するようなケースも増えていますね。さらに、オプションという機能をタレントさんごとに設けているのも特徴の1つ。例えば長州小力さんは、オプション代5000円を追加していただくとプロレスのコスチュームで動画に出演してくださいます。シンガーソングライターのRakeさんもオプションで人気の1人。8000円を追加すると、オリジナルソングを作成してくれ、動画内で歌ってくれます。他にも、YouTuberといったインフルエンサーの方たちには個別質問というオプションを設けている方もいて、利用者からの質問に動画で答えてくれたりします。
――今後のVOMの課題はなんだとお考えですか?
長尾 現在登録してくださっているタレントの方々は、個人事務所に所属されている方が多いので、今後は大手芸能事務所の方たちにも積極的に参加してもらえるサービスにしていきたいです。その布石として、今年1月にタレントの肖像素材を利用できるライセンスサービス「Skettt(スケット)」をスタートしました。コロナ禍で活動が制限されがちなタレントなどの肖像素材を、全国の中小企業に提供するサービスで、吉本興業やエイベックスといった芸能事務所とも関係性を築き始めています。今後、VOMが世間で当たり前のサービスとなるようスケールアップさせ、「令和時代の新たなギフト」として定着させられればなと考えています。
(構成/中桐基善)