※日経エンタテインメント! 2022年6月号の記事を再構成
MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、アバターの最新事情に迫ります。
ここ最近、3次元の仮想空間であるメタバースがトレンドワードとなり、様々な企業が続々と参入を発表しています。そこで重要性が高まっているのがアバターと呼ばれる、自分の分身のようなキャラクター。それを簡単に作成できると話題なのがアバターの自動生成システム「AVATARIUM」(アバタリウム)です。運用などを行うPocket RD代表取締役の籾倉宏哉氏に話を伺いました。
――「AVATARIUM」を開発しようと思ったきっかけは何だったんですか?
籾倉宏哉(もみくら・あつや)氏(以下、籾倉) もともと3Dスキャンのデータを扱うドイツ企業の日本法人のカントリーマネジャーを務めていましたが、2016年に日本から撤退することになったんです。ただ、ゲーム会社、映画会社、テレビ局などから「映像作品の中で使う3Dデータを欲しい」との要望が増えていたので、今後もビジネスチャンスがあると思っていました。さらに、アバターを有効活用することで、自身のアイデンティティーを表現したり、コミュニケーションを円滑にする時代が、すぐそこまで来ていると僕自身も感じていたんです。そんな折に、スクウェア・エニックスさんなどから出資のお話をいただき、17年にPocket RDを設立しました。
約3年の研究・開発の期間を経て、20年11月にAVATARIUMの原形となる、3Dプリクラ機をコンセプトにした、世界最小サイズのボディースキャナーをリリースしました。ポイントは、撮影から採寸、編集、加工、保存、エクスポートまでを一気通貫で行えること。それまでは、ハードウエアやソフトウエアを単独で提供する企業が多かったのですが、弊社は全てを自社開発しました。そして21年には、「バーチャル渋谷」と提携。10月末のハロウィーンイベントに合わせて、渋谷区役所や渋谷モディなどにボディースキャナーを設置し、多くのユーザーの方に使ってもらいました。
日本の「盛り文化」にも最適
――現在、アバターのスキャナーを作る会社は、全世界に約2000あるようですが、AVATARIUMの機能面での強みとは?
籾倉 アバターが出来上がるまでのスピードと編集加工のしやすさです。なぜそれが実現できるかというと、体の骨組みや筋肉といった様々な情報を盛り込んだ、マネキンのような3Dポリゴンデータを既に作っているからです。それを変形させて、スキャナーで撮影した画像データを貼り合わせていくので、制作スピードも速く、出来上がったものを編集したり加工するのも容易なんです。
特に日本は、海外と比べて「盛り文化」が盛んなので、編集加工のしやすさは重要です。メークができたり、メガネをかけさせたり、等身を変更するといったことが、スマホのアプリを使って簡単にできます。そのように、プライベートやビジネスなど、用途によって使い分けられるアバターのほうが重宝されると考えています。
また、ユーザーからは、AVATARIUMのアバターは、動きが非常になめらかで、体の一部の色味が抜けるようなこともないとの、お褒めの言葉をよくいただきます。それは無数のAIを裏で働かせることで補完する仕組みを採用しているから。色味でいうと、自動で全てを埋めるプログラムが入っており、例えば、紫色であるべきところの一部が白く抜けていたら、「ここは紫色だろう」と判定して修正してくれるんです。
――今後は、スマホでアバターを制作できるようになるそうですね。
籾倉 既にアプリの機能の中に、テスト版が入っているんですが、今後はこちらにも注力していこうと考えています。スマホのカメラで撮影した写真でアバターを作れるようになるので、圧倒的なお手軽さが魅力です。
現在、バーチャル渋谷のプラットフォームである「cluster」や、ゲームの「Craftpia」「VRAST!」などで、AVATARIUMで作成したアバターを使えるのですが、今後さらにその数は増えていく予定です。また、芸能事務所などからもたくさんお声掛けをいただいており、タレントやミュージシャンのアバターも今後は広まっていくと考えています。
(構成/中桐基善)