※日経エンタテインメント! 2022年4月号の記事を再構成
MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、音声読書サービスに迫ります。
1995年にアメリカでスタートし、日本では2015年にサービスが始まったオーディオエンタテインメントサービス。現在世界10カ国で展開しており、世界最大級の規模を誇る。近年は、オリジナルのポッドキャストコンテンツにも力を入れる。20年11月には“聴く映画”として、堤幸彦が監督を務め、声優の梶裕貴、山寺宏一らが出演する『アレク氏2120』を配信開始。今年1月からは、女優の杏が1冊の本から様々な物事の起源をたどる番組『Journey to the origin with Anne』が始まっている。
音声市場が盛り上がりを見せるなか、2015年から日本で運営されているオーディオブック・サービスが、「Amazonオーディブル」(以下、オーディブル)です。ビジネス書、現代文学、ライトノベル、洋書などのオーディオブックに加え、最新のニュース、経済、お笑いなどを扱うポッドキャストも楽しめます。さらに1月末からは、オーディオブックの聴き放題サービスもスタート。アマゾンジャパン合同会社オーディブル事業部 ビジネス・アフェア カントリーマネージャーの逢坂志麻氏に話を伺いました。
――日本で「オーディブル」を始めた際は、どんな反応がありましたか?
逢坂 志麻氏(以下、逢坂) オーディブルは「本を聴くサービス」で、アメリカでは既に当たり前のものとなっていたんですが、最初国内では、お客様はもちろんのこと、出版社の方にも理解してもらうのに苦労しました。ただ、ナレーターの声で本を聴くという没入体験、スキマ時間を有効活用できる「ながら読書」など、その価値が伝わるにつれて、ユーザー数が伸びてきました。18年8月から21年12月にかけて、会員数は約4~5倍に増加しています。ユーザー層も拡大していて、当初はビジネスパーソンがスキルアップのために通勤中に使うケースが多かったのですが、最近は子育てをしているパパ・ママの自宅での利用も増えています。またジョギング中や犬の散歩の道中など、様々なシチュエーションで使われるようになっています。
――オーディオブックでは、ナレーターさんのセレクトに相当こだわっているそうですね。
逢坂 プロのナレーター、声優さん、芸能人など、作品の世界観に合わせて起用しています。例えば、『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』という作品は、1975年のTVアニメ『ガンバの冒険』の原作なんですが、主人公・ガンバの声優を務めた野沢雅子さんにナレーションを依頼しました。「ガンバの声で聴けるなんてすごい!」という喜びの声などがありましたね。
16年に芥川賞を獲得した、村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』では、オアシズの大久保佳代子さんを起用しました。36歳の独身女性が主人公なんですが、おひとりさまキャラの大久保さんのナレーションが見事にマッチしたものとなっていました。
あと、著者の方がナレーションを務めるケースも出てきており、島田雅彦さんなどが朗読しています。やはり自身で書かれているだけあって、著者ご本人でしか提供できない作品体験を読者に届けられていることも貴重だと思います。
書籍よりも先に音声作品で
――書籍よりも先に、オーディオブックとしてリリースする「オーディオファースト作品」という取り組みも面白いですね。
逢坂 第1弾として川上未映子さんの『春のこわいもの』を昨年7月に配信しました。オーディオファースト作品は、海外では既に先行しているフォーマットで書かれているため、一般的に、会話の割合が増えたり、状況説明が少なめだったりするといった特徴があります。川上さんはシンガーソングライターとしても活躍されているので、もともとリズム感のある文章を書かれる方なんですが、今作ではさらにそこにこだわって書かれた作品に仕上がっています。今後は第2弾として、11月に三浦しをんさんの作品がリリースされる予定です。
――1月27日からは、オーディオブックも聴き放題になりましたね。
逢坂 これまでは月額1500円で、聴き放題はポッドキャストだけで、オーディオブックは毎月1冊のみが無料でした。それが価格据え置きのまま、一気に12万以上の対象作品が聴き放題となりました。サブスクモデルとなったことで、ユーザーの方からは喜びの声が上がっていますし、会員数も急進しています。聴き方に関しても、オフライン再生に加えて、ストリーミング再生にも対応しました。
今後はさらに作品を充実させていくことが大切だと考えています。村上春樹さんの10作品に、有名俳優をナレーターとして起用して制作するプロジェクトも決まっており、『騎士団長殺し』では高橋一生さん、『海辺のカフカ』では木村佳乃さんを迎える予定です。
(構成/中桐基善)