※日経エンタテインメント! 2022年3月号の記事を再構成
MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩が、エンターテックの最新キーワードとキーパーソンを探る連載。今月は、動画に付けるBGMの販売サービスに迫ります。
2013年にサービスを開始した、高品質かつロイヤリティフリーのBGM、効果音といった音楽作品を販売するプラットフォーム。動画制作を行う企業はもちろんのこと、特に近年はYouTuberをはじめとした個人のクリエーターの活用事例が増加。ROLANDをはじめとする芸能人のチャンネルでも多数使用されている。料金は、個人の動画クリエーター向けに、使用可能なシーンや曲数などが変わる月々550円と月々2200円の2つのプランを用意。法人向けは月々2万2000円~となっている(いずれも税込み)。
YouTubeやTikTokをはじめとした動画市場が盛り上がるなか、周辺サービスも存在感を見せ始めています。なかでも、動画に付けるBGMや効果音といった音楽作品を販売するプラットフォームとして、国内最大規模を誇るのが「Audiostock」。2013年にサービスを開始し、クリエーターから音源を募り、現在取り扱う音源数は79万点を超えます。運営を行う、オーディオストック代表取締役社長・西尾周一郎氏に話を伺いました。
――「Audiostock」を立ち上げた経緯について教えてください。
西尾周一郎氏(以下、西尾) 創業した当時、弊社は作曲コンテストをオンラインで開催するサービスなどを行っていました。作曲家やテレビ関係者などの知り合いが増えるなかで、彼らがよく「音楽著作権の扱いが難しい」と言っていたんです。例えば、テレビ番組をDVD化したり、ネット配信する際に、使用音源を流用するとなると権利関係がややこしくて使えない場合があると。そこで、媒体を気にせず使用できるロイヤリティフリーの音源にはニーズがあると感じ、リリースしたのがAudiostockです。
開始当初のユーザーは企業系が中心で、映像制作会社、ケーブルテレビ局などでしたが、動画市場の盛り上がりと共に、個人のクリエーターの方も増えていきました。現在ではYouTubeを筆頭に、TikTok、17LIVEといった様々な動画メディアのクリエーターさんに使用していただいています。無料の音源だと、どうしても他の人と被ってしまったり、クオリティーで物足りないと彼らは感じているようなんですよね。Audiostockは、79万という曲数に加え、定期的にプロの奏者を招いて生演奏のレコーディングも行っており、質と量の両面で評価していただけているのかなと思います。
最近では、民放のキー局が制作するネットドラマといった、予算が限られているところでの使用事例も出てきており、フジテレビ制作の『東京ラブストーリー(2020)』の劇中音楽にも使用されました。
似た楽曲を探せる機能も
――Audiostockは、音源の探しやすさも強みの1つですよね。
西尾 音源を、ジャンル、楽器、擬音など様々な形で検索できるようにしています。さらに、AI機能も備えているため、手元にある音源や、YouTubeのURLから似た楽曲を探すことも可能。「あのCMソングっぽい曲が欲しい」といったニーズにも対応しています。
人気の音源の傾向でいうと、この3年間は「和風」という単語が検索ワード1位でした。もともと人気ではあるんですが、やはり東京オリンピックの影響も大きかったようで、海外の人に向けて日本の文化を知ってもらう動画が多く作られたことも影響していると思います。ちなみに、江頭2:50さんのYouTubeのオープニング曲でも、Audiostockの和風の音源が使われていたりします。
――登録クリエーターも順調に増えているそうですね。
西尾 年々増加傾向にあり、現在2万組に上ります。彼らへの分配額に関しても、20年は総額で1億円を超えました。トップの方は600万円を稼いでいて、100万円以上の収入を得ている方も14名いらっしゃいました。人気クリエーターも生まれていて、“こおろぎ”さんという方はホラー系の楽曲で人気となっています。気に入ったクリエーターをフォローできる機能もあり、そちらも好評です。当初は、ユーザーの方はクリエーターの名前はそれほど気にしてないと思っていたのですが、「同じクリエーターの楽曲のほうが動画に統一感が出る」との声を多数いただき、なるほどなと。
今後は、こちらからも積極的にクリエーターをリクルートしていきたいと考えています。少し前に、ゲーム会社タイトーの音楽クリエーターチーム「ZUNTATA」さんに声掛けをし、音源を制作してもらっており好評です。また、アジアを中心としたグローバル展開にも力を入れていきたいと考えています。
(構成/中桐基善)