1970年代のボウリング、80年代のビリヤード、2000年代のダーツと、時代ごとに若者の間で流行する遊技は変遷を重ねている。そして21年の今、Z世代の間でブームを呼んでいるのが、実はカードゲームの「ポーカー」だ。遊技機メーカーのサミー(東京・品川)は専用遊技場を出店、アプリを展開するなど本腰を入れ始めた。なぜポーカーなのか。

サミーが手掛ける「m HOLD’EM(エムホールデム)目黒」。店内にはポーカーテーブルが8卓設置されている。肩肘張らず、ポーカーを気軽に楽しめるカジュアルな雰囲気だ(写真提供/サミー)
サミーが手掛ける「m HOLD’EM(エムホールデム)目黒」。店内にはポーカーテーブルが8卓設置されている。肩肘張らず、ポーカーを気軽に楽しめるカジュアルな雰囲気だ(写真提供/サミー)

 2021年8月、東京・目黒に新たな流行発信地が産声を上げた。仕掛けたのは、遊技機メーカーのサミー。カードゲームのポーカーが手軽にできる「m HOLD’EM(エムホールデム)目黒」を出店した。

 店内には、一度に9人のプレーヤーが座れるポーカーテーブルがVIPルームを含めて8卓設けられ、中央にはバーカウンターがあり、軽食やアルコールを楽しめる。店内で一度に座れるのはポーカーテーブルとカウンターを合わせて90人程度。照明は明るく、壁や窓にはトランプのマークなどが飾られ、カジュアルな雰囲気だ。初めて来る若い人や女性でも、入りやすく、居心地がよいように工夫されている。

中央にはバーカウンターが設置され、ビールやオリジナルカクテルが飲めるほか、ピザ、カレーなどの食事もできる(写真提供/サミー)
中央にはバーカウンターが設置され、ビールやオリジナルカクテルが飲めるほか、ピザ、カレーなどの食事もできる(写真提供/サミー)
店内奥のVIPルームは特別な空間になっており、仲間だけで楽しみたいときには重宝しそうだ。使用料は1時間2万5000円(税込み)(写真提供/サミー)
店内奥のVIPルームは特別な空間になっており、仲間だけで楽しみたいときには重宝しそうだ。使用料は1時間2万5000円(税込み)(写真提供/サミー)

若者を魅了する「テキサスホールデム」とは?

 入店時、利用者はフロントで遊び方に応じた料金を払い、チップを受け取ってゲームに臨む。デイリーで優勝者を決める勝ち抜きバトルの「トーナメント」に参加する場合は、最初に2000円(税込み、ワンドリンク付き)などを支払い、トーナメント用テーブルのうち1つに座る。知らない人たちとテーブルを囲み、ガチンコで勝負をするイメージだ。

 参加者は同じチップ数からスタートし、手持ちのチップを使いながら繰り返しゲームを行う。チップがなくなれば敗退となり、最終的に勝ち残ったプレーヤーが優勝者となる。上位者は成績順に多くのチップを獲得でき、それらは店の帳簿に記録して、次回来たときに引き出して使える(引き出し手数料が必要)。ただし、チップの換金はできない。

 その他、何人かのグループで訪れ、会話やドリンクを楽しみながら、提供されたチップがなくなるまで、気軽にポーカーを楽しめるプラン「リングゲーム」も用意されている。チップが500ポイント分だと3000円(税込み、ワンドリンク付き)、1000ポイント分だと5000円(同)となる。

 リングゲームのポーカーテーブルは、天井付近に設置されたプロジェクターから、卓上をスクリーン代わりにして映像を投映する「プロジェクションマッピング」を活用。手元でディーラーが投映画面を操作することで、卓上の色や絵柄を自在に変えられる。エンタメ要素あふれる設計だ。ルールを全く知らない初心者向けには、ディーラーがルールやゲームの進行を教えてくれる講習付きのコースもある。こちらは3000円(同)で、講習後はリングゲームのテーブルで実際のゲームに参加可能だ。

色や絵柄をワンタッチで変えられる、プロジェクションマッピングを取り入れたポーカーテーブル
色や絵柄をワンタッチで変えられる、プロジェクションマッピングを取り入れたポーカーテーブル

 なぜ、初心者が講習を受ける必要があるのか。それは、エムホールデム目黒では「テキサスホールデム」という日本では聞き慣れないルールと進め方で、ポーカーゲームを行うからだ。多くの日本人が知っているポーカーは、5枚の手札が配られ、不要なカードを場に捨て、捨てた枚数分をカードの山から取って同じ数が2枚の「ワンペア」や5枚すべてが同じマークの「フラッシュ」などの役を作る。最終的に一番強い役を作った人が勝ちだ。

 ところが、テキサスホールデムでは、ディーラーから配布されるカードは2枚だけ。その2枚の手札とディーラーが場に公開する5枚のカードの計7枚を組み合わせて5枚の役を作る。手札を他のプレーヤーに見えないようにし、自分の役の強さや相手の状況を類推しながら、ゲームに参加する場合は手元のチップを所定の位置に出して「コール」、強気でいく場合は相手より多いチップを出す「レイズ」、参加せず降りる場合は「フォールド」、所持しているチップをすべて出す「オールイン」などをディーラーに伝え、プレーする。

 最も強い役を作ったプレーヤーが勝つのは、他のポーカーのルールと同じだ。勝者は参加した人が出したチップを総取りできる。自分が弱い役なのに、表情は「ポーカーフェース」で強い役のふりをして(「ブラフ」という)出すチップの額を釣り上げ、相手をフォールドに追い込んだり、逆に強い役だが弱いふりをして相手に出すチップの額を上げさせて奪ったりするなど、スリリングな心理戦を満喫できる。

 こうしたテキサスホールデムならではのしびれる駆け引きに、若者たちが引き付けられているのかもしれない。「洗練された空間で、お酒をたしなみながらポーカーをするという、かっこよくて非日常的なスタイルも、刺激を求める若者の心を捉えている」と、サミー新規・DX推進部次長の﨑野淳史氏は話す。

初心者である筆者もテキサスホールデムのポーカーを体験してみた。ゲームが始まるとディーラーが素早くカードを2枚ずつ配る
初心者である筆者もテキサスホールデムのポーカーを体験してみた。ゲームが始まるとディーラーが素早くカードを2枚ずつ配る
手札は相手に見えないように手で隠して見るのがポイント。こうしたテクニックもディーラーが丁寧に教えてくれる
手札は相手に見えないように手で隠して見るのがポイント。こうしたテクニックもディーラーが丁寧に教えてくれる
筆者は役ができなかったが「ブラフ」で強気の勝負に。ただ、強い役(スリーカード)を作っていた相手が降りなかったため、あっさり敗北。駆け引きの醍醐味は味わえた
筆者は役ができなかったが「ブラフ」で強気の勝負に。ただ、強い役(スリーカード)を作っていた相手が降りなかったため、あっさり敗北。駆け引きの醍醐味は味わえた

 実際、21年10月に緊急事態宣言が解除されて以降、エムホールデム目黒の来店客数は好調に増え続けている。10月は2000人以上を数え、土日ともなれば席が埋まり、空くのを待つ人が出るほどだ。来店客の約半数は20代以下で男性が中心だが、他のポーカー店との違いは女性が2割と比較的多いことだ。1人で来る客もいれば、友人同士やカップルで訪れる若者も見られ、サウナやシーシャ(水たばこ)専門店に続く、Z世代の新たな社交場として、盛り上がりを見せているのだ。

【ココが響いてます from原田氏の若者プレゼン大会】
津田塾大学の峯桃花さん
 大学生の間でポーカーが人気になっている背景には、遊びとしての面白さに加え、そのイメージのよさがあると思います。「ポーカーが趣味」といえば、何となくインテリっぽい印象を周囲に与えられ、マージャンよりおしゃれな感じもあります。自分のスマートさをアピールできるゲームだと、多くの若者が考えているのではないでしょうか。女子もこの流れに乗って、今まできらきらした印象で売っていたミスコン出身の女子が「趣味はポーカー」とアピールするなど、Z世代の中では流行が加速する一方です。

“世界のヨコサワ”がブームの端緒に

 そもそも、なぜ今ポーカーがブームなのか。発端の1つといわれるのが、世界各国のカジノを回り、実際にポーカーゲームで勝利する様子をYouTubeに配信しているプロ・ポーカー・プレーヤー、横沢真人氏の存在だ。「世界のヨコサワ」を名乗り、配信するYouTubeチャンネルの登録者数は60万を超えている。

 海外では優勝賞金が10億円以上のポーカー世界大会「WSOP(World Series of Poker)」など一獲千金の大会も開かれており、そうしたビッグトーナメントへ果敢に挑戦する横沢氏の姿に憧れ、ポーカーに興味を持つ若者が相次いでいるようだ。

 ただ、日本では現金を賭けてポーカーをすることは違法だ。そこで、賭けることはせず、手軽にポーカーを楽しめるアミューズメント施設が数多く出始め、若者のプレースポットとして人気を集めているのだ。「ここ10年でポーカーができる店は急増しており、都内だけでも100店舗以上あるのではないか」と、m HOLD’EMプロデューサーのガイP氏は話す。

 また、毎年、海外のポーカー大会に出場するための参加費や渡航費などを手にできる、複数の国内大会が開催されていることも人気を後押ししている。ポーカーはルールが単純で、手札やディーラーが公開するカードは運の要素が強い。それ故、初心者でもポーカー歴何十年のベテランを倒すといった大番狂わせが時折起こるゲームだ。現に、21年に行われた国内最大規模の大会「ジャパン・オープン・ポーカー・ツアー (JOPT)」では、ポーカー歴僅か3カ月の参加者が優勝し、トロフィーと450万円分の海外大会出場費、渡航費補助を獲得、WSOPへの出場を果たした。

 つまり、始めて間もない素人でもWSOPに出場し、10億円獲得の夢を見ることができる。こうした「ビギナーでも運がよければ一発逆転で成り上がれる」ことも若者の心を射止め、ポーカー熱をヒートアップさせているのだろう。

2021年5月、ジャパン・オープン・ポーカー・ツアーは6日間にわたって東京・竹芝のポートホールで開催され、約6000人もの参加者を集めた(写真/ジャパン・オープン・ポーカー・ツアーのプレスリリースより)
2021年5月、ジャパン・オープン・ポーカー・ツアーは6日間にわたって東京・竹芝のポートホールで開催され、約6000人もの参加者を集めた(写真/ジャパン・オープン・ポーカー・ツアーのプレスリリースより)

 サミーでも、優勝者に賞品や賞金を出す、大小様々な無料のポーカー大会を催している。ユニークなのが、テキサスホールデムのルールでポーカーが遊べるスマホアプリ「m HOLD’EM」をリリースし、そのアプリを使ったeスポーツ大会として運営している点だ。

 毎月オンラインで実施され、自宅から気軽に参加できる賞品付きの「m HOLD’EMカップ」から、賞金総額331万円で年間王者を決める「m HOLD’EMファイナルズ」まであり、参加者はアプリ上でログインして、チャレンジする。

 アプリは21年7月にリリースされ、21年11月の段階で40万ダウンロードを超えている。普段はアプリ上で全国各地のユーザーと対戦しながらルールや勝ち方を覚え、気が向いたら小規模な大会にエントリーし、あわよくば賞金をゲットする。さらには、その先の大きな大会に出場して多額の賞金も獲得できる可能性がある。若者にとっては夢のある仕掛けになっているのが特徴だ。参加費はいずれも無料となる。

スマホアプリ「m HOLD’EM」では、同じ時間帯にエントリーしたユーザーといつでも気軽に対戦できる。著名な漫画家が描いたオリジナルキャラクターを自分のアバターとして選べるのも特徴。無料で使えるが、アイテムをゲットするための有料ガチャも用意(画像提供/サミー)
スマホアプリ「m HOLD’EM」では、同じ時間帯にエントリーしたユーザーといつでも気軽に対戦できる。著名な漫画家が描いたオリジナルキャラクターを自分のアバターとして選べるのも特徴。無料で使えるが、アイテムをゲットするための有料ガチャも用意(画像提供/サミー)

 筆者もアプリを入手し、プレーしてみた。最初はルールを覚えるのに懸命だったが、何度か対戦しているうちにすぐに慣れ、相手と駆け引きしながら勝てるようになった。まずは筆者のようにアプリで練習してから、リアル店舗のm HOLD’EM目黒に行って、実際にプレーしてみるのもいいだろう。アプリを入り口として、実店舗への集客につなげるOMO(オンラインとオフラインの融合)を行っている点も、サミーの巧みなマーケティング戦略といえる。

左から、サミー新規・DX推進部次長の﨑野淳史氏、同部長の伊藤保勝氏、m HOLD’EMプロデューサーの菅井太治氏。「テキサスホールデムのポーカーを一過性のブームに終わらせず、しっかりと日本に根付かせたい」(﨑野氏)と話す
左から、サミー新規・DX推進部次長の﨑野淳史氏、同部長の伊藤保勝氏、m HOLD’EMプロデューサーのガイP氏。「テキサスホールデムのポーカーを一過性のブームに終わらせず、しっかりと日本に根付かせたい」(﨑野氏)と話す

 サミーでは、他にもテキサスホールデムに関する情報が満載の総合情報サイト「m Portal」を運営。今後は、メディアミックスプロジェクト「HIGH CARD」を始動させ、ポーカーをモチーフにし、アニメ化など様々な展開を図っていく計画だ。

 全体を統括して事業名を「m」と名付けている。「サミーの新たな事業として始めたのが『m』。今、日本のテキサスホールデムのユーザーは100万人程度といわれているが、目標はマージャンをプレーする人口並みの600万~700万人まで広げること。若者を中心にまだ伸びしろは十分にある」と、サミー新規・DX推進部部長の伊藤保勝氏は期待を寄せる。同社としては、パチンコ、パチスロに続く、次の柱に育てたい意向。22年は、サミーの注力もあり、ポーカーブームがより一層進展しそうな気配だ。

(写真/古立康三)

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