若者研究の第一人者・原田曜平氏が主催する、高校生・大学生のプレゼン大会で挙がった今どきの若者ヒットの理由を探る本連載。今回取り上げるのは、タピオカドリンク、レモネードなどが人気を集める中、“第3のインスタ映え飲料”として若い女性の間で支持されている、昔懐かしいクリームソーダだ。なぜこれほど人気なのか?
店に“飲み”に来るのではなく“撮り”に来る
東京・神田のオフィス街の一角に、女子大生を中心に圧倒的な人気を誇る店がある。ギョーザや小籠包を、昭和レトロ調のおしゃれな雰囲気の店内で食べられる「トーキョーギョーザクラブ」だ。現在(2020年5月13日時点)は、新型コロナウイルス禍による緊急事態宣言の発令を受けて営業を自粛しているが、それ以前は連日、若い女性たちが夕方ごろから開店待ちの長蛇の列をつくっていた。19年12月オープンで、当初無名だった店としては異例の盛況ぶりだ。
ここ数年、ギョーザバーやワインを楽しめるギョーザ専門店など新手の業態が増え、若者の間でもギョーザはトレンド感のある定番料理。ただし、意表を突くことに、若い女性がトーキョーギョーザクラブに来るのは、実はギョーザがメインの目的ではないという。彼女たちの目当てはズバリ、同店が提供している「クリームソーダハイ」だ。
ただし、そのクリームソーダハイが他の店と違って特別に凝っているのかといえば、そうでもない。鮮やかなメロンソーダの味わいも、上にのっているアイスクリームも至って“平凡”に思える。だが、同店を運営するREALBBQ(リアルバーベキュー)取締役の福山俊大氏は、こう話す。
「必ずしも味が特別である必要はない。なぜなら、クリームソーダハイを“飲み”に来ているのではなく、“撮り”に来ているから」
ほぼ全席が若い女性で埋まった
実は、こうしたクリームソーダ系飲料が、若者の間で人気のドリンクになっている。ここしばらく彼女らの間では昭和レトロな純喫茶がブーム。スターバックス コーヒー ジャパンがその点に目を付け、19年にレトロなメニューを提供するプロモーション「スタアバックス珈琲」を展開して話題を集めた。そうした純喫茶の定番メニューの中でも、最大の支持を得ている飲料の1つがクリームソーダ。理由は、写真に撮ったときに緑色の液色が「映える」からだ。
福山氏らは、店を企画する段階で、近年人気のギョーザを扱うことは早い段階で決めていた。しかし、ライバル店がひしめく中、味だけで勝負することは難しいと判断。何かもう1つ、どうしても行きたくなるような仕掛けが必要だと考えた。そこで思いついたのが、若者からの支持が厚いクリームソーダのサワーをメニューに加えることだ。
さらに、店内をコンクリートの打ちっぱなしの壁にしたり、カウンターや椅子を年月がたったようにエージングしたりするなど、ギョーザ店とは思えない、今どきのセンス良いカフェのような空間に演出。直線的な字体で洗練された店名ロゴをあしらった“映えるグラス”も用意。「クリームソーダハイを注文すれば、どこに置いて、どの角度から撮っても、彼女たちが求める“映える写真”が撮れるように、店もグラスもデザインした」(福山氏)
開店当初、来店客の多くを神田エリアで働く男性サラリーマンが占めていた。だが、若い女性のフォロワーが多いインフルエンサーのゆかこ氏がTwitterでトーキョーギョーザクラブを紹介し、その投稿がバズったことで状況は一変。翌日には、店頭に若い女性が列をなして並び、開店と同時に店内20席のほぼ全てを女性が埋めた。その後、チャンネル登録者数が約136万人に及ぶYouTuberのエミリン氏が同店を紹介したことで、さらに大ブレーク。客は開店の17時から閉店の23時までの6時間でおよそ3回転し、営業中は常に満席状態。1日の来店者数は約60~70人で、予約の電話が鳴りやまないほどの繁盛店にのし上がった。
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