若者研究の第一人者・原田曜平氏が主催する、高校生・大学生のプレゼン大会で挙がった今どきの若者ヒットの理由を探る本連載。今回は、新型コロナショック以前の2019年12月にオープンした横浜の人気焼き肉店「ときわ亭」にスポットを当てる。若者たちが支持したのは、各テーブルやカウンターに添え付けられた謎の“蛇口”。そのワケとは?

卓上の蛇口からはチューハイが出てくる。時間内であれば何杯でもレモンサワーが飲める
卓上の蛇口からはチューハイが出てくる。時間内であれば何杯でもレモンサワーが飲める

 横浜駅西口に広がる歓楽街に、ひときわ客層が若い店がある。2019年12月にオープンした塩ホルモンや牛タンが主力メニューの焼き肉店「ときわ亭」だ。新型コロナウイルスの猛威さえなければ、今をときめく繁盛店の一角に急浮上していただろう(4月10日現在、緊急事態宣言を受けて臨時休業中)。

 ただし、この店を訪れる若者たちの目当ては、名物の塩ホルモンでも、牛タンだけではない。主な動機は唯一つ、64席あるカウンターとテーブルに設置された謎の“蛇口”だ。その蛇口は、実はテーブル下にあるタンクにつながっており、レバーを手前に倒すとチューハイが出てくるという驚きの仕掛けが施されている。

ときわ亭に入ると、全卓に蛇口が設置された異様な光景が目に飛び込んでくる
ときわ亭に入ると、全卓に蛇口が設置された異様な光景が目に飛び込んでくる

 この蛇口は、500円で1時間レモンサワーが飲み放題になるメニュー「0秒レモンサワー」を注文した客だけが使える。注文時に10種あるレモンシロップから2種を選び、適量をグラスに入れ、あとは蛇口からチューハイを注ぐだけで、好きなだけレモンサワーが飲める。店にはビールもあれば、他のフレーバーのサワーもあるが、「ビールも他のサワーもほとんど注文されない。来店客は100%、0秒レモンサワーを注文する」(マネージャーの國吉俊平氏)。0秒レモンサワーは、店の看板料理を押しのけ、店一番の強力な集客ツールになっているのだ。

蛇口で飲み放題のネックを解消

 ときわ亭は、仙台を拠点とするTFS常盤フードサービスが、東北6県で展開する焼き肉店。その焼き肉店の人気に目を付け、様々な業態の居酒屋を運営するGOSSO(東京・渋谷)が、同社と東北6県以外での広域フランチャイズ契約を結び、第一弾として横浜西口店をオープンすることになった。

 だが、塩ホルモンなど看板メニューはあったものの、もう一つ客を集めるパンチがほしい。そう考え、GOSSOが着目したのが、静岡県浜松市にある「焼き肉ホルモン酒場 1129」がレモンサワー用に全卓に設置していたチューハイが出る蛇口「チューハイサーバー」だ。「1129は全国の居酒屋運営会社の注目の的で、視察が絶えない店だった。当社も同店を訪れ、これは集客に効果的と判断して導入を決めた」と、GOSSO執行役員の金谷雅史氏は言う。

 問題はこの集客力が期待できる武器をどうアピールするかだ。単に「レモンサワー飲み放題」と訴求しても新鮮味は全くない。そこでGOSSOがひねり出したうたい文句が、「0秒レモンサワー」だ。「顧客にとって飲み放題のネックは、店員にいちいち頼まなければならず、注文してもなかなか出てこない場合があってイライラすること。当店であれば飲みたい時にセルフで注ぎ、“待ち時間ゼロ”で飲めることを表現した」(金谷氏)。

 この売り文句の効果は絶大だった。店頭に「0秒レモンサワー」のポスターを掲げたところ、それを目にした若者たちが吸い込まれるように来店。SNSには蛇口からチューハイを注いでレモンサワーを楽しむ静止画、動画が次々と投稿された。斬新なスタイルはあっという間に拡散。昨今、ブームとなっているレモンサワーのインフルエンサーで、テレビにも出演した「レモンザムライ」、グルメインフルエンサーで約12万人のフォロワーを持つ「へんてこグルメガイド矢崎」などが自身のSNSで紹介したことで集客に拍車がかかった。そうして広告やチラシなどを全く打っていないにも関わらず、たちまち予約困難な人気店にのし上がったのだ。

店頭には「0秒レモンサワー」を大々的にうたうポスターを掲示。この売り文句に若者たちが引き寄せられた
店頭には「0秒レモンサワー」を大々的にうたうポスターを掲示。この売り文句に若者たちが引き寄せられた
【ココが響いてます from原田氏の若者プレゼン大会】
早稲田大学3年 長谷川優真さん
 テーブルに設置された蛇口から出てくるチューハイでレモンサワーが作れる、学生にとっては夢のような店。若者は居酒屋などでよく飲み放題を利用しますが、注文してもしばらく出てこないことが多々ある。この蛇口があれば好きなタイミングで好きな量だけを注ぐことができ、まさに画期的。“最初の一杯はビール”という旧来の概念も覆す新発想です。
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