若者研究の第一人者・原田曜平氏が主催する、高校生・大学生のプレゼン大会で挙がった今どきの若者ヒットの理由を探る本連載。今回は、2019年に社会現象を巻き起こした“タピオカブーム”の火付け役であるグルメ系インフルエンサー、りょうくんグルメを直撃。女子高生、女子大生に圧倒的な人気を誇る若者グルメのトレンドセッターに女子に響くSNSマーケティングのコツを聞いた。
グルメSNSの“情報格差”に気付く
あなたは「りょうくんグルメ」を知っているだろうか。
30代以上の世代に聞いたら十中八九「それって誰?」と答えるだろう。しかし、10代~20代前半の、特に女性では知らない人の方がまれかもしれない。それほど、若い世代に浸透しているグルメ系インフルエンサーがりょうくんグルメだ。
本名は非公開、宮城県出身で現在31歳。「まじでこの世の全ての〇〇に教えてあげたいんだが…」という独特の言い回しで、毎日グルメ情報を発信する。2020年4月には、ビジネス書『まじでこの世の全てのSNSでバズらせたい人に教えてあげたいんだが。』(KADOKAWA)の出版も予定しており、今乗りに乗っているインフルエンサーだ。
そんな彼を一躍有名にしたのが、19年に日本列島を席巻した“タピオカブーム”。実は、彼こそが知る人ぞ知る、タピオカドリンク大流行の仕掛け人と言われているのだ。一体どんな人物なのか。
りょうくんグルメは、元々、2年ほど前まではプライベートアカウントで細々とグルメ情報を発信する、一般的なSNSユーザーに過ぎなかった。だが、「いつか影響力のあるインフルエンサーになる」という野望は胸に秘めていた。そうした中、目にとまったのが17年からTwitterで情報を発信し、人気を博していたあるグルメ系インフルエンサーの投稿だ。
「当時、Twitterでグルメ情報を発信しているインフルエンサーはほとんどいなかった。一方でInstagramにはグルメ情報の投稿が数多くあった。僕が目を付けたインフルエンサーは、このSNSプラットフォーム間の“情報格差”を利用し、インスタで最新のグルメ情報を収集し、その中で自分が良いと思った店に行ってTwitterに投稿することでバズっていた。このカラクリを分析して突き止めた」と、りょうくんグルメは振り返る。
これは、米国で流行っている最新トレンドを日本にいち早く導入する、いわゆる“タイムマシン商法”と同じやり方だ。ただし、単にものまねをするのでは芸がない。
何か盲点はないか。そう意識して既存のグルメ情報発信者の傾向を探ると、ある発見があった。それは、大半が“男性目線”の紹介であることだ。取り上げるメニューはガッツリ系が多く、価格も高め。大人向けの店も多かった。「であれば、自分は完全に逆を行こうと。つまり、キーワードは女性目線。10代の若い女性をターゲットに、価格が手ごろで、彼女たちが行きたくなるような店を紹介すれば、既存のインフルエンサーに勝てると思った」と、りょうくんグルメは話す。
早速、若い女性の食べ歩きの“聖地”である新大久保に情報収集をしに出向いた。すると、行き交う若者たちがホットドッグにたっぷりのチーズを入れた「チーズドッグ(チーズハットグ)」を手に持っている姿が目に飛び込んできた。「これって、一般の人は知らないグルメだ」。そう思ってTwitterに投稿すると、一気に10万以上の「いいね!」がつき、瞬く間に拡散。想定以上の反応だった。
“女性目線”でタピオカの鉱脈を探り当てる
チーズハットグの紹介で確かな手ごたえを感じ、その後はまず新宿、新大久保、原宿、渋谷といった若者が集まるエリアのグルメ情報をSNS中心に徹底的に洗い出し、その中で投稿数が多かったり、大量のいいね!が集まっていたりする店をピックアップ。実際に自分で行って、自信を持って薦められる店だけを投稿する我流の方法論を見出した。
さらに、女子高生、女子大生が、友人と一緒に人気店に行き、写真を撮り合って投稿していることに着目。「それをまねして、僕も店には必ず友人の女性と一緒に行き、食べ物だけではなく、女性の手元や体の一部が映り込むような写真を撮って投稿。10代、20代女子の日常の投稿と同じように見せる工夫をした」(りょうくんグルメ)。
それだけではない。一緒に行った女性に、店の雰囲気や食べた感想をヒアリングし、「おしゃべりしやすい店か」「若い女性好みの味か」など、男性では気付かない視点もレビューに盛り込んだ。こうして若い女性の行動やマインドを分析し、それに寄りそったグルメ情報の投稿を繰り返すことで、徐々に信頼をつかみ、フォロワー数を増やしていったのだ。
そうした中、見つけた金の鉱脈が「タピオカドリンク」だった。18年の春から夏にかけて、若者のメッカである原宿の街を観察していると、それまではなかった行列ができていた。行列の先をたどると、その発生源はタピオカドリンクの店だった。「見た目がかわいい、持ち歩きたい、SNSに載せたいなど、若者に流行る要素が盛りだくさん。直感的に大きくブレイクするなと。当時、タピオカドリンクに気付いている著名なインフルエンサーはいなかったので、自分にとっては千載一遇のチャンスだと思った」(りょうくんグルメ)。
この機を逃すまいと、それからは新規オープンするタピオカドリンク店をしらみつぶしに検索。どの店もいの一番に行って、毎日のように「まじでこの世の全てのタピオカ好きに教えてあげたいんだが…」という決まり文句で、これでもか、これでもかと投稿を流し続けた。その執拗なまでの投稿の連打が、モデルで人気インフルエンサーの古川優香氏の目にとまり、彼女がいいね!をしたことにより大きく拡散。タピオカブームが世の中に広く認知されるとともに、「りょうくんグルメこそがタピオカブームの仕掛け人」という確固たる“称号”を得ることに成功したのだ。
バズるのは「丸い」「モチモチ」「韓国っぽさ」
タピオカブームの仕掛け人と呼ばれるようになり、日々精度の高いグルメ情報を発信する中で、「りょうくんグルメが薦める店なら間違いない」といった認識が浸透。今ではTwitterのフォロワー数が約44万、Instagramは約28万にも上る、グルメ系インフルエンサーのトップランナーにのし上がった。特に、女子高生、女子大生に抜群の知名度を誇っていることが、他のインフルエンサーとの違いだ。
日々、若い女性の気持ちになり切って発信し、反応を見る中で、何が女子受けし、何が受けないかも見えてきた。一つは、「女子は丸いものが好き」という発見だ。「例えば、和のスイーツで定番の団子。インスタに丸い団子の写真とともに店を紹介すると、いいね!が2万以上つくなど、通常の倍に跳ね上がる。女子受けを狙うなら“丸いグルメ”は鉄板ネタ」とりょうくんグルメは話す。
もう一つ、女子受け必至のキーワードが、「モチモチしたもの」だ。餅、白玉、さらにはタピオカも、“モチモチ”のスイーツ。めん類では、ラーメンよりうどんのほうが若い女性に人気で、その理由も、うどんがモチモチしているからだ。さらに、「幅が広いめん類」は非常に好感される。細いめんより写真にインパクトがあり、モッチリした見た目に女性は心を奪われるようだ。実際、りゅうくんグルメが極太のうどんを紹介した投稿では、いいね!が2万越えを果たした。
また、若い女性の間では“韓流”が大人気。そのため「韓国っぽいグルメ」も受けるそうだ。「韓国のスイーツの特徴は、ファッション化されていること。つまりスイーツ自体がかわいく見えたり、包材が凝っていてインスタ映えしたりなど、見た目を重視している。そして、とにかく大きいこと。ケーキをカットする角度が広く、しかもクリームが豪快にかけられており、通常なら小さくて上品なマカロンも韓国では巨大化して売られている。この“分厚め”“大き目”なスイーツも日本の女子受けでは必須要素」(りょうくんグルメ)。
逆に反応を得ることが難しいのが、焼き肉だ。単純に見た目が“映えない”からだという。カレーも禁じ手。理由は同じで、茶色一色で写真映えしないためだ。「もしカレーを紹介するなら、色とりどりの野菜が載ったカレーを選択するなどして、茶色感を薄める工夫が必要」(りょうくんグルメ)。
次のヒット候補は「進化系ベーグル」
最近では、こうしたSNSの経験値に基づいて、りょうくんグルメは飲食店のメニュー、スイーツの監修や企画も手掛けるようになった。りょうくんグルメがプロデュースし、19年にSHIBUYA109で若者向けのフードブランド「IMADA KITCHEN(イマダキッチン)」から限定発売した「うわさのクロワッサン」が、その一つだ。大胆にオレオを載せたクロワッサンをメインに、抹茶やストロベリー、ティラミスをアレンジするなど、異色のクロワッサンサンドだ。オレオをトッピングした奇抜な見た目や豪快に掛けたクリームなど、韓国スイーツの要素をふんだんに盛り込んだ商品で、大ヒットした。
では、今後はどんなグルメが若者女子の間で流行るのだろうか。りょうくんグルメの予測はこうだ。「注目はベーグル。“モチモチ”の要素があるのに、若者向きの遊び心のある商品がまだ出ていない。韓国っぽさを加えたらチャンスはあるだろう。加えて、韓国で今大人気のチョコレートやチーズケーキのテリーヌ。分厚くカットして提供することがポイントで、これもブームになる可能性は十分」。ベーグルとテリーヌはタピオカに続くのか、注目していきたい。