若者研究の第一人者・原田曜平氏が主催する、高校生・大学生のプレゼン大会で挙がった今どきの商品やサービスから若者ヒットの理由を探る本連載。今回は、Instagramの短尺動画機能「ストーリーズ」で、優れた広告のような完成度の高い画像や動画を定期的に発信し、多くの若者を魅了している謎のインスタグラマー「せとりょう」に迫る。
「記号」だけで表現
若い世代を強力に引きつけているSNSといえば「Instagram」が鉄板だ。中でも、昨今人気を集めているのは「ストーリーズ」という15秒の短尺動画や写真を手軽に投稿できる機能。スマートフォン上でスタンプやフィルターなどを使って簡単に編集・加工ができ、投稿から24時間で自動的に消去されるのが特徴。気軽に動画や写真を発信できる点が受けており、若者たちの間ではストーリーズだけを使う人もいる。
このストーリーズを使って、まるで広告やポスターのようなクオリティーの高い作品を発信し、若い世代に支持されているのが、「せとりょう」こと、瀬戸口諒氏だ。そのストーリーズは一見したところ、「単にセンスの良い、しゃれたクリエーティブ」と思うかもしれない。では、なぜ瀬戸口氏の作品がSNS上でバズり、若者の支持を得ているのだろうか。
その最大の理由は、瀬戸口氏が駆使する仰天の離れ業にある。イラストに見えるものは手描きではなく、主に「_(アンダーバー)」や「/(スラッシュ)」、あるいは「■(四角)」「●(丸)」「▲(三角)」といった、ストーリーズが備えるテキスト機能の“記号”のみを使って描かれている。
ひと昔前、メールや電子掲示板に記号を使って描いた作品を発信する行為(いわゆるアスキーアート)がはやったが、そのInstagram版であり、しかも格段にレベルが高い印象だ。「イラストレーターなど専門のソフトを使って作っているのでは?」という疑念も持たれそうだが、瀬戸口氏はInstagramの長尺動画機能「IGTV」を使って、作品の制作過程も早送り動画で紹介している。それを見ると、「丸」「四角」などの文言が画面上に飛び交い、本当に記号で描いていることが一目瞭然だ。
SNS上のコメントでは「すごい、これがストーリーズの機能だけとは」「目からウロコすぎる」「天才!!」といった声であふれ、絶賛の嵐。プロのクリエーターではないにもかかわらず、インスタのフォロワー数は5万人以上と異例の数を誇る。このファンの多さに目を付けた企業からは、ストーリーズに掲載する広告の作成依頼が舞い込むほど。例えば、講談社のファッション誌『ViVi』の広告を作るなど、クリエーター活動も本格化している。瀬戸口氏は今や、インスタのトンマナ(トーン&マナー)に合わせた広告表現をしたい企業にとって、欠かせない存在になりつつある。
Instagramのストーリーズ機能だけを使ってクリエーティブな作品を作る。誰にもまねできないオリジナル性が、大学生などの間で話題になっています。そのクオリティーはフォトショップやイラストレーターで作ったのではと思うほど。作成プロセスの「how to動画」も投稿しており、作品とセットで楽しめたり、自分で作る際のヒントにできたりする点も人気の秘訣です。
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