YouTubeやSNSなどで300万人超のフォロワーを抱えるkemio氏。2013年から6秒間の動画アプリ「Vine」で高校生のあるあるネタを投稿したことから注目を集め、テレビ番組やイベント出演へと活躍の場を広げた、インフルエンサーの先駆けだ。彼の人気の秘訣はどこにあるのか。若者研究の第一人者であるマーケティングアナリストの原田曜平氏が聞いた。
原田曜平氏(以下、原田) 2019年4月に上梓(じょうし)された著書『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA刊)が、すごく売れていると聞いています。この本は、やはりkemioファンの若い世代に受け入れられたのでしょうか。
kemio氏(以下、kemio) 今の若い世代は「活字離れしている」と言われますが、若いファンの皆様を中心に買ってくれているという声を聞いています。YouTubeを始めてからは、僕よりひと回り上の世代からメッセージをもらうことも増えましたね。
原田 なるほど、kemioさんというと、すごく若い層がファンだろうと思ってしまうけど、もはやYouTubeもある程度幅広い層が見るし、かなり幅広い世代に支持されているわけですね。改めてですが、まずkemioさんがどのような経緯でインフルエンサーとなったのかお聞きしたいのですが。
kemio 13年、僕が高校3年生のときにVine(6秒動画共有サービス)での投稿を始めたんです。有名になりたかったわけではなくて、学校であったネタを友達に見せたかっただけでした。でも、やってみたらものすごい反響で、あっという間にフォロワーが増えた。
そのとき、高校生向けの雑誌『HR』(グラフィティ)から声がかかって仕事をするようになり、そのままテレビ出演の案件もいただくようになりました。21歳になる1カ月前に語学留学のために米国へ引っ越して、その2カ月後くらいからYouTubeを始めたんです。
原田 Vineで有名になってテレビで取り上げられて。それからは、結構いろいろなテレビ番組に出演されていましたよね。僕ともダウンタウンさんの番組で共演していますしね。
kemio そうですね。僕がテレビに出始めた頃は、インターネットの有名人が出演する事例があまりなかったんです。「ソーシャルインフルエンサー」というワードすらなかったと記憶しています。
原田 まだSNSの創世記で、SNS上で影響力を持った人も限られていたし、それがどれくらいの影響力になるかもまだ未知数だった頃だと思います。
kemio そうなんですよ。だから、驚きという感じでした。おそらく僕はラッキーだったんだと思います。当時はTwitterも動画のアップロードができなかったので、手軽に動画を上げられるSNSはVine以外なかった。そこで僕は、「学校あるあるネタ」をアップしていて、学生たちの共感を呼んだのではないでしょうか。
原田 それからテレビの世界に行ってみて、いかがでしたか。
kemio 正直、難しいと思いました。VineやYouTubeは、何を話すのか、何をやるのか、何分でやるのか、視聴者のコメントをどう拾うのか、全部自分でできるじゃないですか。でもテレビになると、ディレクターさんの意図や番組の流れ、企画意図、全てを考えて話す必要がある。何を話そうか考えてしまって、当時は難しかったです。
原田 動画SNSとテレビとでは、同じ動画でも表現の仕方が全く異なるということですね。トップユーチューバーのHIKAKINさんみたいに両方に出るようになった人も徐々に出てきてはいるけど、本質的には表現方法が違うメディアである、ということは理解しておいたほうが良さそうですね。
ちなみに、VineとYouTubeは同じ動画投稿メディアですが、この2つに何か違いはありましたか?
kemio Vineはたった6秒間の動画だったので、僕がいつも何をしているとか、どういうことを考えているとか、具体的な話は伝えられませんでした。インスタントなコンテンツで、「あ、面白いね、次」みたいな。その点、YouTubeは長い時間話ができるので、僕のことをちゃんと分かってくれるファンの方が増えたように感じます。温かいコメントもたくさんもらえるようになりましたね。
原田 そうか。一発芸のお披露目の場だったVineと違って、YouTubeは時間が長くとれるぶん、もっと人柄も含めた全人格的なところに惹かれるファンが集う場、という意味合いが強いのかもしれませんね。
しかし、Vineは一時期、世界中の若者たちの間で人気が出たのに、たった数年で一気に失速しましたよね。その原因は何だと思いますか。
kemio 15年にTwitterが動画をアップロードできるサービスを始めて、その影響が大きかったのではないかと思います。Vineは6秒間ということもあってインパクトの強い動画が多かったせいか、「動画は見るけど自分ではアップしない」というユーザーが多数を占めていた印象があって。一方で、Twitterの動画サービスやTikTokの登場によって、みんなが気軽に動画をアップするようになった。そうしてユーザーが移っていったのではないかと思います。
原田 なるほど。ということは、TikTokが今後残っていくかどうかというのも、一部の子しか動画をアップしない場にならないで済むかどうか、という点にかかってくると。話を戻しますが、kemioさんはテレビ時代を経て、米国に留学されたんですよね。
kemio そうです、ロサンゼルスに引っ越しました。もともと小さい頃から英語を勉強したいという気持ちがあったんです。2歳のときに両親を事故で亡くしたので、祖父母に育てられました。ただ、祖父母は共働きだったから、兄と家でテレビを見ることが多かったんです。「フルハウス」のような海外ドラマが好きで、自然に英語を勉強したいという気持ちが芽生えました。
原田 渡米の後、YouTube(「kemio」)を本格的に始めたんですよね。いつぐらいからフォロワーが増え始めたんですか。
kemio どれくらいだろう。18年夏くらいからかな。
原田 日本では、「JC・JK流行語大賞2018年上半期」のコトバ部門で、「あげみざわ(kemio氏が動画でよく使う言葉。「あげ」の進化形)」が1位になっていましたよね。でも、僕の肌感覚では、その2〜3年前には「kemioさんがYouTubeで活躍している」という話を女子高生から聞いていました。多分、その頃にはフォロワーも40万人ほどになっていたかと。ちなみに今のフォロワー数はどれくらいですか。
kemio 137万人くらいですね。
原田 それはすごい。もう1つのメディアと言ってもいいレベルですね。どれくらいの頻度で動画をアップしているんですか。
kemio 1週間に1回アップできたら「ラッキー」という感じですね。僕は計画性がないので、当日に撮影して、編集をして、すぐにアップしています。
数日考えて“企画モノ”を撮ることもありますが、メインとしては自分の生活の紹介です。普段どんなことがあったかとか、米国の教科書に日本の女子高生が紹介されていたとか、泥棒に入られたとか(笑)。日記をつけるのと同じような感覚で、自分が死んだときに、誰かが動画を見て振り返ってくれればいいなって。
原田 著書ではYouTubeを「デジタル遺書」と表現していましたよね。
kemio そうそう、そういう感じなんです。
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