SNSのインフルエンサー、“ゆうこす”こと菅本裕子氏と、サイバーエージェント次世代生活研究所の原田曜平氏の対談後編(前編は「ゆうこす流インフルエンサー道 秘訣は『丸くとがる』こと」)。ライブコマースやSNSをどのように使いこなし、若者を魅了しているのか。「戦略的インフルエンサー」としての実像が見えてきた。
原田曜平(以下、原田) ゆうこすさんは、SNSに応じて投稿する表現の仕方を変えているそうですね。きっと世の中のおじさまは、SNSごとの特徴や使い分け方をよく理解していない人が多いんじゃないかと思います。ぜひレクチャーしてください。
菅本裕子(以下、ゆうこす) 私が今使っているSNSは、Twitter、Instagram、YouTube、LINE、ブログ、各メディアの生配信(InstagramやTwitter、LINEのライブ機能)です。それこそ、一日中何らかのメディアで配信しています。
使い方の特徴は、ファンの熱量によってSNSの「階層分け」をして、それぞれ適した内容を配信していること。例えば、私のことをあまりよく知らない、まだ熱量がそれほど高くないライト層に認知してもらうのに使っているのはYouTubeです。YouTubeは私が認知を広げたい10~20代が多用しているドンピシャのメディアですし、拡散性も高いのでライト層にリーチするには有効と考えています。匿名性が高く、気軽にコメントを残せる点もいいですね。
YouTube活用のポイントは、冒頭のタイトルなどに自分の名前を入れないことです。というのも、「ゆうこすが教える春コスメ」と銘打っても、私のことをまだ知らない人にとっては「誰?」となって響きません。ですから、例えば「ふんわり大人可愛い春ピンクメイク♡デート向け!」などと、ファンでなくても興味を引くようなタイトルにするんです。
原田 一見、「ゆうこす」と入れたほうが人は集まりそうだと素人は考えてしまうけど、ゆうこすさんを知らないティーンからしたら逆にマイナスポイントになってしまうのかもしれませんね。メディアごとにターゲットを定め、その心理をきちんと分析し、ソリューションも考えていると。それでは、コアなファン層に対してはどうアプローチしていますか?
ゆうこす 主にブログと生配信を活用しています。コア層は私の大ファンで、リアルイベントにも来てくれるような方々。時間軸で話すと分かりやすいのですが、とにかく「ゆうこすに使う時間が長い」層です。ここは求める情報がライト層とは全く異なります。サラッとした、みんなが知っている情報であってほしくなく、何なら“秘密”を共有したい。
そのため、ブログはものすごく長文です。例えば、私は銀杏BOYZというバンドが大好きなのですが、「ファンになったきっかけが元カレだった」など、一歩踏み込んだことを書いています。文の最後には、ブログを書きながら聴いていた音楽のURLを貼り付けたり、世界観をどっぷり共有します。
生配信では、例えば居酒屋でこっそり飲みながら、私の中学時代の話などプライベートなことをひたすら話し続けたり。もはや分かる人にしか刺さらない内容で、コアなファン以外は理解不能でしょう。けれど、それこそがコアなファンが求める内容ですから。
原田 タレントとして売り出したいなら、幅広い多くの人の共感を得たいから、より分かりやすい内容にしてしまうのが王道でしょう。でも、ゆうこすさんのブログや生配信では、あえて真逆に振っていると。コアなファンだけをめがけた場所をネット上に持つことで、数は少ないけど、拡散活動をしてくれるファンたちの満足度を高めているんですね。
ゆうこす どんなタレント、ブランドでも、最低2つはメディアを運用して、配信する内容をライト層向けとコア層向けに戦略的に分けないと、それぞれのユーザーの居心地が悪くなると思います。一方で、ちょっとしたコメントや「いいね!」を残してくれるようになった中間層も含めて、すべてのユーザー向けの情報発信ではTwitterやInstagramを使っています。
ただし、配信の方法はひと工夫しています。実は、ハッシュタグのキーワードを変えることで主にライト層に向けるのか、あるいはコア層なのか、情報の届け先を動かせるのです。例えば、モテたい女の子に人気のブランド「ジル・スチュアート」の新作リップが出た場合。私は、発売日に全色購入してレビューしたりするのですが、ハッシュタグは商品名やブランド名だけではなく、「#モテメイク」「#ぶりっ子メイク」など、できる限り広範囲なキーワードを付けてライト層を誘引しています。Instagramでは投稿を見たユーザーの属性データが分かるのですが、実際に「未フォローの新規ユーザーが60%」などと狙い通りの結果が出ています。
それに対して、コアなファンに日ごろの感謝の気持ちを伝えたいときは、ハッシュタグを「#ゆうこす」「#菅本裕子」だけにとどめます。すると、データでは未フォローの割合が15%程度と減り、代わりにフォロー済みのユーザーが大半となり、コメント数もぐっと増えます。そうやって、データで反応を見ながらSNSを活用するのがすごく楽しいんです。
原田 もはや敏腕マーケターといっても過言ではないほどのSNSの使い手になっていますね。広告会社のプロのクリエーターやマーケターでも、実は何となくの感覚値はあるものの、ゆうこすさんのように明確に体系立ててSNSの使い分けについて語れる人って少ないのでは。ゆうこすさんには演者側だけではなく、ぜひプロデュース側にも回ってほしいですね。他にもフォロワー数を増やしたり、SNSでコミュニティー作りを成功させたりする秘訣はありますか?
ゆうこす 先ほども少し触れましたが、重視するのは「居心地」です。生配信を例に取ると、どんなコアなファンでも、何のリアクションもなしにずっと同じ画を見続けるのはつらいもの。私が他の人の生配信を見ていても、背景が同じで一方的に話している時間が10秒続けば離脱します。ですから、私の場合はこちらから頻繁に質問を投げかけて視聴者がコメントしやすい空気感を作りますし、流れてくるコメントには間髪入れず私も返答します。
原田 インタラクティブ性を高めて、ユーザーを飽きさせずに居心地のいい雰囲気を作るわけですね。
ゆうこす もう1つ、居心地をよくするポイントは、見てくれているファンの方々に「役割がある」ことです。SNSでもリアルな学校や会社でも、人は自分に役割があって初めて居心地がいいと感じられるのだと思います。
例えば、生配信でモテるコーディネートの紹介をしようと、私が画面を外れて着替え中のとき、途中から見たユーザーにも分かるように「誰か、ゆうこすは着替え中とコメントしておいて」とファンの方にお願いしたり、モテるコスメを紹介した後、「今日見せたコスメの情報を誰かTwitterで拡散してもらってもいいかな」と依頼したりしています。
今では、一人ひとりが役割を意識することはだいぶ浸透していて、初めて生配信を見るライト層から「ゆうこすさんはどんなカラコンを使っていますか?」といったコア層にとっては常識的な質問が出ると、すかさず誰かがコメントで教えてあげるなど、自主的なコミュニケーションも見られます。そうして、みんなに役割を持ってもらい、居心地をよくすることこそが、SNSのコミュニティで大切な要素だと思いますね。
原田 コアな層、ほどほど層、エントリー層ごとに、SNSや投稿・発信内容、タイトル、ハッシュタグを使い分け、彼らに役割を与えてあげる。昔の月9のドラマにだけ出ていればよかったタレントと比べると、本当に手間暇がかかるようになっていますよね。凄い。
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