サイバーエージェント次世代研究所の原田曜平氏と、ミレニアル向け動画制作で先端を走るワンメディア代表、明石ガクト氏の特別対談の後編。加速度的にビジュアル化が進むネット社会において、動画ネーティブな若者に響くコンテンツをどう作るか。動画ビジネスの今後を占う。
原田曜平氏(以下、原田) 明石さんは著書の『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』(幻冬舎刊)にあるように、若者の共感を生む「動画2.0」を提唱されていますが、従来の「動画1.0」との違いをどう定義していますか?
明石ガクト氏(以下、明石) 動画1.0とは、簡単に言えばYouTuberのこと。彼らは動画の先駆者で、個人の生活や特定のテーマを発信してきた人たちです。2006年ごろから存在していましたが、当時はビデオブロガーと呼ばれ、基本的にはブログの延長線上にあって、ブログの動画版という位置付け。ですので、視聴者はその人自身を見たくてフォローするわけで、テレビで言えば「冠番組」のようなものです。
一方で動画2.0では、誰が出ているかは問題ではない。見られるために決め手になるのは、若者が関心のある「イシュー」や「価値観」に刺さるかどうかです。それをハッシュタグで検索し、同じイシューや価値観を共有するインフルエンサーをフォローして、その人が紹介する情報を追う。
重要なのは、そうした価値観の“ハブ”になるような動画コンテンツを作れるかどうか。我々の「ONE MEDIA」でも、テレビで活躍する有名人を出してコンテンツを作ったことがありましたが、あまりうまくいきませんでした。若者が持っている価値観をベースに企画を立てないと、見てもらえない時代に突入しているのです。ONE MEDIAでも、ユーザーと同じ価値観を共有できる20代の若手に、動画制作をどんどん任せています。
原田 前回(明石ガクト×原田曜平 「動画」と「映像」の違い。それが問題だ)、明石さんは情報密度「Information Per Time(IPT)」が高く、当事者を出すことが、若者向けの動画ではカギになると言っていました。その視点を盛り込んだ代表作を教えてください。
明石 例えば、作家やクリエーター、学者やアーティストの頭の中をのぞく知的ショートドキュメンタリー「ONE INSIDE GREAT MINDS」があります。これは、Instagramで配信している動画で、トヨタ自動車のレクサスがスポンサーになっています。
といっても、レクサスのプロダクトは動画に登場せず、テレビでいうところの番組提供のスタンス。若者に支持されているアーティストやダンサーの発想の原点に迫るドキュメンタリーで、それを知ることはミレニアル世代にとって非常に良い体験であり、レクサスがそれを支持しているブランドであることを暗に示し、若者たちの共感を得るのが狙いです。
動画を見てもらえれば分かるのですが、1人の出演者がユーザーとワン・トゥ・ワンの関係になって語りかけるような演出が特徴的。テンポが速く、洗練されたタイポグラフィー(文字を効果的に見せる技法)も多用し、情報密度も濃い。例えば、出演者が「オセロみたいに……」と話すと、オセロがひっくり返っていくCGをビジュアライズするなど、視覚を楽しませる仕掛けも随所に盛り込んでいます。
動画はたった3秒でジャッジされるから、その短い時間で視聴者をコンテンツに引き込み、さらに10秒までの間に最後まで見ようと思ってもらわないと負け。そのために、視聴者が感情の整理にかかる時間を作ったり、ストレスのない最適なテンポを作ったりと、「時間軸のコントロール」が重要だし、インフォグラフィックスで図解に落とし込むことで、文字にすると難解な内容をヴィジュアルで伝えることも求められます。こうしたヴィジュアルストーリーテリングの技術を駆使することで、スマホやデジタルサイネージでサムストップ、フットストップしてもらえる動画になるわけです。
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