若者研究の第一人者として知られる原田曜平氏が「若者発ヒット」を紹介する本連載の特別編。ミレニアル世代向けの動画コンテンツ制作で先端を走るワンメディア代表、明石ガクト氏との対談の前編をお届けする。現代の若者に刺さる「動画」とは、そもそも何か。

ワンメディア代表の明石ガクト氏(写真左)と、サイバーエージェント次世代生活研究所所長の原田曜平氏
ワンメディア代表の明石ガクト氏(写真左)と、サイバーエージェント次世代生活研究所所長の原田曜平氏

 「若者のテレビ離れ」が叫ばれて久しい昨今、彼らが代わりに視聴しているのが、手のひらの上のスマートフォンで楽しめる動画だ。すさまじい勢いで加速している動画シフトに、企業もメディアも追いつけていないのが現状だろう。今後10年、20年たてば、消費の主軸になる動画世代の若者が共感する広告や番組、コンテンツはどうすれば生み出せるのか。

 その“答え”を知る、1人の先駆者がいる。ミレニアル世代向けの分散型動画メディア「ONE MEDIA 」の運営や、動画コンテンツの制作を担うワンメディア代表の明石ガクト氏だ。同氏は、2018年11月に書籍『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』(幻冬舎刊)を出版し、新時代の動画ビジネスについて精力的に発信を続けている。サイバーエージェント次世代研究所の原田曜平氏が、明石氏の“動画観”に迫った。

「テラスハウス」は映像か、動画か?

原田曜平氏(以下、原田) 私が進めている若者研究をベースに、企業に広告の提案などをする際に、常に行き当たる壁があります。それは、若者向けに最適な広告パッケージや動画コンテンツを提案しても、最終的に「若い子にはいいけど、中高年が見たら引く」「とがり過ぎ」と批判され、ボツになるケースが多いこと。しかし、幼少期からスマホや動画に慣れ親しんだ世代の先頭が、今や大学生となり、いずれは団塊の世代を逆転してマス消費者になろうとする中、いつまで上の世代ばかり見てものを作るのか。まさにジレンマを抱えています。

 その意味で、ネット広告やスマホ広告に強いサイバーエージェントのような大手のみならず、明石さんのような新しい発想で若者に向けた動画を作る人が出てきたことは、とても心強い。早速ですが、まずは明石さんの人となりを教えてください。

明石ガクト氏(以下、明石) 僕は現在のワンメディアの前身となる会社を14年に立ち上げ、ミレニアル世代向けの動画を制作しています。設立した時、米国では「VICE Media」や「Vox Media」「Refinery29」など、僕が昔好きだったMTVやとがった雑誌のような世界観で、洗練された動画をインターネットで流すメディアが目立ち始めており、日本にもいずれこの波が来る、自分もやってみたいと思ったのが、ワンメディアを創業したきっかけです。

 当時はまだ早すぎた試みでしたが、ここ数年でスマホのみならず、街頭のデジタルサイネージ、電車やタクシーの車内など、あらゆる場所で動画が頻出し、さながら「街中が動画化」している。19年は歴史上、最も多くの人々がディスプレーとカメラを持ち歩き、動画の発信者にも、受け取り手にもなれる時代になります。もはや、テキストコンテンツではなく、動画を使ったビジュアルで情報を伝えることが常識になり始めているのです。

 そうした中、ワンメディアでは、動画を作るところからSNSで届けるところまで、ワンストップで展開しています。手前ミソな言い方ですが、自分たちがやってきたことにようやく時代が追いついてきたことを実感しています。

原田 ミレニアル世代より前の40代以上の方々は、テレビ番組やテレビCMを見て育ってきた世代ですが、それらとミレニアル世代向けの動画とは、どこが違うのですか?

明石 それを理解するには、まず「映像」と「動画」の違いを認識する必要があります。一般的に、テレビに流れるCMや番組は映像、スマホで視聴するものを動画とする見方もありますが、その区別では曖昧。例えば、Netflixで人気コンテンツの「テラハ(テラスハウス)」は、受像機としてはテレビでもスマホでも見られますが、果たして映像なのか動画なのか。どちらだと思いますか?

原田 なるほど、難しい問いですね。

明石 結論から言うと、僕の理解ではテラハは映像なんです。では、映像と動画はどこが決定的に違うのか。それは、動画は時間当たりの情報の密度が“圧倒的に濃い”ということです。

 僕は、この情報密度のことを「Information Per Time(IPT)」と勝手に名付けていますが、この「情報の凝縮」こそが動画の真骨頂。これを真っ先に体現したクリエーターたちが、何を隠そうYouTuberです。彼らが多用する、会話の間を極端に編集でそぎ落とす「ジャンプカット」という手法や、料理動画サイトの「Tastemade」が生み出した早回し料理動画などは、IPTを濃くする好例でしょう。

IPTの高い動画(図版下)は、情報が凝縮されたコンテンツ
IPTの高い動画(図版下)は、情報が凝縮されたコンテンツ

原田 つまり、受像機の画面が大きかったら映像、小さかったら動画という認識は誤りであり、動画と映像は“時間軸”によって分けられると。

明石 その通りです。例えば、テラハでも、テレビのドラマやドキュメンタリーでもいいのですが、これから1時間番組をじっくり見ようと「視聴態度」ができ上がっている人が対象なら、最初の5秒間で黒い画面から文字がゆっくりとフェードインしたり、日常の何気ないシーンから始まったりする演出は有効なわけです。

 しかし、動画でそんな演出をしたら、すっとスクロールされて終わり。ユーザーは、電車を待っていたり、友人と待ち合わせをしていたり、そんなわずかな時間を埋める動画を探しています。冒頭から目を引く斬新な映像、ものすごい印象的なひと言などのフックを作らなければ、サムストップして(親指を止めて)もらえないのです。

 さらに全体の尺も2~3分に収めないと最後まで見てもらえない。だから、情報を凝縮してIPTを濃くせざるを得ない。1時間番組を見ようとしている人の最初の5秒と、FacebookなどSNSのフィードをスクロールして、偶然流れてくる動画を見る人の5秒は同じ価値ではないのです。駅ナカにあるデジタルサイネージや電車内のモニターにも同じことが言えるわけで、足を止め、目にとどめてもらうためには、IPTを濃くした“動画”である必要があります。

“勝手に”若者離れする企業やメディア

原田 視聴態度ができ上がっていない人に対し、短い時間に情報を凝縮して送り届けるのが動画であると。とても分かりやすい定義です。

明石 今の若い人たちは、物心ついたときからパソコンやネットがあり、学生時代にスマホを手にしている世代。テレビよりも一番自分に近いデバイスであり、普段から持ち歩き、情報源として、あるいは情報発信のハブとして使っているのがスマホです。

 注目すべきは、その中での時間軸がめちゃくちゃ速いこと。テレビと違って、ネット上にはコンテンツが無限にあり、それらをできる限りチェックするために、いや応なしに処理スピードが速くなる。例えば、出会い系アプリの「Tinder」で、顔写真を見て「アリか、ナシか」を判断するのにかかる時間は平均0.6秒とも言われています。つまり、1秒以下で“将来の恋人”を選んでいるわけです。LINEの返信も、中高年から見たらあり得ないくらい速いですよね。

 そんな猛スピードの情報処理が当たり前の若者にとって、テレビ向けのどんと構えた重厚感のあるコンテンツは、いかにもゆっくりでまどろっこしく見える。例えるなら、悠々と航行する巨大な豪華客船。その横を若者たちはスピードボートでビュンビュンと走っているわけです。

 YouTubeが上陸して10年がたち、それを見て育った若者が、今や社会に出る年齢になり、これから世の中を動かそうとしている。そんな時代のターニングポイントであるのに、今の日本の企業もメディアも、若者向けのコンテンツに手を出したがらない。多数決の論理で言ったら、今はまだパイがなさそうに見えますからね。

ワンメディア代表、明石ガクト氏。1982年静岡生まれ。06年上智大学卒業。14年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべく創業。Facebook、 Twitter、LINE、SmartNews、Gunosyの公式動画パートナー
ワンメディア代表、明石ガクト氏。1982年静岡生まれ。06年上智大学卒業。14年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべく創業。Facebook、 Twitter、LINE、SmartNews、Gunosyの公式動画パートナー

原田 確かに以前に比べて日本の若者人口は減っており、消費意欲が停滞してお金も使わなくなっている。広告主から見たら、ダブルでパイが縮んでいるように見えるから、あらゆる業界で“若者離れ”が起こっています。10年以上前から「若者の〇〇離れ」と言われ続けていますが、実は先に離れているのは、既存の企業やメディアの方。結果的に自分たち向けの商品やコンテンツがないから、若者たちが離れざるを得なくなっているのが本質です。

明石 では、自分たち(若者)をしっかり見てくれているメディアがどこにあるのかと言えば、今ですと、YouTuberやInstagramなどのインフルエンサーが、その役割を担っています。「誰をフォローするのか」という形にメディアの見方がシフトしており、それぞれが関心を持つ「イシュー(課題)」でつながっている。それは国籍や人種を超えたイシューであり、例えば性的少数者の「LGBT」の話だったり、海外のどこでも働けるという価値観だったり、海外で暮らすことだったり……。そういった彼らが興味を持つことを、彼らの目線で語る既存メディアは、残念ながら日本には皆無でしょう。

原田 確かに、メディアも広告主の企業も、パイが大きな団塊世代を意識したコンテンツ作りからなかなか脱却できない。例えば、いまだに「荒れる成人式」をテーマにした番組が放送されていますが、実は、成人式は最近荒れなくなってきている(笑)。それなのに、コメンテーターに荒れる若者を叱ってもらい、それを視聴した中高年が留飲を下げるという、お決まりのパターンを作りたがる。若者が、自分たちがディスられるばかりの番組を見ようとしないのは当然のことです。

 もし、明石さんが若者と成人式をテーマにミレニアル世代向けの動画を作るとしたら、どんな内容にしますか?

明石 僕らが動画を作るときに最も注意していることは、変にセンセーショナルな“創作”をして再生回数を稼ぐことではなく、若者の共感、深いエンゲージメントを得ることです。そのために死守しているのが、必ず「当事者」を出すということ。ワイドショーでやるように、成人式と全く関係のない中高年のご意見番にコメントさせることは、断じてしません。

 例えば、まず成人式実行委員の20歳の若者に話をさせ、それに反対のポジションを取る人を当てるなら、成人式で暴れた若者に被害を受けた居酒屋の店長など、明確に事象を共有している当事者だけで作ります。徹底的にリアルでないと、ミレニアル世代のハートには刺さりません。今は荒れなくなってきているのに、「荒れる」というのでは、若者の実感値と違うので、納得も共感も得られるはずがないわけです。

 では、視聴者と深く結び付くエンゲージメントの高いコンテンツとは何か。僕らは、下のように動画によるエンゲージメントを「4つのE」に分解して実践しています。これらを視聴者に約束し、「世界が変わる体験」を提供すること。それだけを追求しているからこそ、熱狂的なコミュニティーにも刺さるし、若者にも受け入れてもらえる、そう考えています。

エンゲージメントを生む「4つのE」
Empowering
(あなたを心から励ます、味方になるストーリーを選ぶこと)
Entertaining
(あなたの1日が、幸せになるような動画を届けること)
Enlightening
(あなたの知りたい情報を正しく、適切に選んで伝えること)
Emotional
(あなたの心が揺さぶられる、感動が止まらないヴィジュアルを作ること)

(2月21日公開の後編に続く)

(写真/高山 透)