「アマゾン・エフェクト」対抗策を模索する米ウォルマートのデジタルシフトを描く特集第4回。同社を震源地に米IT(情報技術)大手を巻き込んだ、流通業界の新たな地図が描き始められている。2018年7月17日、ウォルマートと米マイクロソフト(MS)は共同で、リテール分野における戦略提携を発表した。ウォルマートは自社でITの要員を多く抱え、システムの多くを内製することを競争力の源泉にしているが、大きな転換点に立ったと言える。

内製派のウォルマートが外部連携に舵
今回の提携によって、「walmart.com」など主要なWebサイトをMSのクラウドサービス「Azure」に移行させる。そのためにAzureなどMSのクラウドサービスをフルに利用できる5年契約を結んだ。ウォルマートとMSのエンジニアは何百ものアプリケーションを移行するために協力していく。Azureには、将来を予測するためなどに使う機械学習やAI(人工知能)関連の様々な機能が用意されており、開発スピードを加速することに生かす。
MSとは極めて広範な提携に踏み込んでいる。MSのクラウドサービスを利用して、従業員の働き方改革にも取り組む。また、IoTの分野ではMSと、空調や冷蔵庫など機器管理、サプライチェーンのトラックのルート最適化などに取り組むという。MSはアマゾンの無人店舗Amazon Goに必要となる、センサーやAI・機械学習のテクノロジーも十分に保有している。
ウォルマートのダグ・マクミロンCEO(最高経営責任者)は「我々のクラウドプラットフォームと組み合わせたり、機械学習やAIを活用してよりスマートに働いたりするために、マイクロソフトは我々のイノベーションの能力をより一層加速することができるパートナーであると信じている」と力を込める。
巨大IT企業とともにアマゾンを包囲
今回のMSとの提携によって、ウォルマートは米巨大IT企業のトライアングルの中央に位置することとなる。
17年8月、ウォルマートは米グーグルとインターネット通販の分野で手を結んだ。グーグルとはスマートフォンやAIスピーカーなどから音声でも注文できるネット通販サービス「グーグル・エクスプレス」で提携し、アマゾンの十八番の音声注文に対抗した。ただし、ウォルマートのネット販売の売上増に大きく寄与しているという話は聞こえてこない。

今回の提携によって、ウォルマートはアマゾンのクラウドサービスやAI分野での宿敵である、グーグル、MSと手を組んだことになる。「敵の敵は味方」で必然的にできた包囲網にも見えるが、ある日本の流通業幹部は「MSとの踏み込んだ提携は自然な流れで、基幹のクラウドサービスではグーグルを採用しない距離感の取り方も絶妙。さすがウォルマートだ」と解説する。
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