今ひとつの巨人が世界の流通業界を震撼させている。米アマゾン・ドット・コムという巨人だ。同社が巻き起こす暴風にいかにして抗うかが、流通企業にとって喫緊の課題になっている。そこで「世界で唯一、アマゾンに対抗できる企業」といわれる米ウォルマートに注目。そのデジタルシフトを詳細にレポートする特集第2回は、米国在住の流通コンサルタントでウォルマート・ウオッチャーでもある後藤文俊氏が、ECの進化とオムニチャネル化を加速している“2人のCEO”(最高経営責任者)の動きを軸に、ウォルマートの今を概括する。

ウォルマートは2018年2月、登記上の社名をウォルマート・ストアーズからウォルマートに変更した。社名から「ストアーズ」を省くことで、実店舗によるサービス提供にとどまらない、リアルとオンラインとをシームレスにつないだ買い物体験やサービスを提供する会社に変わるという決意がうかがえる。
この社名変更に先立つ17年9月には、アーカンソー州ベントンビルの本社地区に、西海岸のハイテク企業のような新しい本社ビルを建設することも発表している。本社周辺に散らばるオフィスを1つのキャンパスにまとめることで本社業務の効率化を図り、より魅力的な職場環境とし、優秀な人材を確保しやすくする狙いがある。実際、デジタルネーティブ世代を意識したさまざまな機能性を持たせる計画となっている。広大なパーキングにぜいたくな社員食堂、フィットネス施設、自然光を取り入れた明るいオフィスが完成すれば、伝統ある小売業のイメージからの脱却が、また一歩進むだろう。
3300億円投じた「ジェット」買収が転機に
だが、ここ数年におけるウォルマートの変化を何よりも象徴するのは、ネット系スタートアップを相次いで買収していることだ。16年8月にネット通販のジェット(Jet.com)を約3300億円という巨額を投じて買収したことは大きな話題となった。
その後も靴のオンラインショップ「シューバイ」、アウトドア用品販売「ムースジョー」、ビンテージ・レディース・ファッション「モドクロス」、オンライン・メンズアパレル・ブランド「ボノボス」、宅配サービス「パーセル」を買収。自社のECサービス充実に役立てようとしている。
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