奥谷孝司氏と岩井琢磨氏がオンラインとオフラインとにまたがる「場」で進行中のデジタル革命を追う本連載もついに最終回。九州発の大ヒット商品「九州パンケーキ」を深く分析しつつ、この国で進行中の場の革命を総括する。

 地方には、生き残りへの圧倒的な危機感がある。レタス巻き発祥の名店として愛される宮崎の老舗寿司店、「一平寿し」の二代目である村岡浩司一平ホールディングス社長は、板前として立っていた一平寿しのカウンターから、それを強く感じていたという。

 「米国に留学して戻ってきて、宮崎で起業して28歳で失敗して、そこからまだ父も元気だったので助けてもらって、寿し屋になったんですね。その間にだんだん飲食業の世界が見えてくると、やっぱりカウンターのみの立ちの寿し屋がこれから厳しくなるというのは、感覚的にやっぱり身にしみて分かる。人口が減り競合が増える中で、打ち手がないわけです。それは日本で最初に加盟したタリーズの店舗を開いた時も同じ。出店した商店街の理事になって、商店街の活性化というようなこともやったんですが、一生懸命イベントをやって、あれもやってこれもやっているけど、結果としては近くに大型モールができれば、人通りも減って一気に空き店舗も増えていく。これって何なんだろうと」

 そしてこう続ける。「人口も経済も縮小しているのに、内需型だけでやっていたら、どのみち僕の会社は死ぬんですよ。だから宮崎から離れたまったく違うことをしないと、そこからの振り幅はない。地元にしっかりと根を張り続けながら、外のマーケットで稼ぐ仕組みを作っていく。新しいことを連続して生み出していかないと未来はない。もちろん大変なときに未来を語るのは、最もしんどいことで、最もクレージーなことなんですけど、でもそこはしょうがないんですよね」

九州という場にこだわったビジネスを展開する一平ホールディングス社長の村岡浩司氏
九州という場にこだわったビジネスを展開する一平ホールディングス社長の村岡浩司氏

 さらに村岡氏は、2016年4月14日に発生した熊本地震で地元宮崎と自身の会社が大きな打撃を受けたことに触れ、そこからの学びについて以下のように語る。

 「人と人が支え合う『絆』や『共感』によって生まれる新しい出会いが、ときに社会のルールを変革し新時代を切り拓くきっかけになるということだ」

 これは自然災害に直面した中での学びであると同時に、氏が目指す事業の根幹に深く影響する言葉でもある。地元と顧客とのEngagementを核に据え、新しいモデルに挑む村岡氏の発想が、実によく表れている言葉だ。

 「Engagementを核に、マーケティングモデルを革新する」という取り組みは、多くの企業が頭では分かっているが、行動に移すことは難しい。しかし村岡氏のこの言葉は、危機感を共有し強い結びつきを持つ地方だからこそ、それが実現できる可能性を示唆していると思うのだ。Engagementを外に求めるだけでなく、目の前にあるローカルマーケット、さらに目の前の顧客に思いをはせることの重要性は、今のマーケティングに欠けている視点かもしれない。

場の革命とデジタル化

 これまで「場の革命」と題して、17回にわたって連載を続けてきた。取り上げてきた企業事例に見る通り、「場」とは店舗にとどまらない。「顧客とのつながりを築く、顧客接点の全て」である。本連載では、そこでいかに他社にない「顧客にとって価値のある体験」を提供しているか、そしていかにそれを起点とした「マーケティングモデルの革新」を引き出すかを焦点に据えて解説してきた。

 事例として、連載第1回で紹介した「Amazon Go」に続き、オフライン企業の例として九州を中心に展開するトライアルを、オンライン企業の例としてYAMAPを取り上げた。そして場の革命において、「どこに注力すべきか」という戦略の違いを、中国アリババとAmazonの対比によってみてきた。

 そして最後に、デジタルやデータ活用に頼らず、オフラインを中心にすぐれた場づくりを展開する九州パンケーキの事例を紹介した。ここでは、「優れた場」づくりには、デジタルやデータ分析が必ずしも必須要素とは言えないことを示した。

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