奥谷孝司氏と岩井琢磨氏がオンラインとオフラインとにまたがる「場」で進行中のデジタル革命を追う本連載。今回は中国・アリババ集団がなぜ個人信用格付けに挑むのか、その背景に迫る。
前回記事では、筆者らのアリババ集団視察の際に印象深かった盒馬鮮生のグローサラント体験を通じて、アリババが店舗体験において、「使用時間」を米Amazonよりも重要視していることを解説した。
ただこれは盒馬鮮生に限った話ではない。アリババという一段高い視点から見ても、彼らが「使用時間」に深く関与しようとしていることが分かる。
アリババ傘下のアント・フィナンシャルサービスグループが運営する「支付宝」(アリペイ)がその典型例だ。今や支付宝は、ありとあらゆる店舗の決済システムとして広く普及している。支付宝を使う加盟店の手数料を実質ゼロに、さらに審査不要にしたことによって、利用する店舗数は爆発的に増えた。
大型チェーン店から露天の屋台まで、スマホ決済が利用できる環境を生み出すことによって、アリババは盒馬鮮生のような自社主導の店舗だけでなく、幅広い店舗や接点から顧客行動データを集められるようになった。
このように、多くの顧客に自社の決済システムを使わせることによって、アリババは登録情報や利用履歴などから個人の信用力を格付けする、「芝麻(ゴマ)信用」という独自のシステムを築いた。これが買い物の際だけでなく、就職や結婚の際にも個人の信用力を証明するツールにもなっているという。
ECの利用状況や資産などを基に個人の信用力を点数化し、そのスコアが高いほどさまざまな優遇を受けられるため、利用者が能動的にクレジットカード支払い履歴などの個人情報を提供する仕掛けになっている。
例えば所有している車や学歴、さらに支付宝の利用などから、信用力を判定。個人の信用力は350~950点の範囲で格付けされるという。スコアが高いほど、さまざまな企業から優待が受けられる。例えば賃貸住宅の敷金、ホテル宿泊料、ローン金利の低下、レンタルサービスのデポジット免除などだ。
つまりアリババは、その重点を「決済システムによって顧客とのつながりを築くこと」に集中したのだ。そのために自前の場(Place)にこだわらず、このシステムをオープンにし、多様なプレーヤーをつなぎこめる状態を築いた。今や支付宝を軸にしたつながりは小売りにとどまらず、通販、金融、医療などにも及び、すでにその利用者数は6億人に達するといわれている。この大量の顧客行動データが芝麻(ゴマ)信用というパーソナルプライシングの仕組みを生み出したのだ。
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