オンライン・オフライン双方の企業が挑む「場の革命」に迫る本連載。今回は中国のアリババ集団が志向する「ニューリテール」を「盒馬鮮生」(ファーマーションシェン)などの事例から読み解く。

 ここまでAmazon Goに続き、オフライン企業の例として九州を中心に展開するトライアルを、オンライン企業の例として、登山地図アプリ「YAMAP」を展開するやマップを取り上げ、各社が進める「場の革命」を解説してきた。

アリババが展開する食品スーパー「盒馬鮮生」(フーマーションシェン)の店内(筆者撮影)
アリババが展開する食品スーパー「盒馬鮮生」(フーマーションシェン)の店内(筆者撮影)

 これらの企業は、顧客とつながる「優れた場」を築き、これを基点に独自のマーケティングモデルをつくりあげていた。つまり場の革命とは、店舗や顧客接点の革新にとどまらない。新たな機能を持つ場を基点とし、そこからマーケティングモデルの革新を引き出すことである。

 店舗のデジタル化は、それだけで大きな投資であるし、顧客の購買体験は大きく変わる。事実Amazon Goなどでの買い物は、顧客としてもワクワクする体験だ。しかし店舗のデジタル化といった視点だけでは、その取り組みの全体像は見えてこない。店舗のデジタル化それ自体は手段(How)に過ぎない。問題は「なぜ(Why)」、それに取り組むのかという環境認識と、「何を(What)」重点として取り組むのかである。

 なぜこれに取り組む必要があるのかは、これまでの連載でも触れた。ここからは、「何を」重点とするかについて考えたい。それがこれからの競争戦略上の、重要な意思決定になると思うからである。

顧客の全てのリクエストに応える盒馬鮮生

 同じ場の革命であっても、「何を(What)」重点にするかによって、具現化する店舗も戦略も変わる。このことを考えるに当たって参照すべきは、やはり「盒馬鮮生」(ファーマーションシェン)などを展開する、アリババ集団の取り組みだろう。

店内のあらゆる商品にタグが付いている(筆者撮影)
店内のあらゆる商品にタグが付いている(筆者撮影)

 アリババが目指す「ニューリテール」については、さまざまなメディアで報道されている。オフラインとオンラインとの融合、テクノロジーの活用、そして新しい購買体験。新しいリテールの姿を誰が示すのか、以前は圧倒的にAmazonがその先端として注目を集めていたが、着実にリテールの姿を実現しつつあるのはアリババの方かもしれない。

 筆者らもアリババが2018年4月に開業した杭州のニューリテールSCである「亲橙里」(チンチェンリー)を体験した。そこには食品スーパー盒馬鮮生や、「天猫精霊」(ティェンマオジンリン、アリババのAIスピーカー)を販売する小売り店舗などがあり、ニューリテールの壮大な実験場のような場所だ。しかし既に多くのメディアでも取り上げられているので、本稿ではその体験を事細かに記すことは避け、顧客時間の視点から彼らの戦略を理解してみたいと思う。

 以降でいくつかのフレームを使い、アリババの戦い方を解釈する。いわばフレームによる思考実験に過ぎないが、その価値はある。事例を事例としていくら見たところで、多くの小売りがアリババにも盒馬鮮生にもなれない。しかしその取り組みを解釈する視点を持つことができれば、自らの方向性を考察する足掛かりにできるからだ。

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