オンライン・オフライン双方の企業が挑む「場の革命」に迫る本連載。今回は登山地図アプリ「YAMAP」を運営するヤマップが仕掛ける、顧客とのつながりを軸とした異業種競争を読み解く。

ヤマップが目指すマーケティングモデル「Engagement 4P」
ヤマップが目指すマーケティングモデル「Engagement 4P」

 登山地図アプリ「YAMAP」を展開するヤマップの戦い方は、アウトドア業界から見れば、まったく新しいものだ。これまでのアウトドアブランドの戦い方は、商品(Product)が基点だ。自社が思う良き商品をつくり、価格(Price)を設定し、販促(Promotion)を企画し、自社が持つ独自のブランド店舗やECサイト(Place)で売るという思考フローだ。

 これに対して、出自がメーカーですらないヤマップは、自社の製造ラインを持っているわけでもないし、店舗は今のところは1つもない。既存の競争においては、そもそも資源がないということになる。これまでのアウトドアブランドから見れば、競合にすら見えないかもしれない。

つながりによる異業種競争

 しかし、Engagementという顧客とのつながりが、これからの競争要因になるとしたら、どうだろうか。ヤマップが持つ会員数は既に100万を超え、大手のアウトドアブランドが持つそれを凌駕する。顧客のことを顧客との直接のつながりから理解し、そのデータを基に商品を生み出し、それを必要としている顧客に直接届けることができるとしたらどうだろう。

 そしてそれが、登山やアウトドアを愛する人々のコミュニティー内で広がっていくとしたら、どうか。

 アプリYAMAPはユーザーにとって、登山の安全性を高めてくれるだけでなく、ユーザー同士との結びつき、さらにはより良い商品をも提案してくれる、登山のプラットフォームとして位置付けられることになる。

「売り上げだけを追い求めた大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたビジネスは、必ず限界が来る」と話すヤマップの春山慶彦社長
「売り上げだけを追い求めた大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたビジネスは、必ず限界が来る」と話すヤマップの春山慶彦社長

 ヤマップの春山慶彦社長は、次のように語っている。「現代は、作り手と使い手が完全に分離している社会。それは本来とても貧しいことなんだと思います。単に売り上げだけを追い求めた『大量生産・大量消費・大量廃棄』を前提としたビジネスは、必ず限界がきます。またそのモデルだと、アマゾンなどのグローバルプレイヤーには勝てない。そうではなく、本当にそれを必要としている人に、本当に良いものを厳選して届ける。我々は、ユーザーを知っている。彼らの声を直接聞き、そこから真に良い製品と、その循環を生み出すことができるはずです」。

 ヤマップは顧客とのつながりを武器に、まったく新しいマーケティングモデルによって、まさに「異業種競争」を仕掛けようとしていると言える。

Engagementを制すものが、すべてを制す

 もちろん、ProductやPriceの個客への提案は、ヤマップにとってまだ「これからの挑戦」である。春山社長が「まだまだヤマップは未熟、まだやりたいことの10分の1もできていない」と述べている通り、彼らのビジネスがどう進化していくかはまだわからない。

 しかしそのマーケティングモデルが完成した時、これまでのアウトドア業界で常識とされてきた戦い方は、根底から覆りかねない。既存プレイヤーにとって、無視できない存在になり得るのだ。

 ヤマップが示すEngagement 4Pの戦い方は、言い換えれば、「モノから始まるマーケティングモデル」への挑戦でもある。これまでの「モノからコトを生み出してきた企業」と、これからの「コトからモノを生み出そうとする企業」との戦いとも言える。そこには、従来の「メーカー」や「小売り」といった業界区分はない。顧客とのつながりを持っているかどうかが、勝負を分ける。いわばEngagementを巡る異業種競争が始まっている、と考えられるのである。

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