会長の「怒り」が沸点に達し、「もう、自分でやる」

 「そのクリエイターは、『僕は謙さんと仕事ができると思うと、鳥肌が立ちます』と言っていたんですよ。なのに、謙さんが何日もかかって考えた『怒り』が入ってない。『本当に自分で考えたの? 下請けに仕事させて、自分で考えていないんじゃない?』と聞いたら、黙っているんですよ。それで席を立って部屋を出たら、代理店の人が『2人もクビにされて、どうしたらいいんですか』と追いかけてきた。だから僕が言ったんです。『もう、僕がやります。下請けの、シナリオ書いてる人間をみんな呼んでくれ』と」(松村氏)

 こうして集まったプランナーたちに、コンセプトを話したという。

 「『渡辺謙さんの怒りと、表情をしっかりみんなに見てもらいたい。それにはTED風のプレゼン形式がいい。ナレーターを使うのは最後のスペック紹介のところだけで、役者さんに話してもらいたい。セリフを考えて、うまくやってください』と話しました。でも上がってきた絵コンテは、ナレーションばかりですよ。これはダメだと思って、夜の9時半から朝の4時半までかけて、1人で書き直しました。もう、原形をとどめていない」(松村氏)

 そこから撮影やCGの一流スタッフを集め、衣装も「代理店に頼むと予算内に収めようとして安っぽいものを持ってくるから」と、グッチやディオールなどのブランド服を自腹で用意したという。菊川怜は、この企画に合わせてキャスティングした。

 「菊川怜さんは、もともと僕がファンであったことで、(所属事務所の)オスカープロモーションさんから菊川さんはどうかとお話があり、ぜひにとお願いしました。脚がきれいなので、できればショートパンツをはいて、お尻で商品を踏んでもらいたいと思いました。

 尻踏みは、もうずっと前からやってるんですよ。石坂浩二さんのころから、座らせてきた。座らせるのに、長いスカートじゃつまらないじゃないですか。だから衣装合わせのときに菊川さんに相談したら、『いいですよ』と。『ハズキルーペ、大好き』とも言ってもらいたいんです、と話したら、『何でもやりますよ』と言ってくれてうれしかったですね。彼女が『大好き』というときのハートマークのポーズは、撮影現場で謙さんの意見を聞いて、胸元でポーズを取ることになりました」

 こうして企業のトップが自ら「総監督」した異例のCMを放送。すると、すぐに好感度トップ10入りを果たし、異色のCMとしてメディアがこぞって取り上げた。