冬の風物詩として長寿化している明治「メルティーキッス」のCM。過去2回の記事では新垣結衣出演シリーズの誕生秘話やクリエイティブディレクター・朝生謙二氏に聞いた成功要因を紹介した。今回は同CMのこだわりや苦労、クライアントとクリエイターの関係性などを探った。

人気シリーズでも「変えよう」という声がある
「明治 メルティーキッス」は27年目を迎えた冬期限定チョコレート。オリジナルソングで「♪雪のようなくちどけ~」と歌っているように、非常に溶けやすいため、気温が高い夏には販売できない。
2011年にクリエイティブディレクターに就任した、元アサツーディ・ケイ(現在、CM制作会社ハチミツ)の朝生謙二氏は、その商品特徴をCMで伝えるべく、「シズルカット」(商品をおいしそうに見せるカット)にこだわったという。
「それまでシズルカットは、メルティーキッスの上に溶けたチョコがかかるとか、ミルクがかかるとか、そういう表現が多かったんですよ。そこに『雪のようなくちどけ』というコピーが当たっていたんですけど、よく考えると商品は溶けてない(笑)。そこはやっぱり、溶けた方がいいだろうと思って、どういう映像にしたらいいか、真剣に向き合いました。そうして、チョコレートの液面にメルティーキッスが溶けながら沈んでいくという表現をご提案したんです。その時に撮影させていただいたものを気に入っていただいて、その後8年間、ずっと使い続けています」(朝生氏)
このシズルカットに加え、雪の中で新垣が『メルティーキッスの歌』を歌うという企画を変えないことでもブランディングに成功しているが、明治宣伝部の酒見康隆氏は「今年は変えよう、という声が毎年出てくる」と言う。
「商品は定番でほとんど変わらないので、特に営業から『CMぐらい変えた方が、商談がしやすい』という声が上がるんです。私も営業をしていたので気持ちはよく分かるんですが、こんなにお客さまに評価していただいているのに、変えることが正しいのか……。
正直、クリエイティブを変えることはできます。ですが、それが目的ではないよなと、毎回考え直しています。年々出稿量が減っている状況なので、少ない放送回数でもお客さまにしっかり認知していただけるものを使い続けた方がいい。その中で、素材を磨いたり、新しさを出したりしていった方がいいと考えています。商品のブラッシュアップと同じです」(酒見氏)
シリーズ化は、ともすればマンネリとなり、飽きられる可能性もある。しかし朝生氏は「このCMが飽きられるスピードは遅い」と言う。
「通年で展開しているCMだと、2~3年で変えざるを得なくなると思うんですけど、メルティーキッスは年に1回の季節もの。1年に4カ月しか流れないので、8年続いていると言っても、出稿量を足し上げたら通信会社のCMの1年分にも満たない。だから世の中の人には、まだ飽きるほど表現が消費されていないと思います。でも営業の方は年中、商品のことを考えていますよね。だから『変えよう』となるんじゃないかと思うんです」(朝生氏)
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