新垣結衣が雪原に置かれたピアノを弾きながら、「♪冬のキッスは、雪のようなくちどけ~」と口ずさむと譜面の音符がチョコレートになって降り注ぎ、新垣が「しあわせだなぁ~」と笑顔を見せる……。明治の冬期限定チョコ「メルティーキッス」のCMだ。
1992年の発売以来、今井美樹や森高千里、広末涼子ら旬の女性タレントを起用してきた同CM。2011年に新垣を起用してからは、アサツーディ・ケイ(現在、ハチミツ)の朝生謙二氏がクリエーティブディレクターを務めている。
「『新垣さんと雪の世界で、どういうものができますか』とオファーがありました。過去のCMを見ると、歌は当時はやっていたアーティストのタイアップ曲。明治さんには『チェルシー』や『カール』のような“歌もの”の成功例があるので、『これを機にオリジナル曲を作って、新垣さんに歌ってもらいましょう』と提案しました」
案が採用され、タッグを組んだCMディレクター・黒田秀樹氏に相談すると「唱歌のような曲はどうか」とアイデアが出たという。
「『めだかの学校』のように、小学校の先生がオルガンやピアノを弾いて、みんなで合唱するイメージ。僕もシンプルでスローテンポな曲がいいなと考えていたので、『なるほど』と思いました」。そうして誕生した、メルティーキッスの歌『冬のkiss』を新垣が歌うCMが、好評につきシリーズ化。今では冬の風物詩となっている。
「原点」を忘れずに長寿化
CM総合研究所が発表する好感度調査では、16年度にスコアが跳ね上がり、「菓子業類」の年間5位にランクイン。17年度と18年度はさらに順位を上げ、2年連続で3位をキープしている。冬期限定CMとしては、驚異的な順位といえるだろう。
だが、明治宣伝部の酒見康隆氏によると「CMの投入量は年々減っている」という。なぜ放送回数が減っているのに、CM好感度は上がり続けているのか。要因としては、16年に『逃げるは恥だが役に立つ』で国民的女優となった新垣人気の高まりが大きいだろう。またシリーズならではの「強み」もありそうだ。
「CMは普通、何回も見てもらわないと記憶に残らない。でもこのCMは、1回見ただけでも『またメルティーキッスの冬が来たんだな』と認知していただける。貴重な財産です」(酒見氏)
毎年、雪の中で歌うだけに見えて、「飽きられないよう、常に進化させてきた」と話すのは朝生氏。「『新垣さんの声だけのほうが強い表現になるんじゃないか』とアカペラにしたり、歌のテンポを上げて、余った1~2秒で新垣さんに商品のことを言ってもらったりと、年々進化させてきました。驚いたのは、16年から担当になった酒見さんから『音楽を戻しましょう』と言われたこと。11年のゆっくりとしたテンポに戻して、ピアノのオケも復活させました」
発言の意図について酒見氏は「過去作を何度も見直して感じたこのCMの良さは、心が和むところ。その良さは、ゆったりとしたテンポと音楽の心地良さからきていることに気がつきました」と話す。こうして原点回帰する一方で、「冬が訪れ、ポストに商品が届く」といったストーリーを加えて新味を出したり、最後の新垣のひと言をメルティーキッスに対する視聴者側の感想に変更したりと、細部をさらに進化。それが16年からの躍進につながったようだ。
18年10月から放送した冒頭の新作、「雪原のピアノ」篇は、菓子業類で好感度1位に(11月度)。全業類対象の銘柄別好感度でも7位に入った(11月前期)。酒見氏は「好感度の初速値は、過去No.1の16年に近い、素晴らしい数値」と喜ぶ。来冬もまた、ガッキーの歌声が視聴者を癒やしてくれるだろうか。
(写真/中川真理子)