都会を歩き続けた男が、いつしか森にたどり着く。「おかえり」という青年に、「あなたは?」と尋ねると、「ここの住人……とでも言うのかな」とさらり。そして「人間は、これからも二酸化炭素を出し続けたいのかと思ったよ」と切り出され、男は「まいったな」と苦笑する。2人は手を握り、ともに森の奥へと入っていく……。住友林業の企業CM「共生」篇だ。
「当社はハウスメーカーのイメージが強いと思いますが、林業に端を発した会社で、森林経営、木材建材の製造・流通、木造建築、バイオマス発電など『木』を軸とした事業を行っています。我々がずっと行ってきた『木を植え、育て、活用し、使った分はまた植える』という循環型の森林経営を加速させることは、二酸化炭素(CO2)の吸収量を増やすことにつながる。脱炭素社会に貢献する“環境先進企業”というイメージに転換していきたいと思いました」(住友林業コーポレート・コミュニケーション部グループマネージャーの平子佳美氏)
新鮮な森の見え方を模索
CM企画を担当したのは、サントリー「ほろよい」などのCMを手掛ける電通の統括クリエイティブディレクター・小野総一氏だ。
「CO2削減や脱炭素といったメッセージは、既にいろいろな会社が発信しています。そのまま伝えても横並びになるので、少し視座を上げて考えてみました。木や森には、人間が幸せを感じて暮らすことができたり、生物多様性を実現できたりといった力がありますよね。一方で、人は適切なタイミングで木を切り、森を若返らせることができる。互いを高める形で共存できたら、脱炭素にもつながり、人の暮らしも社会もより良くなると思いました」(小野氏)
そうして、『Good NeighborWood 森と人は、良き隣人になろう。』というコピーを考案。そこから、“隣人”となる森と人は、どんな会話をするのだろうかと想像を膨らませていった。
キャスティングでは、人役に小日向文世、森役に板垣李光人を起用。板垣は、2022年に『シジュウカラ』『silent』など3本の連ドラに出演した20歳のブレーク俳優だ。
「普通は、太古の昔からある森をおじいちゃん、人間を若者で表現すると思いますが、それでは面白みがない。住友林業さんは森を若返らせ続けているので、若くて神秘的な魅力を持つ板垣さんに森役をお願いしました。人は、今まで全力で走ってきたけれども、一度立ち止まって、新しい道を模索しているという設定。一線を長く走られてきた小日向さんに体現していただきました」(小野氏)
撮影では、既視感のない形で森を見せることにこだわったという。
「柔らかな光が差し込む優しい森、というステレオタイプな森林とは違う、新鮮な見え方を探りました。演出をお願いした江藤尚志監督は、満島ひかりさんがチーターと共演した『カロリーメイト』(14年)や、22年のUber EatsなどのCMを撮られている方。海外生活が長く、スタッフも外国の方なので、従来の日本人とは違う森の切り取り方をしてもらえたと思います。とはいえ、現場で何か特殊なことをしたかというと、そうではなくて。ロケ地の森に行って、圧倒的な生命力や圧倒的な美しさを感じたので、それらをしっかり捉えて映像で伝えられたら、新鮮な森の見え方になるんじゃないかと感じました」(小野氏)
22年9月30日から「共生篇」を放送すると、SNSで「癒やされる」「森の美しさに感動した」などと大きな反響を得た。ツイート数は、オンエア前と後の1カ月で、約20倍に跳ね上がったという。
この記事は会員限定(無料)です。